第76話 俺と親友の中学時代 ~事情~
とんだ依頼事をされ、憂鬱になりながら家に帰る。
絶対あの顧問の目、節穴だわ。
ババロアでも詰まっているに違いない。
今まで碌に女性と話したことのない俺だぞ。
そんな奴に女子の家凸任せますかね。
いや、でも逆に考えるんだ。
「合法的に、免罪符を持って美人女子の家に行っちゃていいさ」と。
……早速明日行ってみよう!
もしかしたら家に体育館とかついていて、それが有峰さんの強さの秘訣かもしれない。
家にバドミントンコートでもあったら、今日の分バドミントンできるんだけどなー。
そう考えて帰る俺は、どこか晴れ晴れとして軽快な歩きだった気がする。
◆◇
翌日。
家から自転車を漕いで十数分。
スマホの地図アプリを片手にやってきた家は、普通の一軒家だった。
まぁそりゃそうなんだけど、偏見で申し訳ないが、豪勢な家に住んでいるもんだと思っていた。
だって、有峰さんの雰囲気ってなんか高貴な令嬢って感じなんだもん。
それで、来てみたのは良いもののどうしたものか。
急にピンポンを押してどういう反応がされるか考えてみる。
他校の友達がいきなりピンポンしてきたらどう思われるだろうか。
俺なら迷わず警察に通報する。
今更ながらに思うが、他行の生徒の時点で無理じゃないかこれ?
そう考えて人の家の玄関前で躊躇していると、有峰さんの家の中から声が聞こえてきた。
家の前に不審者がいることで騒いでいるのかと思ったら、耳を澄まして聞くとどうやら違うらしい。
玄関のドアや、窓を超えて声が聞こえるということはかなり大きい声を出しているはずだ。
もしかして……怒声?
しかも、廊下を走って玄関に迫る足音が聞こえてきた。
やばい、隠れないとまずい。
今の俺は不審者かつ盗聴野郎だ。
懲役三十日だね。世にも奇妙な。
そうして俺は家の敷地から出て、曲がり角からばれないように家を覗く。
それは、さながら」張り込み中の刑事のように。アンパンと牛乳があれば完璧だった。
「もういいっ!」
俺が覗き見てからすぐあと、有峰さん? が玄関から走ってどこかに行ってしまった。
あまりの足の速さでよく見えなかったが、声と後ろ姿を見た感じでは有峰さんに見えた。
追いかけなくては!
◆◇
あまりの足の速さとスタミナに、何回か撒かれてしまいそうになったが、何とか必死についていった。
あの人運動神経化け物すぎるだろ。
自転車で追いかければよかったと思ったけど、自転車でもいい勝負出来そうなくらい速かった……。
そして追いかけた先の終着点は、河川敷だった。
さすがの有峰さんも疲れたのか、河川敷の土手に座っている。
これでやっと、話ができる。
「有峰さん」
「あ、あれ久野くん?」
俺がさわやかに話しかけると、有峰さんは驚いたような顔を見せた。
それもそうだろう。休日で俺の学校とは反対側なのに俺と会うとは思ってもいないだろうから。
「どうしてここに?」
「ごめん。どうしても、話がしたくて」
「それって……、どういうこと?」
早くも彼女の顔に怪訝の色が浮かんだ。
正直、嫌悪感が出てないだけ彼女は優しい。
絶対、この素直で優しい性格は利用される。間違いない。
「大会や練習試合に最近来てなかったから心配になって」
「あ、そうなんだね。ごめんね、心配かけちゃって」
彼女の顔が愁いを帯びて、謝罪の言葉を口にする。
「次は参加できそう?」
「うーん、どうだろ? もうわかんないや」
言葉を紡いでいけばいくほど、彼女の顔は暗くなっていく。
追いかけているときから気づいてはいたが、これは重症な気がする。
とりあえず、俺はここに来た理由などを包み隠さず説明しよう。
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