第131話 困ったときは悪魔様に頼ろう!
「あれっ、愛奈さん?」
「はいっ、あなたの愛奈ですよっ」
「なんでここに?」
「なんでって、ただ賢太くんの家に遊びに来ただけですよ?」
「えっ?」
「えっ?」
俺は目の前に広がっている光景はまだ夢ではないのかと、夢であってほしいなと思いながら問いただすも、愛奈からまっとうな返事は帰ってこない。
いや、愛奈自身は素直に答えているだろうが、俺たちの間にある常識の壁というもので分かり合えていない。
だからと言って、すぐに相手を否定してはいけない。
今の時代、相手を尊重することが重要な社会になってきているんだ。
ここは相手の価値観で話を聞いてみよう。そういう努力はしないとね。
俺は一度頭を冷やして、深呼吸をした。
「ま、まぁ、この際家に来るのは良いや。不問にしときます。今一番訊きたいのは、どうやって入ってきたのか、なんです」
「あっ、そんなことですか。そんなの、この前家に遊びに来た時にぬす……貰った合鍵でちょちょいと」
「おい! あげた記憶ねぇぞ! 盗んだなテメェ!」
前言撤回。
分かり合えないものはある。そんな危険物は取り締まらなくてはいけない。
俺は布団の中で寝ている愛奈を捕獲しようと襲い掛かるも、愛奈は愛奈で手と足を駆使して抵抗してくる。
ていうか、予想以上に抵抗してくるなこいつ!
そんなに抵抗されると、色々と触りたくない所に当たったりしちゃうんですけど。
服もいい感じに捲れたり、ずれたりしてなんか変な気分になってくる。
いや違う。こいつ当ててきてやがる。
嬉しそうな蕩けたような顔してやがるもん。
「じょ、冗談ですよ! 開いてたんです! 鍵がかかってなかったんですよ!」
「鍵がかかってなかっただぁ?」
そうしてやっとの思いで俺が、愛奈を完全に鎮圧しかけると、流石の愛奈も苦しくなったのか言い訳のような何かを述べ始めた。
正直、ここまで抵抗しておいてそんなこと言われても全く信じられない。
しかし、これが言い訳なのか真実なのかは俺が決めることなので、愛奈に遠慮なく袈裟固めをしたまま昨夜のことを思い出すことにする。
これがその場しのぎの嘘だった場合、瞬時にこの家は治外法権となって、関節技を決めます。
◆◇
『とりあえず家に入るかと、靴を脱ぎ捨て、俺は洗面台へと足を向けた。』
◆◇
「鍵かけてねぇ!」
「ほ、ほら! そうじゃないですか! 言ったじゃないですか! 痛いなぁ、腕が痛いなぁ! 固め方がしっかりしているから、なおさら痛いなぁ!」
まさかの愛奈選手のチャレンジ成功に、俺は不本意ではあるものの袈裟固めから解放することを決心する。
ただ、なんかこうもやられっぱなしだと腹が立つので、解くと思わせて最後にもう一度固め直す。
そうすると、愛奈は『ぐえっ』とカエルが轢かれたような声を出した。
可愛い鳴き声ね。
「まさか賢太くんがDVするような人物だとは思わなかったですよ……。結婚後が心配です……」
「ごめんって、なんかテンションが高くなっちゃって……」
解放された愛奈は、よれてしまったり、緩くなった服を整えながら俺に小言を言う。
それを受け流すわけにもいかない俺は、ばつの悪い顔をしながらもしっかりと受け入れるしかない。
「でも、来るなら来ると言って欲しかったんですけど」
「いやぁ、ドッキリみたいな感じで突入しようと思ったんですよ。でも、実際そうしてインターホンを押しても、誰も出なかったのでびっくりしました」
「ああ、ごめんな。ちょっと体調が悪くて……、ああ! そうだ、俺、体調悪かったんだった」
俺は起きて早々のびっくり人間とプロレスのせいで記憶から抜け落ちてしまっていたが、朝はたまらなく体調が悪かったのを思い出す。
ここまで思い出さなかった自分にドン引きするが、一度寝たおかげかだいぶ調子は良くなっていた。
「やっぱり、そうですよね。家にあがったら、賢太くんがすごいうなされたのでまたびっくりしましたよ。悪魔に取りつかれたのを除霊する、外国の動画を思い出しました」
「そんなにかよ……」
「そうですよ。家に入るときに、無視されたのかと思ってピンポン連打したり、死ぬほど電話かけたりしたのに何の反応を示さなかったんですから。よっぽどのことだと思いました」
愛奈はケロッとした笑顔で、聞き捨てならない言葉を吐いた。
それを確認するように俺は、インターホンに目をやると、お知らせのボタンが青く光っているのが目についた。
スマホを手に取りインターホンまで足を運んで、録画されていた画像を見てみると、どんどん愛奈が険しい表情になっていくのがスライドショーのように残っていた。
スマホの通知の履歴も見ようとスマホを持ってきたのに、これ以上は知らない方がいいと脳が激しく拒絶する。
あれ?
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