第123話 デートそうでデートでない。すこしデートな俺たち

 俺たちがかき氷を食べ始めて数分。

 かき氷はもうすでに溶けて底に溜まり始めており、最早食べ物というより飲み物と化していた。

 それを俺はスプーンで掬ってすすっていると、静かにかき氷を味わっていた紗季が口を開いた。


「賢太くんのかき氷も美味しそうだね」

「……」 


 それを聞いた俺は持っていたスプーンを置いて、口周りを紙ナプキンで拭きながら目線をかき氷から紗季に移した。

 そうして見た紗季の表情はうずうずとワクワクを混合したような小悪魔顔で、いかにも『食べさせてよ』という魂胆が透けて見える。

 

 そんな予想していた紗季の表情に、俺は人知れず溜息を吐いた。


「はいはい出ましたそのパターンね。……アーンならしないぞ」


 そう俺が紗季に向かって言ってやると、今度は紗季が眉間にしわを寄せて本日初めての不機嫌顔を見せた。

 きっと、紗季が望んでいた返しでも表情でもなかったのだろう。


 ただ、その言葉と行動に対する免疫はすでについている。

 

「なによそのテンプレートに出くわしたみたいな言い方。しかもなんか『すべてお見通しだぞ』みたいな顔でムカつく」

「そんな顔してないって」。

「なんか手馴れているよね。……さては、色々な相手にやったんだね」

「人聞きの悪いことを言うな。俺がそんなに女性経験豊富そうに見えるか?」

「……どうだか」


 紗季は俺を絶対零度の眼差しで貫いて、俺の表情筋を凍らせた。

 そして何も言わなくなった俺に興味を失くした紗季は、『ふんっ』と言ってそっぽを向く。

 

 本来ならすぐにでも機嫌を直すように宥めるなり釈明するなりあるのだが、俺はそれをにやにやとした顔で見る。

 

 不機嫌さは時間経過とともに指数関数的に増えている。

 それはひしひしと彼女のオーラで伝わっているものの、露骨な嫌悪感ではなくて少し拗ねるぐらいの可愛げのあるものに感じる。

 きっとそのうち、『少しの間口を利かない』で漸近するだろう。


 そうでなければ俺もこれほど直接拒絶するようなことは言わなかった。

 そう言っても許してくれる信頼関係があったからこそ出た言葉。


 やはり友達と言っても、一度親友を経由している俺たちはただの友達ではないらしい。

 

 紗季がどう成長していこうとしているのかはよく分からないが、俺にとって紗季は親友で、友達として見るにはもう少し時間が必要そうだ。

 というより、これから先も見えることはないのかもしれない。


 まぁ、その時はその時か。

 

 そうして俺は再度スプーンを持ってかき氷を掬い、そのままツンとした紗季の口へと運ぶのであった。

 これ以上貧乏揺すりが激しくなると、かき氷がひっくり返りそうだったからね。


◆◇


 それから俺たちはかき氷屋さんを出た後、近くのショッピングモールでウインドウショッピングをした。

 買いもしないのに二人で服を見てあーだこーだ言う。

 店員さんには冷やかしで申し訳なかったが、とても楽しい時間だった。


「もうこんな時間か」

「やっぱり、楽しい時間って言うのは過ぎるのが速いね」

「そうだな」


 俺たちがショッピングモールを出ると、正面にあった太陽がかなり傾いているのが見えた。

 その日差しはちょうど俺の目を焼くようにギラギラと輝いてすごく目に悪く、たまらず隣に並んでいた紗季に話しかけた。


「今日はもうこれで終わりか?」

「いや、ここからだよ。今日集まった目的、デートの目的は」


 そこまで言い切ると、紗季は俺を置いてすたすたと歩き始めた。

 その太陽に向かって歩いていく後ろ姿は雄弁で、その目的とやらへの期待が窺えた。


「ちょ、ちょっと待てって」


「これって、やっぱりデートだったのかよっ!」


 俺はたまらず声を上げて追いかけるも、彼女は何も言わなかった。


◆◇


 そのまま紗季についていくように歩いていくと、駅に着いた。

 そこでも紗季は何も言わずに電子乗車券を出して改札を通り、乗ってきた方面と同じ方面の電車に乗る。

 つまり、まだ家の方向に帰らないということだ。


「なぁ、こんな時間にまた家から遠ざかってどこに行くつもりなんだ?」


 俺は朝より混んでいるように感じる電車内で、隣に立ってつり革を掴んでいる紗季に話しかけた。

 そうすると紗季は弄っていたスマホの画面を切って、俺の質問に答えようと顔を向けた。


「今日さ、賢太くんに珍しく一週間前から遊びの約束してたよね。そのことに不信感を抱かなかった?」

「めっちゃ抱いた」

「なら、それは何かしらの意味があったんだよ。今のところ言ったお店は別にいつでもよかったのに、わざわざ今日を選んだ意味が……、ね」


 紗季はそう言うと、またスマホの電源を入れて弄り始めてしまった。

 

 その姿は暗に『ヒントはここまで』ということを伝えてきており、楽しみは行ってみるまでお預けらしい。


「答えまで言ってくれよ……」


 そうして紗季の手のひらの上のままの一日というのも嫌なので、俺は車窓から景色を見て少し意味とやらを考えてみる。


 確かに、かき氷もモールも、来ようと思えばいつでも来れたはずだ。

 むしろ、こんな週末の休日という人が多いであろう日を――


「御乗車ありがとうございました。お出口は右側です」


 そうして今日を選んだ理由とやらを本格的に考え始めようとした瞬間、車内アナウンスによってかき消されてしまう。

 思考を止められて若干ムッとしながら、駅のホームを見ると降りる人よりも多いであろう人の数が目に入る。

 朝の通勤ラッシュ時並みの人だかりに顔を引きつらせるも、その中にぽつぽつといたカラフルで風流な人たちが目に留まった。


「なるほどな」


 この時やっと、俺は紗季にこの日を指定された意味を理解した。


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 いつも読んでいただきありがとうございます。

 皆様の応援コメント、フォロー、☆、励みにさせてもらっています。

 そのことに対して多くの謝礼を書きたいのですが、今日はこれからの更新についての連絡です。

 

 しばらくは私生活の方が忙しくなり、更新が滞ることが予想されます。

 滞ると言いましても、八月の頭にはいつも通りの更新に戻りますし、七月も週一ぐらいで更新出来たらなと思います。

 ただでさえ七月に入ってから更新が遅いのに大変申し訳ございません。

 本当は夏休み前までに終わらせて早く次の作品を書きたいのですが、逆に夏休みまでが忙しくなってしまいました。


 あと、この話の終わり方にも悩みが出ています。

 できればみなさんの推しを訊きたいです。ちなみに、私は愛奈派です。

 これによってエンディングが変わることはないでしょうが、参考にしたいです。


 ここまで長くなってしまいましたが、ご理解とご協力をお願いします。

 本当にいつもありがとうございます。

 

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