第102話 モーニングルーティン

「うわぁ……、本当にやってるわ……」


 とある夏休みの日の昼下がり。

 俺は持っているスマホをスクロールしながら、苦々しい声を上げていた。

 

「なんだよ、これ」

 

 スマホを見れば見るほど俺の顔は固くなって、スクロールする右の人差し指が重くなっていく。

 そこに映っていたのは吐き気がするほどの衝撃の事実。


 なんでこうなった……。

 なんでこうなった!

 

 そうして俺は持っていたスマホを布団にぶん投げて、数時間前のことを思い返した。


◆◇


 今日は珍しく完全な休みの日。

 バイトも、遊びの誘いも、勉強を教える予定も全くない、そんな休日。

 

 そんな日を、普通の大学生はどうやって過ごしているのだろう。

 布団に入ったまま無為に過ごすのだろうか、それとも趣味に使う時間にするのだろうか。

 時間というものは誰しもが対等に与えられるものだが、使い方はその人次第。

 人には完全に時間の無駄だと思われることも、本人からしたら有意義な時間なものだ。


 なんて、訳の分からないことを寝ぼけた頭で考えながら、俺は電気ポッドに水を入れてスイッチを押した。

 

 電気ポッドがやかましい音を立てて沸けるまでの時間、俺はコーヒーの準備をする。

 と言っても、インスタントコーヒーなのでそれほど時間はかからず、余った時間でスマホの電源を入れた。

 

 スマホの電源が入って、まず六時と言う時刻が目に入った。

 それを見て思わず笑みがこぼれてしまう。


 俺は休日をだらだらと過ごすタイプではあるが、そういう日だからこそ早起きをする。

 起きたら正午で、休みの日を半分無駄にしたというのがとてつもなく嫌なのだ。

 特に趣味も予定もないので、結局は二度寝したりして休日を持て余すのだが。


 俺は『今日という休日を最後の一秒まで満喫してやる』と心の中で思いながらスマホのホーム画面を開くと、あるアプリの通知が溜まっていることに気が付いた。

 よく見ると、それが数十件ほど溜まっているので、俺は一気に目が覚めた。


 それは緑色のアイコンをしたメッセンジャーアプリなのだが、俺のは基本的に通知が溜まっていることはない。

 なぜなら、俺は大学受験を機に一度データを消しているため友達の連絡先が少ないからだ。

 小学校、中学校、高校の友人の連絡先は消失しているので、大学からの友人しか連絡先は入っていないし、入っていても連絡を取るのは大体が紗季と愛奈くらい。

 

 それでも、こんなに溜まっていたことはアプリを再インストールして以来なかった。

 こんなことになるなんて、考えられるのは身内の不幸か公式アプリ、それとも炎上か。

 特に見覚えがないことに恐怖を覚えながら、アプリをタッチしようとしたとき。


カチッ。

「うわっ」

 

 お湯が沸けた音にびっくりしてスマホが手から逃げてしまった。

 びっくりさせるなよ!


◆◇


『大学二大美人がミスコン出るらしいぞ!』

『有峰さんがSNS始めたって、マ?』

『染井さんのSNSのアイコン、お前映ってね? やっちまうぞ?』

『オレ、オマエ、ユルサナイ』

 

 一通り溜まっていた通知を見た後、俺は淹れたコーヒーに口をつける。

 

 いつものようにコーヒーの苦みを牛乳が中和して、甘い砂糖が最後に俺の舌を包んでくれる。

 今はちょっと色々とヒリヒリしていたので、最高の味に感じる。

 

 いやー、今までにないほどコーヒーを味わえてる。

 最高の休日の始まり方だ。

 スタートダッシュ成功したなー。

 

 


 はぁ……。




「なんだよ、これ」


 俺は何回も見直したスマホの画面を、さらにもう一度見直した。

 目をごしごしとしてもう一回。 

 頬をセルフで引っ張ってもう一回。


 うん、理解が追い付かない。

 なんで愛奈だけでなく、紗季までミスコンに出てるんだ。

 愛奈が出ることは聞いたけど、紗季が出ることは聞いてない。


 ていうか、そういうのってあらかじめ相談とかするもんじゃないんですかねぇ!

 未成年にして、報連相の重要性を知ったよ。チクショー。

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