第78話 俺と親友の中学時代 ~捨身~
有峰さんに会ってから一週間後。
有峰さんに会っておきながら顧問に報告していなかったことを思いだした俺は、いまさらながらに戦慄していた。
やばい、個人情報を持たせられるほどの重要な任務だったのに、肝心の報告をしないまま一週間経ってしまった。
あまりに有峰さんの現状が悲惨だったので、すっかり忘れてしまっていた。
今更で申し訳ないが、部活が終わったら伝えに行こう。
今日は幸いなことに土曜日で学校はないし、午前練だ。
それでも余力があったときには、もう一度お宅訪問といこう。
まぁ、有峰さんが学校に登校していたら万事解決なのだが。
◆◇
結局、俺は灼熱の太陽がさんさんと降り注ぐ中、歩いて隣町まで向かっていた。
理由は単純明快に、有峰さんがまだ不登校を続けていたからだ。
そうでもなければ部活で疲れ切った後に徒歩で隣町まで行かない。
なんて日だ!
顧問には怒られはしなかったものの、納得を得ることはできなかったし。
むしろ、『会ったくせになんで訊けないの?』という顔をされたし。
そうしてぐちぐちと考えていると、道も覚えていたので家に着いた。
一週間前に行ったばかりなので覚えていたというより、まだ記憶にあったという方が適当か。
毎回家の前に来て思うが、連絡もしないで家に行くのってヤバい奴じゃね?
しかも、今回は一週間前に行ったばかりかつ、家庭が複雑なのを知っている。
そもそも毎週家に来るのって普通に嫌じゃないか。
かわいい子や幼馴染が家に来るのは許されるだろうか、他校のカッコ良くない奴が来るんだ。
俺ならやはり通報する。
でもまぁ、今更か。
最近、寝る前によく考える。
俺は嫌われてもいいから、有峰さんがもう一度元気にバドミントンするのを見たい、と。
元をたどれば、彼女のプレイする姿に惹かれたのだ。
俺が仲良くなる必要はなかったし、陰から拝見するだけでよかったのだ。
なのに、自分に言い訳して仲良くなろうとした。
他の男子とは違うと言っていたが、結局は美人と友達になりたかっただけだ。
こんな簡単なことに気づくまで数日費やしてしまったが、おかげで覚悟が決まった。
この一件が解決したら、彼女からしばらく身を退こう。
こんな状況になって、俺の有峰さんへの気持ちが暴走している。
有峰さんを中心に、基準にして考えてしまっている。
そのせいで今の俺には、有峰さんに恋しちゃった疑惑がかかっている。
別に身を退くことでもないかもしれないが、最初は友達というていで近づいたのに実は違いましたなんて、俺が許せない。
赤ずきんの狼のような卑怯な行動は嫌だし、有峰さんも友達だと思って接してくれていたはずだ。
その有峰さんの気持ちは裏切ることはできない。
それに変な感情を持って失敗して、友達としていられなくなった時を考えると非常に怖い。
そうなるなら、こんな感情は捨ててしまった方がいい。
どうせ距離を置くなら、何を思われようが関係ない。
若干嫌われた方がマシなまである。
よし、押すぞ!
ピンポーン。
『もうどうにでもなれ』という気持ちで押したインターホンだったが、それに出る者はいなかった。
あれ? 学校休んだくせに外出することなんてできんの?
友人は学校で勉強しているという罪悪感を感じないのか?
もしかしたら、また河川敷の土手に座っているのかもしれない。
そう考えて、河川敷に向かおうと足を引いたが、視界に違和感が飛び込んできた。
玄関の扉が、誰かの靴を挟んでいるせいで締まりきっていない。
普通、外出するなら鍵をかけるときに気づくものだ。
つまり、家に誰かいる。
よし、突撃だ!
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