第85話 俺と親友の中学時代 ~告白~
それからまた数日が経ち、有峰さんも徐々にではあるが元気を取り戻していった。
元気も溌剌としていて、前までのような陰鬱とした部分は欠片もない。
彼女はこの数週間でさなぎを破って羽ばたいた。
そう、まるで生まれ変わったように。
性格こそ、今でも優しく純粋でまさに天使といったものだが、どこか不自然さが出ている。
俺に対する行き過ぎた家族愛には全くその不自然さは出ておらず、かわいい性格だと思わされているが。
『ならいいじゃないか、自慢か?』と思う人もいるかもしれないが、そのことが俺にとっての有峰さんを有峰さんでなくしている。
今の有峰さんは目の前の障害を乗り越えたわけではない、目を瞑ってなかったことにしているだけ。
もちろん、それでも彼女が前を向いて生きていこうとしているのは素晴らしいことだと思う。
だが、本当にそれでいいのか?
それが本当に彼女のためになるのか?
俺と叔母さんに依存して生きていくのが彼女の根幹になってしまっていいのか?
もし、俺と叔母さんがいなくなった時、彼女は次にどうするんだ?
また新しい寄生先を見つけて現実逃避をするのか?
このままではいけない。
どうにかして有峰さんには現実を直視して、乗り越えてほしい。
それがどんなに残酷な方法で、残酷な結果になっても。
中学生の俺にできることは少ないし、当然リスクヘッジなんていうのも分からない。
でも、友達に教えてもらったんだ。
俺が好きなのは、あの頃の有峰さんなんだと。
「もしもし、叔母さんですか?」
『なんだ、小僧か。開口一番におばさん呼ばわりとは失礼なやつだ』
「もういいですよ、それ。そんなことより言っておかないといけないことがあるんです」
『ん、なんだ?』
「有峰さんを―――――に連れていこうと思います」
『はぁ?』
◆◇
「お兄ちゃん、今日は河川敷に行かないの? いつもの道とは逆の方に行ってるけど」
「今日は違う場所に行こうかと思って」
有峰さんは当たり前のように俺に並んで手をつなぎ、道を歩きながら目的地を訊いてきた。
最近ずっと散歩をしているからか、彼女もすごい楽しみにしているらしい。
つないだ手をブンブンと振って、スキップをしそうなくらいはしゃいでいる。
夏は終わったのにまだ向日葵が咲いているのかと思うほどの眩しい笑顔に、俺は少し後ろめたい気持ちになってしまう。
これから行く場所は楽しい場所ではないからだ。
「お兄ちゃんと行くところなら、どこでも楽しいからいっか!」
「そうだな……」
あまりのはしゃぎように一児の父になったような気すらしてきた。
まさか友人と歩いていたら父性を感じることになるなんて思ってもいなかった。
これが本当のパパ活ってやつか。
「あ、そういえばお兄ちゃんにお願いがあるんだけど……」
「うん?」
「お願いって言うか、言いたいことがあったのを思い出したの。だから、歩きながらでいいから聞いてくれない?」
「ま、まぁ、良いけど」
俺はかしこまってしまった彼女にちょっと緊張してしまう。
だって、手から彼女の脈拍が速くなっていることも伝わってくるし、小刻みに震えているのが分かる。
この雰囲気、この感じ。
俺は全く体験もしたことのない状況に動揺が隠せない。
「お兄ちゃん、好き」
「え?」
「家族としてじゃなくて、異性として好きなの」
「……」
まさかとは思ったが、有峰さんに告白をされてしまった。
もしかしたら程度での予想はしていたが、こうして本当に実現してしまうとは思うはずもなかった。
しかも、家族愛を超越しているなんて。
俺が呆然としているのを、理由を催促されていると勘違いした彼女は俺を見上げて目を合わせながら告白をつづけた。
「驚いたよね。でも、これが私の本心なの。なんで今このタイミングに告白したのかっていう説明をさせてほしい。なぜかここ数週間より前のお兄ちゃんの記憶はないんだけど、夢の中でかな? その時の記憶がずっと私の中に残っているの。その夢の中の私はお兄ちゃんと一緒に運動したり、話したりするの。正直、その夢を思い出すたびに胸がふわりと飛んだような感じがして落ち着かなくて……。恥ずかしい話、夢の中の私に嫉妬しているの。私ももっとお兄ちゃんといたい、お兄ちゃんの知らない面を知りたい。その私はお兄ちゃんのことを何でも知っているような顔をしていて、本当に楽しそうにしているし……。他にも、この前のようにお兄ちゃんが他の女性と話しているのを見てすごいイライラするし、落ち着かないの。だから、こんな苦しい気持ちもう味わいたくない。誰にもお兄ちゃんは取られたくない、お兄ちゃんにも捨てられたくない。そうして考えていったら、お兄ちゃんと付き合えばいいんだって気づいた」
「だから、ねぇ、付き合っちゃおうよ?」
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