第2ー7話 山賊の頭と笹子の怒り

 獰猛かつ、知性まである半獣族達は、縄張りに入ってきた虎白と竹子に飛びかかった。やむなく刀を振るう虎白は、この極限の中で考えていた。

 果たして彼らを斬り捨てていいのだろうか。山賊と言えど、天上界の住人だ。


「竹子斬るな! 刀背みね打ちで倒せ!」

「そ、そんな余裕ないよお」

「ダメだ殺すな!」


 刀を持ち直した虎白は、刃を自分の方へ向けている。獰猛な半獣族達は、そんな気遣いを知る由もなく、襲いかかった。

 彼らの攻撃を受け止めたが、半獣族の強烈な突進を前に、刃が肩へとめり込んでいる。竹子も同様に、今にも白くて綺麗な顔が、食い破られそうだ。


「も、もう無理だよ虎白!」

「とんでもねえ身体能力だ......し、仕方ねえ、殺られる前に殺るしかねえか......弱肉強食の掟は、半獣族の日常だもんな......」


 食い殺される前に、刀を再び持ち直した。そして突き刺そうとした。


「止めな」


 女の声が響くと、獰猛な半獣族達が、虎白と竹子から離れた。


「な、なんだ?」

「あんたら二人だけかい?」


 立ち上がった虎白が前を見ると、半獣族を引き連れて、煙管きせるを吸っている女がいる。黒い着物に身を包み、黒髪をなびかせている絶世の美女の周囲では、獰猛な半獣族が驚くほど、従順に従っている。


「ここらは新しい私達の縄張りだから。 今回は見逃してあげるけど、次はないよ」

「お、お前......まさか山賊の?」

「ふっ。 そうだよ私がお頭さ。 なんか文句かい?」


 女が山賊の頭で悪いか。そんな剣幕で睨みつけている。腰帯に差している扇子を取り出すと、パタパタと仰ぎ始めた。


「なんで秦国の領土を縄張りにしてんだ? 他にもたくさんあっただろうが」

「大きい国の方が資源がたくさんあるってもんさ」

「略奪なんか繰り返しやがって......お前名前は?」

夜叉子やしゃこだよ。 狩人の夜叉なんて飛ばれてるさ」


 夜叉子は、平然と話すと、森の中へ消えていった。半獣族達は、再び襲いかかりそうな殺気を放っている。

 この日は、やむなく帰ることにした二人は、夜叉子という女山賊の話しをしている。


「大層な美貌を持ちながら、何も山賊なんてやらなくてもな」

「ど、どうしてかな? 資材を奪って仲間と分け合うのかなあ」

「さあな。 美人なのにもったいねえな」

「うーう......」


 美人美人と繰り返す虎白に、不満げな竹子だが、言葉には出さなかった。しかし、確かに絶世の美女であったが、何を理由に山賊なんて蛮行を繰り返しているのか。



 やがて白陸国の建設現場に戻った二人は、一息つくために、装備を外している。すると、鬼の形相をした笹子が、半獣族のように飛びかかってきた。


「うわあ!」

「どうして置いていくの!? 秦国の将軍から聞いたよ!」

「だ、だってお前は......」

「みんな死んじゃったら私は生きていけないの!」


 そう言って、虎白に馬乗りになる笹子は、大粒の涙を流した。純白の顔に降り注ぐ涙を、拭うこともせずに、笹子の泣き顔を見ている虎白は、静かに口を開いた。


「悪かった。 これからは、一緒に行動しよう」

「当たり前でしょ! もう置いていかないで! 私だって強くなるから! もう......誰も死なせない......」


 もしあの時、鬼兵と戦う力があれば。もしあの時、新納が盾にならずに済めば。

 笹子は天上界に来てから、連日そのことだけを考えていた。全ては、自分の弱さが招いた結果だと。虎白と竹子は、自責の念に苦しむ笹子に気を使って、二人で山へ向かったのだが、それが逆効果だった。

 泣きながら怒る笹子を優しく抱きしめた虎白は、耳元で呟いた。


「もう一人にはしない。 お前のことは俺が守る。 そしていつか、幸せになろうな」


 その言葉を聞いた笹子は、悲鳴のような号哭をあげた。白陸を作る上で、障害になる山賊退治へ笹子も連れて行くと、決めたのだった。

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