第7話 野盗三羽烏
ベイヤット山に朝が来た。薄い霧が晴れてきたころ、アカネたち一行は途方に暮れていた…
「死んでるね…」
「死んでますね…」
ビシドとコンコスールの無情な宣告のあともアカネは必死に動かない野盗の脈を測ったりゆすったりしていた。
「ベッコさん!ベッコさ~ん!起きて!!朝だよ起きて!!」
必死に話しかけるアカネ。
「いや勇者様、もうそれ死んでますって。冷たくなってますもん。」
「あああああきらめるのはまだ早いよ!!こういうときは教科書にはないやり方だけど肉親の呼びかけが一番効果があるってイドも言ってたもん!」
アカネは半泣きである。
「いや、イドがだれか知らないけど、あんた肉親でもなんでもないじゃん。むしろ殺した張本人じゃん。」
ビシドがいつも通り突き放すような口調で突っ込む。
「ここ殺したとかいうなぁ~!!アタシはちゃんと!峰打ちしたんだよ!?それなのに!それなのにぃ!?」
「峰打ちったって、マチェーテの峰で思いっきり頭打ったらそりゃ死ぬよ。鉄塊なんだから。」
相変わらずビシドは容赦がない。
こんなことならまだ息のあるうちに町におりて役場に突き出しておくべきだった。冷静に考えてみれば頭を強く打った後いびきをかいて眠るのは脳内出血のサインである。
「どうしましょうかね?埋めます?こいつ。まあ、野盗なんでこれが明らかになっても大ごとにはならないと思いますけど。」
コンコスールはもうこれ以上の面倒事はごめんだ、といった風である。
「こんな…こんなさ?初の人殺しイベントとか普通はもっと葛藤があって、何話もかけてやるもんじゃん?それが何の覚悟もない中、偶発的にさ…?そんなんある…?」
アカネはまだ半泣きである。その半泣き女を無視してビシドが話を進める。
「スコップもないのに埋める穴も掘れないでしょ?それよりさあ…
盗るもん盗ろうか…?」
マタギ女の笑みである。
「………」
「………え?」
「ええええええ!?」
ビシドのとんでもない提案に二人が驚愕の声を上げる。
「ちょ、ちょっと何言ってんの!?ビシド!!あんた自分が何言ってんのか分かってんの!?」
「ビシドさん!それじゃ追いはぎですよ!!」
虚をつかれた二人が狼狽しながらビシドを制止する、が、ビシドは止まらない。最近になって分かってきたことだがビシドは意外にも口が上手いのだ。
「いやいや冷静になってよ?二人とも?この人は死んじゃったのよ?ヤマコトバになったのよ?じゃあもうお金使えないよね?お金も浮かばれないよ?それを私たちが使うことで供養になるんじゃないのかな?」
妙に冷静なビシドの言葉である。冷静すぎて少し怖い。
「…なるほど…そういう考え方もあるのか…」
しばらくの沈黙を破って冷静になったアカネがゆっくり喋った。いや、もはや冷静なのかどうかは誰にもわからない。この異常な空気にのまれているといった風である。
「ちょっと勇者様までぇ!?」
激しく狼狽するコンコスール。
アカネが軽いノリで話し始める。
「まあまあ、落ち着いてよコンコスール。
ああ~、そういえばさ、あんたの装備まだ整えてなかったよね?
ここにちょうどおあつらえ向きの武具一式があるんだわ。」
一瞬の静寂が山に訪れる。
「…ない…そんなものは、どこにも、ない…」
最早白目をむいて現実逃避をするしかないコンコスール。
「これからも戦闘はあるだろうってのに麻の服とスキレットで魔王と戦うつもり…?
はい、わかったら一緒に身ぐるみはがすわよ!」
ポン、とコンコスールの肩に手をかけてさらにアカネが続ける。
「…大丈夫、アンタだけに汚れ仕事をさせるつもりはないから。
汚れるときは…私たちも一緒、だよ?」
満面の笑みでとんでもないことを言う。セリフだけを聞くと一瞬いいことを言っている風であるが、やってることは追いはぎである。
泣きながら鎧を外すコンコスール。女性陣は所持金の少なさや防具の立派さに一喜一憂している。
「ん…?」
身ぐるみはがすのに夢中になっていたビシドが気付いた時にはもう遅い。馬の足音は目視できる位置まで近づいてきていた。
「お、お前ら…勇者一行…?一体何を…?」
トットヤークである。どうやら町の周辺を警戒していたようだ。
「あ!!あ、いや!これは、その!!」
とっさにうまい言い訳の浮かばないアカネ。
「お、追いはぎ!?強盗!?うわーっ!!」
一転、トットヤークは踵を返して逃げ出す。
「ち、違う!いや、違わないけども!!これには事情があって!!」
もうトットヤークは声の届かない距離にまで逃げ出していた。
客観的に見れば、頭から血を流している男、手足を縛られているその男から装備と所持金を略奪している男女3人である。その決定的現場をよりにもよって顔の割れている町の警備兵に目撃されてしまったのだ。
「や、ヤバイ!!逃げるよ!!コンコスール!早く鎧着ろ!!ビシドも荷物まとめて!!」
「ええ!ヤダ!死体が着てた鎧なんて気持ち悪くて着られない!!」
駄々をこねるコンコスールを殴って「うるせぇいいから早くしろ」と無理やり鎧を着させるとアカネたちはエルヴェイティの住居目指して一目散に駆けていった。
このパーティーは、どこまで堕ちるのか…
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