旧市街-③
「そ、それ……」
彼女の傷があまりにも痛そうで、俺は思わずその"患部"を指差した。
「なに?」
「痛くないんですか」
「ああ……そっか。あなたたち所有者(ドナー)はそうなんだっけ」
そう言うと、彼女はもう一方の腕で刺さった刃を抜き取り、そのまま倒れている大男の背中に思い切り突き刺した。
ヒィッ、と俺は思わず悲鳴を上げる。
「あたしは"何も持たない者(ホルマリーナ)"。あたしが君を呼んだの」
「呼んだ?」
「あなたが必要だった。だから呼んだ」
「ここは一体……」
「ここは旧市街。かつてはドナーの王族によって繁栄した、ロキソプロフェン城の城下街よ」
ざあざあと勢いを増す雨が、ホルマリーナと名乗る女性の髪を濡らす。
彼女の話はさっぱり意味がわからないが、どうやら俺をこの世界に招かれたのは彼女が原因であるとわかった。
「……俺を病室に戻してください」
「それは無理」
「……妹が死にそうなんだ! こうしている間にも、妹は……」
「君、なにを言っているの?」
前髪の水滴を払いながら、ホルマリーナが首を傾げる。
眉をしかめて、まるで僕の話が理解できない、とでも言いたげだった。
「死にかけているのは君のほうだよ」
「……え……?」
「ここ業世界(カルメリア)にドナーがやってくるときはいつだって、元の世界で体が朽ちようとしているとき」
業世界(カルメリア)?
俺は無意識にその言葉を繰り返した。
「君の身体はいま、生命活動を停止しようとしている」
「どういうこと……ですか」
「とりあえず、ついてきなよ。雨が降ってる」
そう言って、ホルマリーナは背を向ける。
問いかけに答えず、この場を離れようとする彼女の腕を俺はとっさに掴んでいた。
「俺の身体が死にかけているって、どういうことですか」
「……君、忘れちゃったんだね」
陶器のような白い肌。
おおよそ血の通ってないようなその腕に、体温はなかった。
彼女のアイスブルーの瞳が、俺の顔をとらえる。
「君、病院の屋上から飛び降りたんだよ」
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