第91話 幕間 今の私

 ある日、私は家族を失った。


 私の家庭はちょっと一般の家庭とは違ったけど、幸せな家族だったように思う。

 

 共働きの両親が早く帰ってきて、時間さえ合えば一緒にご飯を食べ、三人とも休みの日にはみんなで外に遊びに行った。

 三人で川の字で寝た時もあったし、夜更かしして映画を見た時もあった。

 お母さんが作る料理はいつも美味しく、お父さんが見せる背中はいつもかっこよかった。


 私はそんな何気ない日常がたまらなく好きで、いつまでも続いていくものだと思っていた。


 しかし、現実は非情で、諸行無常の精神を若いうちから知ることになった。


 いつからだろうか、両親の帰りが遅くなったのは。

 いつが最後だっただろうか、一緒に食卓を囲んだのは。


 最初は仕事が忙しいのだと思っていた。

 両親は二人とも巷で有名な俳優なので基本的に忙しいことは知っていたし、新しいドラマの撮影で遅くなることも過去にあった。

 そうなんだと思っていた私は、スーパーに行って食材を買い、夕飯を作って待つことにした。

 今までにご飯はお母さんと一緒にしか作ったことはなかったのですごい不安だったけど、頑張っている親の姿を想像すると頑張れた。


 その頃の私は本当に健気だと思う。

 その時間に実は両親が不倫しているとも知らずに頑張れるのだから。


 私が初めて作った料理は『チャーハン』だった。

 料理の中でもとても簡単な部類で、お母さんがよく作っていたので選んでみたけど、本当はすごい難しい料理だった。

 米を炊く時点で水の量が分かんないし、包丁で指を切って血をトッピングするし、分量の単位が分かんないしで、結果的にはべちょべちょで味が濃いものが出来上がった。


 正直に言って、とても人には食べさせることのできるような見た目ではなかった。

 だけど料理を作った達成感からか、味見した時の私には美味しく感じられた。


 ただ、そのチャーハンを親が食べることはなかった。

 作ったチャーハンが冷えてしまっても、私がどんなにおなかが減ろうと待っていたけど、結局その日のうちに帰ってくることはなかったからだ。


 翌朝まで残すのは衛生的にも、私の自尊心的にも無理だと思ったので一人で食べた。

 

 味見した時より、まずく感じた。


◆◇


 ある日、私に親友ができた。


 私にはもったいないほどで、何物にも代えがたいほどの親友だ。


 でも、そんな彼に対する最初の印象は、落ち着きのない人だった。

 だって、出会いのきっかけがぶつかったことだったんだもの。

 今となってはその出会い方もロマンティックなものだと思うけど。


 そこから何十回もの会話と試合を経て、彼とは仲良くなった。

 

 やはり、人との関係を発展させるのは時間なんだと実感した。

 月に一回しか会わなかったものの、ファーストインプレッションを覆すには十分な頻度だった。


 私に話しかけてくる男子は、大概が行動の裏に下心があるのが分かるのに、彼には全くそういうのを感じなかった。

 むしろ、ずっと試合だけを求めてくるので誠実な感じがあったし、バドミントンの話もよく合って、最高の友達になっていた。


 それは私が家族を失くしても変わらなかった。

 普通の友人なら『可哀想だね』って同情と慰めで終わるのに、彼は私が立ち直れるように行動してくれた。

 意味の分からないお兄ちゃん役をやってくれたり、親友は家族より上とかいう意味不明で恥ずかしい自論で説き伏せてくれたり。

 

 今では笑ってしまうようなことばかりだ。

 でも、こうやって笑い話にできるのも、前を向くことができるようになったのも彼のおかげ。


 その中でも、彼によってもたらされた私の一番の分岐点は、モデルになるように勧めてくれたことだと思う。

 彼が、親がいた芸能界に触れて、理解した方がいいと言われてモデルになった。


 正直、芸能界にもモデルにも興味はなかったけど、親からもらったこの美貌と変わらないといけないという気持ちが私をモデルにした。

 結局、今となっては仕事も楽しいし、給料で叔母さんに恩返しできるしで本当に感謝している。


 本当に私にはもったいないほどの親友だ。


 だからこそ、 


 いつの日か、


 この感謝の気持ちを伝えたい。


 ありがとうって。


◆◇


「ねぇ、賢太。もう夜になったことだし、夕飯食べていきなさいよ。チャーハン作ってあげるわ。自信作よ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次から最終章になります。

過去編が長かったり、伏線回収が下手で申し訳ないです……。

 

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