第79話 俺と親友の中学時代 ~困惑~

「失礼しまーす。どなたかいらっしゃいますかー?」


 扉をゆっくり開きながら、声を出して確認する。

 不審者として扱われないために、いかにもな心配そうな声を出す。

 こうすることで、不法侵入者というよりは近所の人が心配に来てくれたというような感じにできる。


 そうして、家の中に侵入……、訪問していくと、そんな考えもすぐに飛んでいくような出来事が目に入った。

 

 家の中が酷く荒れている。

 玄関では挟まっていた靴一足しかなかったので気づかなかったが、廊下とリビングの境界線が分からないほどに散らかっている。

 ごみは散乱して、女性服も投げられて放置されている。

 家の外装はとてもオシャレだったからこそ、それとは対照的な内装に驚きが隠せない。

 まるで空き巣が連続で五件ほど入った後のようだ。


 全く生活感のない家を見て、有峰さんのことが頭によぎった。

 こんな家の中で生活しているのか?

 それとも、誘拐された後なのか?

 家が散らかっているという一部の事実しか見ていないが、だからこそ不安なことが頭をよぎる。


 もともとこんな生活を送っていたのかとも思ったが、捨てられたカップ麺の賞味期限を見ると、ここ一ヵ月ぐらいに買ったものだということが分かった。

 つまりは最近このような環境になったということだ。

 

 そうなった理由は全く分からない。

 とりあえず、有峰さんを探そう。


◆◇


「有峰さーん? いらっしゃいますかー?」


 家の中では十分なほどの声を出して、物を踏まないように慎重に進んでいく。

 『家に誰かいるぞ』という空気は流れているはずなのに、ここまでで家族の誰にも会っていない。

 ありえないとは思っていたが、いよいよ一家集団拉致の可能性は濃くなってきた。

 

 警察を呼んだ方がいいのか?

 中学二年生ではちょっと重すぎる可能性がある。


 そう思いながらも一階の捜索を終えると、いくらかのことが分かった。

 一階には誰もいないこと、されど誰かの生活跡はあること。

 きっとそれが有峰さんだということ。


 脱衣所ものぞかせてもらったが、女性服が三日分ほどしか溜まっていなかった。

 サイズやデザインから察するしかないが、有峰さんのだろう。

 キッチンも使われたお箸が溜まっていた。


 どこだ、どこにいるんだ?


◆◇


 二階に上って突き当たりのところに、『紗季の部屋』と書かれたドアプレートを見つけた。

 この部屋にいなかったら、もう捜索願を出すしかない。


 でも、その心配はなさそうだ。 

 有峰さんの部屋のドアの周りには、この家の中で一番の散らかり具合を呈している。


「有峰さん? 入るよ?」


 ドアをノックして部屋に入る。

 超絶美人の部屋に入るとは数年前なら思いもしなかった。

 

 ましてや、他校でも人気な有峰さんの部屋だ。

 すごい綺麗でかわいい部屋なんだろうと漠然と思っていた。

 しかし、現実はまったく違うもので、ひどく乱れ、崩れ、視界の情報量が脳の処理能力を超えている。


 ドアを開けようにも、物が突っ掛かって完全には開かない。

 力で押して開くしかなかった。


 でもそれだけの努力をした成果はあって、ベッドに寄りかかるように有峰さんはいた。


 

 今までに見たことのない有峰さんの顔に、本当の有峰さんか疑ってしまう。

 顔はただでさえ細かったのにさらにやせ細り、美しく艶のあった髪もぼさぼさになっている。

 目もうつろで、ハイライトが入っておらず死んだような目だった。

 あの頃の誰もが美しくしいとした顔は昔のもので、今の衰弱しきった顔は見ていて辛い。


「有峰さん? 有峰さん!」


 肩を揺さぶったところで彼女はまったく反応しない。


 し、死んでる……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る