第99話 犬と猿
「はぁ? 何で私が文化祭のミスコンなんて出ないといけないのよ」
「えっ、逆に出ないんですか」
「何を驚いた顔してんのよ。当り前じゃない」
賢太くんに宣戦布告をした数日。
私は自他共に認めて犬猿の仲であり、天敵である有峰さんを地元で有名なケーキ屋さんに呼んでいた。
予約を取るのにかなり苦戦したので、それに見合う結果を残したい。
具体的に言うと、有峰さんの本音を聞いて絶対にミスコンに出させてやる。
「そんなことを訊くためにわざわざ私を呼んだの? 思ったより暇なのね、染井さんって。羨ましい限りだわ」
「せっかく初めて二人で遊びに来たのに早速煽ってくるとはねー。今回こそ仲良くなろうと思って誘ったになー」
有峰さんは足を組んで座りながら、肘をついてつまんなさそうな顔をして言った。
足が長いから、足を組むことで魅力が何倍にもなって見える。
それに対して私は、いつもしているように、上目遣いと頬を膨らませる男子悩殺セットを繰り出した。
こんなことで有峰さんの感情を少しでも揺さぶれるとは思っていなかったけど、癖になってんだ。媚びうるの。
賢太くんと付き合ってからしないようには心がけているのに、どうしても習慣というものは抜けないものだった。
男子を堕とすことの快楽は、白い粉と同じくらいの中毒性がある。あると思う……。
「今回こそもなにも、連絡も遊びも初じゃない。誘いのメールが来たときは目を疑ったわよ。あとその顔辞めなさい? 私はどっかの馬鹿と違ってぶりっ子とかそういう女は苦手なのよ」
「ふふっ」
「なによ、いきなり笑いだして……。笑うところなんてないんだけど」
ダメだ、思わず吹き出してしまった。
だって賢太くんと同じ考え方なのに、それを有峰さんは知らないんだもん。
私と付き合っていたからって、彼がぶりっ子好きではないのに。
ただ、少しばかり有峰さんが知らないことを知っているという優越感を感じてしまった。
「そんなことはどうっでもいいんですよ。なんでミスコンに出ないのかってことが今回の話し合いの論点なんですっ」
「なんか嬉しそうな顔してるわね……。そういうの事務所を通さないといけないのよ」
「あれれー、逃げるんですかー?」
私は安っぽいとは思いながらも、挑発をした。
案の定、こんなことでカッとして挑発に乗る有峰さんではなく、いつも見るクールな表情のままだった。
「はいはい、それでいいわよ。私の負けでいいから勝手にしなさい? 話がそれだけなら私帰るわよ」
有峰さんが呆れて帰り支度をし始めてしまったので、私はあわてて言葉を投げていく。
「まだケーキ届いてないですよ! せっかく人気店に来たんですから食べましょうよ」
「いいわよ、別に。甘いもの食べて体型崩したくないし、その気になればいつでも来れるし」
「ちょ、ちょっと……」
私がいくら言葉を投げかけたところで、有峰さんの手が止まることはない。
やばい、本当に帰るよこの人!
私が想像している以上に敵対視されているのかもしれない。
ここで帰られると誘っても二度と来てくれない気がする。
ただ、もう時間的に何を言うかと考える時間もないし、次の言葉で聞いてくれるの最後になりそう。
「今のまま、賢太くんの親友のままでいいんですか? 甘んじてていいんですか?」
私は焦った挙句、訊こうと思ったことをオブラートにも包まずに直接言ってしまった。
それがしっかりと有峰さんに響いたのか、動きを止めてゆっくりと私の方を見た。
そこで初めて、怒気を含んだ顔をしていることに気づく。
「染井さんに何が分かるのかしら?」
ふつふつと湧き上がる怒りを少しずつ出して、ガス抜きをしているのだろうとひしひしと伝わってくる。
「私は賢太と親友であるということに甘んじているというわけではないっ! 私は親友という関係性に縛られているわけでもない! 私は自分が望むままに親友でいるの! これに関しては第三者である染井さんにとやかく言われる謂れはない!」
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