OP1
根城-①
「ただいま、ウォルスリー」
俺の背後で、ホルマリーナが挨拶をする。
「転移の場所が予定とだいぶずれたと聞いて、心配しておりましたが、いやはや……」
ウォルスリー。そう呼ばれた老人は顎に手を当てながら、俺の顔をまじまじとみつめた。
「お二人とも、五体満足で何よりです」
老人の持っている鳥籠がキイキイと揺れる。
明かりのロウソクはともかく、なぜこの老人はこんなものを持ちあるいているんだろうか? 中をのぞいても鳥などは入っていない。もっとも、今の俺にとってはもはやそんなことは些細な疑問でしかない。
「ウォルスリー、後は頼んだよ」
「かしこまりましてございます」
ん? と思ってホルマリーナに振り向く。
彼女はもう背を向けて、跳ね橋を再び戻ろうとしていた。
「あの、あなたは中に入らないの?」
「あたしはまだ仕事があるんだ」
目も合わせずにそう告げると、ホルマリーナは雨の中へと姿を消した。
まだ出会って数分とはいえ、異世界に来てから初めて出会った人物だけに、去ってしまうのはなんだか少しだけ心許ない気がしてしまう。
「ご安心くださいませ」
背後からウォルスリーが俺の顔を覗き込む。
情けない顔をしていただろうか。
俺は頭をふって平静を装うと、目の前の老人に向き直った。
「ウォルスリーと申します。そう緊張なさらずとも大丈夫。我々はあなたの味方です」
「……あのひとは何をしに行ったの?」
「ホルマリーナですか? ……さて、あのお方のなさることは老いぼれには解りかねますのでな」
「……」
「さあどうぞ、中へ。慣れない異国でお疲れでしょう」
ウォルスリーに招かれ、俺は城の中へと歩みを進める。
薄暗くて先の見えない城内。
ウォルスリーが先導し、彼の持つロウソクの明かりだけが足元を照らした。
キイ、キイ……。
ウォルスリーが歩くたびに揺れる鳥籠が、寂しげに場内に響いていた。
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