第2ー6話 自然の住人

 虎白は考えていた。山賊が、秦軍という大軍と互角に戦うにはどうしているのか。


「森や山という地形を活かした戦い方に違いない。 きっと兵力はそんなに多くないはずだ。 秦軍は大軍で森に入ったから、身動きが取れなくなったんじゃねえかな」


 隣で聞いている竹子は、静かにうなずいた。そして天上界に来てから、元気のない妹を見た。笹子は、新納の死という大きな傷を負っている。


「笹子は連れて行くのは止めよう......」

「そうだな。 とんがり帽子達も残して、笹子の面倒を見させよう」

「じゃあ二人で行くの?」

「そうなるな。 どうせ大勢連れて行ってもいいように撃退されるだけだ」


 こうして落ち込む笹子の見ていない隙に、虎白と竹子は森へと向かった。



 作業現場から馬で走ること一時間あまり。二人の眼の前には、巨大な木々が立っている。まるで入る者を拒むかのように、不気味に風になびいて音を立てている。


「じゃあ行くか。 馬は置いていこうぜ」

「わかった」


 馬から降りた虎白は、大きく息を吸い込むと、空中へ飛び跳ねた。すると姿が、人間と狐を混ぜたような姿から、純白の四足歩行の狐へと変わった。

 普通の狐よりも大きい虎白は、背中に竹子を乗せると、森へと入っていった。


「す、凄いね虎白......」

「これが本当の俺の姿だ」

「白くて綺麗な毛並みだね! ふふっ。 モフモフだあ」


 頬を赤くして興奮する竹子は、虎白の白い毛並みを撫でている。方や虎白は、地面の匂いを嗅ぎながら歩いている。

 時より止まって、周囲を見ては再び進む。周囲に人の匂いがしないか確かめているのだ。


「ん!? 待てこれは」

「どうしたの?」

「毒みてえな匂いがする......うっ。 臭え......」


 姿を半獣の姿に戻した虎白は、腰に差している刀に手を当てている。


「第六感......」


 神業を解き放ち、周囲の気配を感じ取っている。


「いや、人間の気配はない。 だが、毒が不自然に木についていた。 毒を武器にしている人間が通ったに違いない」


 緊迫している森の中で、再び獣の姿に戻った虎白は背中に竹子を乗せて歩き始めた。しばらく歩いても、人間に会うことはなかった。

 やがて山への入口へと辿り着いた二人は、ゆっくりと山中へと入っていった。


「気をつけろよ竹子。 山賊って言うぐらいだ。 ここからは、庭ではなく家の中に入っているってわけだぜ」

「う、うん......いきなり出てきたら驚くなあ......」


 すると急に虎白が立ち止まった。目を瞑って第六感を解き放つ虎白は、周囲に何かの気配を感じているのか、白い毛を逆立てている。

 直ぐ様、半獣の姿に戻ると、刀を抜いた。それを見た竹子も、刀を抜いて周囲を警戒している。


「感じる。 左右から気配を感じる。 俺達を囲もうとしているんだ。 一旦下がるぞ」


 慌てて森へと引き返そうとしたその時だ。


「ガルルッ!」

「虎白!」

「なんだこいつは。 トラか!?」

「まだ来るよ!」


 感じていた左右の気配は、人間ではなくトラであった。慌てて、刀を振るうと、二足歩行になったトラは、器用にも背中に背負っていた剣を手にしたのだ。


「随分と器用なトラじゃねえか」

「ガルルッ! ここは私達の縄張りだよ。 消えな」

「喋るのか!?」

「何を当たり前なことを。 私達は『半獣族』よ」


 二足歩行で話すトラは、そう言った。困惑している虎白と竹子は、顔を見合わせていると、左右の茂みから次々と獰猛な獣達が姿を現したのだ。

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