旧市街-②

 誰かの声がきこえた。


 大男の内臓を握りつぶした腕は、ずるりとそのまま引き抜かれる。

 あたりに鉄棒を握った時の手のひらのような、金属臭がふわりとただよう。


「貴様……」


 大男が背後へ振り向く。

 俺の視界には映らないが、大男の向こう側、そこにおそらく誰かが立っている。


「あらごめんなさい、もしかして新品だった?」


 大男の持つ武器が、再びゆっくりと振り上げられる。

 それは避雷針のように宙でぴたりと静止すると、鉈のような刃がついている部分がカチャリと外れ、長い鎖で釣られるギロチンのような形状へと変化した。


「死ネ」


 大男がそのまま両腕を振るうと、刃の先端は蛇のようにしなって、そこに立っている何者かの体に命中した。

 武器そのものの重みと、鎖のしなりを利用した恐るべき一撃。

 俺の口から自然に「あ……」と声が漏れた。


「双魚(ピスケス)」


 何者がそう呟くと、頭上の雨が空中で集まり、二匹の魚の形を成したかと思えばそれは物凄い勢いで大男の頭に突撃した。


「ひっ……!」


 ぐじゅ、と卵が握り潰されるような音がした。

 大男が地面に膝を突きながら、低いうめき声を上げる。

 目の前で何が起きているのか、俺にはよく理解できなかった。

 ただ、地面に崩れ落ちた大男の向こう側に立っていた女性と目があったとき、俺はこの異常事態に脳ミソが警報(サイレン)を鳴らすのが聞こえた。


 ナースみたいな白い衣服を真っ赤に染めた、白い髪の女性がそこにいた。

 肩に鎖のついた刃の先端がぶっささりながら。

 痛みなんて感じていないように、彼女は平然と立っていた。


「平気?」


 彼女が俺に向かって呟く。

 びくっとしてしまって、うまく返事が出来なかった。

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