第82話 俺と親友の中学時代 ~畏怖~

「本当に来るんなら言いなさいよ」

「そんなこと言われましても、俺は叔母さんの連絡先知りませんもん……」

「なによおばさんって、失礼しちゃうわね」

「意味が違うわ!」


 俺は叔母さんに連れられて、病院に入っているカフェで作戦会議をしていた。

 コーヒーを奢ってもらってなんだが、この人のノリにはついていけない時がある。


 まだ会って数日しかたってないので、人柄もよく分かっていない。

 叔母さんは有峰さんの母の妹ということで、血縁関係があるのでとても麗しく、年齢詐称しているのかと疑うほどだ。

 年齢の話をしたらぶち切られるけど

 また、性格も少し天邪鬼ではあるものの基本的に優しく、楽しい性格をしている。

 親としたらこれ以上にない人なのだが、残念ながら結婚していない。

 アラフォーなんだから、誰かもらってやれよ……。


「おい小僧。やっちまうぞ」

「ずいまぜん……、だにもいっでだいでず……」


 心の中で憐れんでいただけなのに、当たり前のように心を読んで首を絞めてきた。

 目は見たことが無いほどに鋭く、目を合わせただけで簡単にちびる。


 やめてください! ここカフェですよ!

 暴力、ダメ、絶対。


「次に年齢とか結婚の話してみろ、飛ぶぞ」

「だにがっ!」


 今、意味は分からないが、この世のものとは思えないような脅迫をされた気がする。

 背筋が凍りすぎて感覚無くなってきた。

 今や服を着ているかすらわからない。


 このままでは話が進まないので、叔母さんの腕をタップして離してもらう。

 絶対この人職業は女子プロだよ。

 女子プロちゃんだよ。


「チッ」


 全く納得はしておらず、なんだったら舌打ちをされてやっと解放された。

 素直になれば本当に可愛いのに、残念な人だ。


「それで、どういうことなんですか? 今の有峰さんの状況は……」

「正直、小僧に説明する気はなかったんだが、どうやら紗季はお前のことを特別視しているらしいからな。小僧にこの騒動の顛末を教えてやる。感謝しろよ」

「早く言えよ(ぼそっ)」

「あぁ?」

「ありがとうございます!」


 俺は精一杯の笑顔を作って対応した。

 そうでもしないと叔母さんが本気で殺しに来そうだったからだ。

 殺意の波動に目覚めてたもん。小P+中K+大P同時押ししたかな。


「まぁいい、長く話していても紗季が寂しがるから手っ取り早く済ませるぞ」

「どうぞ」

「まずは紗季の親のことだが、もうあいつらは帰ってこない。ダブル不倫で雲隠れした。連絡をよこしても帰ってくることはないし、姿を見せることはない」

「えっ?」

「次に紗季のことだが、今の紗季はかなり病んでしまっている。無理もない、ここ数か月の間、目の前で親が喧嘩しているを見せられていたんだ。まだ子供で成長期の紗季にはとても耐えられるはずがない。その中でも、親権を互いに擦り付け合うところまで聞いていたらしい。それに加えて、ある朝を迎えたら親が消えていた。ネグレクトの中でも最上級だな、クソが」

「ちょ、ちょっと待ってください! 情報過多でついていけません! 九十年代のパソコンだと思って扱ってくださいよ」

「あぁ?」


 叔母さんは今日見せた表情の中で、一番険しい顔をした。


「お前はもう一度私に、あのクソ野郎どもの話をしろというのか?」

「……ッ」


 表情以上に、言葉が強く俺に怒りを伝えてきた。

 先ほどからこの人の顔にはびびってばかりだが、今回ばかりは言葉を発して空気を軽くすることもできない。


 叔母さんも俺のおびえた顔を見て落ち着いたのか、一度自分の顔を叩いた。


「すまない。ちょっと興奮して当たり散らしてしまった」

「い、いえ。こちらこそ茶化してしまってすいませんでした……」


 お互いが謝罪をしたことで、カフェらしい穏やかな空気が帰ってきた。


「話を続けるが、紗季にとってこの体験は夢として捉えている。そして、いなくなった家族に私と小僧をあてがった。正直、クソ姉貴と同一視されるのは腹が煮えたぐりまくって仕方ないが、紗季のためなら耐えるしかない」

「そうですね」

「だから、紗季がもう少し精神的に成長するまでお兄ちゃんをやってくれないか?

頼む、この通りだ」


 そう言って、叔母さんは一瞬の躊躇いも見せずに頭を下げた。

 ただでさえ先ほどから病院中の視線を集めているのに。


 それほど有峰さんのことを思っているのだろう。

 彼女のためなら実の姉に対する敵愾心もむき出しにし、自分の子供くらいぐらいの生意気なガキに頭を下げる。子供いないからイフの話だけど。

 

 ああ、尊敬する。

 俺はどうやら、簡単に感服してしまうような人間になってしまったらしい。

 それとも、彼女の一族には甘いのかもしれない。

 その一族の中でも、見下げ果てた人は二人できたが。


「分かりました。俺であればなんでもします。いや、させてください!」

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