第54話 元気モリモリご飯パワー2

~前回までのあらすじ~


 ヨルデルの作り出した魔物、元気モリモリご飯パワーが帝都を襲う!


 エイヤレーレのおにぎりが手紙を持って魔王のもとに向かうが間に合うのか!?


 そして、元気モリモリご飯パワーの目的とはなんなのか?もはや元気モリモリご飯パワーと魔王軍の激突は必至なのだろうか!


 元気モリモリご飯パワーと魔王軍、勝利の女神はどちらに微笑むのか!?



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 その日、ヘイレンダール帝国の皇帝、魔王とも呼ばれるクルーグヘイレンは私室で部下からの手紙を読んでいた。「ふむ…」と考え込む。部下の名はエイヤレーレと言うが、彼女はしっかり予定を立ててその通りに物事を進めることは得意だが、予想外の事態にとにかく弱い。


 今回もヘイレンダールに向かっているという、魔王を討伐するべくイルセルセの国王に雇われた勇者を返り討ちにするためノルア王国に旅立ったはずだったのだが、この手紙によると、何故か勇者を案内してこの帝都コテルに来るという。


 何故そんなことになるのか。


 手紙の内容からではいまいちそこが判然としない。とはいえ、彼女が判断したならそれだけの理由があるはずなのだ。

 さらに言うなら彼自身今回来訪する闇の勇者に興味を持っていた。常に中立な視点で判断し、論理的思考で行動する。それでいて自分の利益最優先というアンバランスさに非常に好奇心をそそられたのだ。


 仮にエイヤレーレが闇の勇者に騙されていて、近づいて魔王を暗殺するつもりだったとしても、彼にはそれを絶対に回避できるという確信めいた自信があった。


「楽しませてくれそうだ…」

 そうつぶやきながら、にやり、と笑った。


 そのとき、彼の部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「申し訳ありません、陛下。火急の用にて失礼します。」


「キラーラか、入れ。」

 ドアの外にいる男にそう声をかけると、赤毛の短髪の若い男が入ってきた。


「その…エイヤレーレから怪文書が届きまして…会議室まで来ていただけますか?」

 キラーラと呼ばれた赤毛の男は困惑した顔でクルーグヘイレンに報告した。


「またか…」

 若干うんざりしながらも魔王はキラーラの後をついて行った。


 魔王が会議室に入ると、会議室には宿り木に一羽の鷹のような鳥がとまっており、中央のテーブルには手紙が置いてあった。


 魔王は手紙を取りながら鷹の方に目をやった。

「これは間違いなくエイヤレーレの使い魔だな。」


「やはりそうですか、文章の内容が少しアレだったので、もしかして似ているだけの別の鳥かとも思ったんですが…陛下に判断頂こうかと思いまして…」

 キラーラが申し訳なさそうに弁解する。


 魔王がバサッと手紙を開いた後、すぐに顔を背けて噴き出した。

「ふぶっ」

 そのままぷるぷると震えた後、しばらくしてその重い口を開いた。


「これは…確かに怪文書だな…」


 手紙の内容は以下のようなものであった。


「ヨルデルの作り出した魔物、元気モリモリご飯パワーが帝都を攻撃しようと狙っております。

 至急、迎撃の用意をされたし。


 エイヤレーレ・トゥーリエン」


 まさしく怪文書である。


「この…元気…ふぅ、元気モリモリご飯パワーの特徴が手紙に書いてあれば、せめてどういう対策を立てればよいか方針が立てられるのだが。」

 慎重に噴出さないように注意しながら魔王が愚痴を言った。


「ヨルデルとは、おそらくモンスターの研究をグラッパ山中で行っているエルフのことでしょう。

 その元気モリモリご飯パワーがどういう移動手段をとっているかは分かりかねますが、その距離ならおそらく遅くとも2,3日で元気モリモリご飯パワーは帝都に到着すると思われます。

