第111話 決意と変化
「今日はわざわざ来てくれてありがとう。感謝するよ」
「いやいや、まさかまた賢太くんの家にお呼ばれするなんて……嬉しいです!」
「あら、前回より少し部屋がきれいになったわね」
凛とのドライブから数日、将来に向けて色々と考え始めた俺は、いつもの二人を家に呼び出していた。
愛奈はわざわざ菓子折りを持って来て、実家にやってきた嫁みたいなのに対し、紗季は俺の家の埃がありそうなところを指でなぞって嫌な姑をやっている。
二人して俺の家に来て早速バグったような挙動をしているが、最早気にすることもない。
こんな対照的な二人を招き入れてしまったのにも訳が有った。
そうでもなければこんなヤバい奴らをわざわざ呼んだりしない。
「今日来てもらったのには深い理由があります」
「なんでしょうか?」
「なにかしら」
俺が二人を椅子に座らせ、いつも通りにコーヒーと紅茶を出すまでのテンプレートを終わらせた後、話の本筋に入る。
二人がなんのことかさっぱり分からないという顔をしているが、このまま話を続ける。
多分、この二人は分かっていて知らないふりをしている。
二人の演技力は高く、普通の人なら簡単に騙されてしまうけど俺はもう騙されない。
「この件の話です」
そう言って俺はスマホを操作して問題の画面を見せる。
そこに映し出されていたのは、二人のミスコンのアカウント。
蒸し返すような話になって申し訳ないが、見過ごすこともできなかった。
二人がそれを見て思い思いの感情を見せ、俺もそんな彼女たちの顔色から心情を察するのに注力する。
「あら、賢太。前にも言ったけど、フォローし忘れているわよ」
「あっ、本当だ。ふふふ、意外とうっかりさんですね」
「違う、そうじゃない」
しかしそれも無駄だとばかりに彼女たちは知らんぷりをやめず、心の内を読ませまいと抵抗してくる。
普段は良くいがみ合うくせに、こういうときだけ一致団結してばっちりなコンビネーションを見せてくるのは卑怯だと思う。
おかげで俺の秘めたるマーチンが出てしまった。
「俺はなんで二人がミスコンに出ているのかということを訊いてるのっ」
俺はスマホの画面をズームし、ミスコンという文字を強調して今回の問題点を浮き彫りにさせた。
ここで彼女たちのペースに持っていかれては今日の試合は負ける。
攻撃は最大の防御というので、ここは攻めるに限る。(この手しか知らない)
「言ったじゃないですかー。賢太くんに告白するための舞台づくりのためですよ」
「その右を邪魔するためよ」
しかし、彼女たちはあっけらかんとしていて、特に勢いが削がれたという感じはない。
なんか訊いた俺が逆におかしいんじゃないかとすら思えてきた。。
あと、紗季のやつは初耳だわ。聞いてない。
「もはや愛奈のことは何も言うまい。だけど紗季、おめぇはダメだ」
「なによ」
「俺たち親友だろ? そう言うときは相談とかあってもいいんじゃないか?」
俺は愛奈と話しても暖簾に腕押しということはわかるので、交渉相手を紗季に変えた。
紗季なら話が通じるし、深い信頼関係がある。
なんてったって、俺たちは親友だからな。
そういう期待も込めて、俺は紗季の方を見つめるが、紗季は俺から目線を外した。
俺が求めていた紗季の姿はそこになく、ばつの悪そうな顔をした少女がそこにいるだけだった。
「悪いわね、賢太。私、親友を辞めるわ」
「え?」
俺は思わず耳を疑った。
今、彼女はなんて……。
「だから、賢太。私、賢太の親友を辞めたいの」
「そ、それって……」
「勘違いしないで、別に賢太が嫌になったわけではないの。お願いだから事情も訊かないで? これもきっと、私の成長につながることだから」
紗季は俺に視線を戻したと思うと、見つめて恐る恐る言葉を紡いだ。
その目には覚悟の火が、濃く灯っていた。
正直に言って、今は紗季の言っている言葉の意味が分からない。
ただ、とても重要な話と決意だというのは伝わってきた。
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