第103話 SNSとは

 当の本人である二人からは何の連絡も来ていない。

 いくらメッセージを送ったところで既読はつかず、返信もない。

 まだ朝が早いから起きてないってことだよね。未読無視とかじゃないよね、これ。


 結局、容疑者二人から事情聴取ができないと悟った俺は、大学の友人が送ってくれたURLを踏んで、二人のSNSのアカウントを見に行くことにする。

 百聞は一見に如かずということで行動を起こしたのだが、そこでまさかの問題に直面する。


 俺がSNSを全くやっていないので、アカウントが見ることができない。

 しょうがないので、そのSNSを見るためだけにアプリをわざわざストアからインストールし、しょうもないアカウントを作り始めた。


 何のために必要なのか分からない電話番号やメールアドレスを入力し、パスワードを入力する。

 そろそろアカウント作りも終わりかなと思うも、まだまだアカウント作りは終わらない。


 アイコン? 適当に、前に紗季と行ったパンケーキのでいいだろ。

 名前もバレないように、『ひさのけんつ』とかにでもしておこう。

 こういうSNSやったことないから良く分からないけど、馬鹿真面目に本名とか自撮りじゃなくていいんだよな?


 慣れていないアカウント作成に時間をかけながら、やっとの思いで二人のアカウントを見に行くと、信じがたい光景が目に入った。


「やっば」


 色々と気になるところはあるが、一つずつ落ち着いて見ていこう。

 

 まず、二人のアカウントはミスコン用に作られたアカウントらしい。

 現在の大学のミスコンは、SNSの普及によってSNSでの広報活動が良く行われている。

 そこで自撮りを流して知名度を上げたり、投票者と交流を図ることで投票を集める。

 ミスコンが行われる文化祭は夏休み明けにあるので、夏休み中から行動を始めたのだろう。

 二人だけでなく、ほかにもミスコンに出るのであろう候補者のアカウントもちらほらと見える。


 だが、そこで驚くのは、二人のアカウントのフォロワー数。

 すでに二人して、千人を軽く超えているのだ。

 正直、フォロワー数の平均とか相場を知らないので、これがどれだけすごいことかはよくわからないが、他の出場者の二倍や三倍なので、多分異常なんだと思う。

 画面を更新する度に増えるフォロワー数は、本当にネズミ講みたいで恐ろしい。

 BOTとかで不正に増やしていないよな。 


 そして次に気になった、というより突っ込まなくていけないのは、彼女たちのアイコン。


 友人が指摘したように、愛奈のアイコンは愛奈自身の顔が中心に映ってはいるものの、その左には俺の顔が半分ほど映っている。

 そう。俺の顔がモザイクや目線もなく、無修正で映っている。

 ここで論点のなるのは、俺の顔の肖像権についてではなく、彼女が前回のミスコンで彼氏疑惑が出て干されたということ。

 

 なんで去年くらいに犯した失態を全く活かしてないんだろう。

 精神的に向上心のない者はばかだ。本当にばかだ。


 それに比べて、紗季のアイコンは中学校の卒業写真だった。

 卒業アルバムを見たことがないので断定はできないが、中学校の頃の紗季の写真なのは間違いない。

 久しぶりに中学の紗季を見たので、不覚にも心が浮かれてしまったが、冷静に考えると頭おかしいと思う。

 最近、芸能人が昔の写真をを上げてちやほやされるのがブームだが、わざわざミスコンでやる必要ある?

 中学時代の写真じゃないといけない理由があるのだろうか。


 なんだか頭が痛くなってきた。

 なんなのこの人たち、勝つ気ないの?

 それとも勝てる確信があるから舐めプでもしているの?


 もはや訳が分からなくなった俺は、プチ反旗を翻すことにする。

 俺は二人に対するアンチテーゼの意味を込めて、二人以外の出場者全員をフォローした。

 この人たちの誰かが優勝してくれることを祈りながら、一つ一つ丁寧に。

 

◆◇


『賢太くん……、どうして私はフォローしてくれないの? ねぇ、どうして……?』

『賢太。私のアカウントをフォローし忘れてるけど、どうしたのかしら。もしかして……』


 俺はあまりもの恐怖に膝を笑わせながら、平等に全員のフォローを外してアカウントを消した。

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