 元気モリモリご飯パワー対策として町の北東側に軍を展開しますが、かまいませんね?」


 キラーラの言葉に魔王は顔を逸らして手で口を押さえたまま答えた。

「あんまり連呼するな…わざとだろお前。」

 少し肩を振るわせながらの言葉だった。


 落ち着いてから改めて魔王はキラーラに答えた。

「この件についてはお前に全て任せる。善きに計らえ。」


 その言葉を聞くと、キラーラは即座に自分の手勢とエイヤレーレの魔導士軍団を100人ほど集めて3交代制で町の守護に当たった。


 二日目の夕方、キラーラは彼の副官からの報告を受けた。

「来ました、キラーラ様、空です。」

 そう言って副官のネルヤッドは遠眼鏡をキラーラに渡した。


 遠眼鏡で確認しながらキラーラが独り言を言う。

「ホントに来たな…空からとは思わなかったが。

 しかしなんつー凶悪なデザインしてやがんだ。その…

 …元気モリモリご飯パワーは。」


 名を言った瞬間周りの者がみな気まずそうな顔をする。


 なんなのだこれは、なぜこんな変な名前なのか。キラーラにとって久しぶりの実戦である。他の四天王は特命任務に出ており、彼とヴァンフルフだけが帝都で留守番だった。

 次に何かあれば自分が名を上げるチャンス、と思って待ちかまえていたところにエイヤレーレの怪文書が届いた。

 チャンスだ。チャンスではあるのだが…この緊張感のない名前である。一体誰が名付けたのか。


 仮にこの任務で彼が大成功を納め、一人の住民の被害も出さずに敵を倒したとしよう。そうして彼はなんと呼ばれるのか?


「キラーラは元気モリモリご飯パワーを倒して名を上げたらしい。」

「彼こそが元気モリモリご飯パワースレイヤーだ。」


 言われたくない。そんな呼ばれ方をしたくない。


 これが彼の正直な感想であった。

 重ねて彼は思った。「本当に、一体誰がこんな変な名前を付けたのか。」


「遠目で見れば、ドラゴンに見えないこともないか…」

ぼそっとキラーらが呟いた。誰かに言われる前に「ドラゴンスレイヤー」だと言い張ってしまおうか、そんなことを考えていた時であった。


「キラーラ様、指示を。」

 考え事をしていたらいつの間にか元気モリモリご飯パワーが近づいてきていたようだ。キラーラは副官の言葉で我に返った。


「この高さじゃ弓矢は届かねぇな。魔導士隊に炎を撃たせろ。」

「この距離では届いてもダメージになりませんが?」

 副官の返答にキラーラはあくまで冷静に返す。


「それでいい。注意を引いてこっちに呼び寄せられれば十分だ。

 この戦いの要点は住民の被害を出さないこと、それだけだ。」


 遠くから魔導士がちろちろと炎魔法を放っていると、苛ついたモンスターは地上にズン、と降りてきた。それもキラーラの目の前に、である。


「なんだ、タイマンがお望みか?以外と豪気なやつだな。」

 大剣を肩に担いで、余裕のある台詞を吐きながらもキラーラは外見から相手の戦力を分析する。それにしても醜悪な姿である。岩のような頭に魚の胴体、それに人間の腕と翼が生えている。

 もしかしたら魚の胴体の部分を炎で焼いたら一瞬で片が付くのではないか?彼がそう考えた時であった。


 元気モリモリご飯パワーは一瞬重心を落として力をためると、天高く飛び上がった。


 翼を使って空中で旋回するとそのまま目にも留まらぬ早さでキラーラのいる場所に頭からつっこんでくる。

 なるほど、この戦法なら弱点の胴体は攻撃を受けにくい、と感心しながらキラーラは大きく跳躍してその頭突きを避けた。


 反撃をしようと構えるとモンスターは再び空に舞い上がり空中を旋回する。


 周りを見渡すと頭突きによって発生した岩の破片の直撃を受けて数名の部下が受傷していた。


「こいつは鬱陶しいな…」

 キラーラがにやりと笑いながら悪態をつく。言葉とは裏腹に楽しそうだ。


「全員距離をとれ、群れの可能性も考えて部隊を展開していたが、その必要もなさそうだ。

 あとは俺一人でやる。」

 キラーラはそう指示を出した。


「危険です、キラーラ様!あなたは慢心が過ぎます。全員で時間をかけて対処すべきです!」

 副官のネルヤッドがキラーラの発言に対し苦言を呈したが、キラーラはそれを無視して単身モンスターに立ち向かった。


 空中から突進してくるモンスターを大剣で横殴りにパリィしながら体を回転させ、炎を纏わせた剣で切りつける。

 怯んだところに大上段に構えたまま飛び込み、硬質化した表皮ごと大剣で頭を叩き割った。


「どうだ…?これでもまだ慢心か?」

 キラーラがネルヤッドの方に振り向きながら問いかけた。


 ネルヤッドだけではない、その場にいた全員が驚愕の強さに押し黙ってしまった。その後にちらほらとざわめき始める。それはもちろんキラーラへの称賛の言葉である。


「噂以上の強さだ」「四天王最強とは本当らしい」「人間離れしている」

 こうなるともはや彼への称賛の言葉が尽きることはない。その強さを目の当たりにしたのだから仕方ないことであろう。



「元気モリモリご飯パワー殺しだ」



 その言葉が聞こえた瞬間キラーラはガクッと地面に膝をついてしまった。

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