第96話 デート(仮)
デート論争はひとまず置いといて、俺と愛奈は並んで歩き始めた。
今日俺たちが集まった目的はサークルで使う備品を買いに行くことなので、スポーツショップへと向かう。
夏休みに入ってサークルの頻度が上がるため、シャトルやドリンクなどを買って来いと部長にお使いを頼まれたのだ。
直々に部長に頼まれるとは思っておらず、断るわけにもいかないので二つ返事で承諾したのはよかったのだが、そこで一つ問題が生じた。
サークル公式マネージャ―(俺は認めてない)の愛奈がついていくと言うのだ。
愛奈の二人だけで遊びに行くというのはだいぶ久しぶりだし、今更どんな顔をして隣を歩けばいいのかもわからない。
最後に愛奈と二人で外出したのはおよそ一年前。
あれから俺たちは大人になって、色々と変わった。
高校での付き合いやデートは、大学生での付き合いやデートとは違うものだ。
できれば遠慮したいと、他の男子部員に譲ろうとするも、愛奈の満面の笑みの下に棄却されたのでどうしようもなかった。
「やっぱり、愛奈がお遣い行くなら俺要らなくないか?」
「えー? こんな華奢な女の子に重い荷物持たせるんですかー」
「華奢(笑)」
「……」
「いたいっ!」
愛奈の発言を聞いて、心に思っていたことがついつい口から出てしまった。
それを聞き逃しはしない愛奈に、お返しとして思いっきり歩きながら足を踏まれた。
最近、なんだが地雷を踏んで怒らせてしまうことが多くなった気がする。
こんなんじゃ結婚できないのではないだろうか。
「本当に失礼ですね。仮にもデート中なんですよ? 女子を不機嫌にしてどうするんですか」
「だって、愛奈の体型って、細いところは華奢って感じがするけど、弱々しくは感じられないから……」
紗季がスリムで美しいモデル体型と言うなら、愛奈は引っ込むところは引っ込んで、出るところは出ているグラビア体型と言ったところだ。
彼女の完璧なプロポーションは華奢という言葉では形容できないと思う。
そういう意味での『華奢(笑)』だったのだが、勘違いさせてしまったらしい。
まぁ、若干の意地悪がなかったとは断言できないけど。
「ひどーい。私だって年頃の女の子なんだよー? 傷ついたなー、私の体に魅力が無くて興味がないなんて」
そう言って愛奈は心底にやにやとした顔で、俺の腕を組んできた。
体全体を使って俺に分からせようとしているのかってぐらい、腕に体をなすりつけてくる。
愛奈のグラマラスボディーと夏の薄着の合わせ技はとてもまずい。
ここで注意したいのは、俺は一言も愛奈の体は魅力がないとは言っていないことと、今日は真夏日と言われるぐらいの猛暑であること。
そして、あのテレビでの放送があったためすれ違う人たちからの視線が痛いということ。
「熱いんで離してもらえませんかね」
「冷静ぶっちゃってー。賢太くんのバクバクとした鼓動、ここまで聞こえちゃってるよ」
「尚更離してくれませんかねぇ!」
俺の願いは、結局聞き入られることはなかった。
◆◇
「こんなにサークルの備品って買うんだね」
「俺も驚いたよ……。これ経費で落ちなかったら今月生きていけないわ」
愛奈は持っていた買い物袋を見て、俺は支払ったレシートを見て溜息をついた。
何のシャトルを買えばいいのか、どれぐらい買えばいいのかなど、分からないことが多くて結構時間を食ってしまった。
「この後どうする? 帰る? それとも解散する?」
「なんですかその『はい』か『イェス』みたいな選択肢。でも、暑いしお腹空いたから……、あ、私行きたいところある!」
「分かった。じゃあ、行くか」
こんな炎天下で話し合いをして体調悪くなるのは嫌なので、愛奈から買い物袋を取って歩き始める。
そして数歩歩いて気づいたが、どこ行くのか分かんない以上、どっちに行けばいいのか分からない。
道案内を頼もうと愛奈の方に振り替えると、愛奈は呆けたような顔をしていた。
「どうした、愛奈。暑いから、早く行こうぜ」
「う、うん。そうだね。行こっか!」
俺が声をかけると愛奈ははじけるような笑顔になって、俺の買い物袋の持ち手を片方奪ってまた並んで歩き始めた。
「どこ行くつもりなんだ? 俺もお腹がすいたよ」
「な・い・しょ。でも楽しみにしててくれていいよ」
「冷たいものが食べれるなら何でもいいや」
「言ったね?」
「なんか怖いんだけど!」
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