第75話 俺と親友の中学時代 ~追跡~

 思わぬ情報を得てしまった。

 まさか、ここ数週で有峰さんが学校に登校すらしていないとは。

 しかも、大会が近かったのにもかかわらず。

 もうすぐ夏休みがあるから、今休んで長めの夏休みというわけでもあるまい。


 結局、他の生徒と戦って茶を濁す。

 去年ならいい勝負ができただろうが、彼女に鍛えられた俺と戦える相手などもういない。

 軽く相手を捻っていると、向こうの顧問に話しかけられた。


「悪いな。今日は有峰いないんだ」

「そうらしいですね。残念です」

「久野君はいつも有峰と戦っていたからな。正直とても助かっていたんだ」

「え?」


 顧問の言葉に思わず耳を疑った。

 ずっとこの一年間有峰さんと戦っていたことを、助かったと言ったのかこの人は。

 俺だったら、『他の部員と戦えよ、しつけぇやつだな』と思って一発叱るけどな。


「ほら、有峰って強いだろ?」

「そうですね。ぐうの音も出ないほどに強いです」

「でも、うちの他の部員は有峰ほど強くはないんだ。実際に、さっきから君はうちの部員では手を付けられないほど無双してるだろ?」

「言い方悪いですけど、そうなりますね」


 別に、女性を軽視する意図はないが、有峰さん以外の女性には負ける気がしない。

 男子でもそうだ。半分の点数は取られても一ゲームも取られなかった。


「有峰以外が弱いわけでは決してない。有峰が異常だったんだ」

「有峰さんって中学初めですよね?」

「そのはずなんだがなぁ……。でも、このことは必ずしも良かったわけではない」

「……?」


 俺は顧問が言っていることの意味が分からなかった。

 俺が顧問だったら、教え子にすごい才能の子が来たら名誉的に嬉しく思うのだが。


「有峰と張り合えるような子がうちにはいなかったんだ」

「あぁ……」


 顧問からの答えを聞いて、俺は納得がいった。

 俺ですら勝ってしまうんだ。

 有峰さんではどうなるか、想像に難くない。


 きっと不完全燃焼だったのだろう。


「だから、君と去年大会で戦ったあの女の子に本当に感謝しているんだ。君たちは有峰と真正面から戦ってくれるからな」

「それが普通じゃないんですか?」

「いや、君たちは稀有な存在なんだ。普通の人は、自分より強い人と戦って無様になりたくないし、圧倒的な才能の前にやる気をなくしてしまう」

「そんなもんなんですね」

「本当は君たちとの練習試合は一回きりにしようと思っていたが、君とあの子とやっている有峰の楽しそうな顔を見て定期的にやろうと思ったんだ」


 俺が知らない所でそんなことがあっただなんて、思いもよらなかった。

 もしかしたら、月に一回の戦いを楽しんでいるのは俺だけではなかったのかもしれない。

 有峰さんも毎月楽しみにしていたと考えると、どうしても胸が弾んでしまう。


「どうして有峰さんは最近来ないんですか?」

「……それが正直分かっていないんだ」

「あっ、そうなんですね」


 ますます疑問に思ってきた。

 どうして来なくなったんだろう。

 どうしてもそれが知りたい。


「本当はいけないことだと思っているんだが、君は有峰と仲が良かったからな」


 そう言って、顧問は俺の手に紙を握らせてきた。

 一体なんだろうかこれは。


 そう思って開いてみると、郵便番号と住所、電話番号が載っていた。


 ……。


「ダメですよ! これは流石に!」

「おっと、大きい声を出さないでくれ。俺も職員室から出すのに手こずったんだから」


 顧問は口に人差し指を当てて『しっー!』というジェスチャーを見せる。

 何を先生職という立場を使ってやっているんだ。

 職権乱用というか、普通に犯罪だろこれ。


「君には有峰を取り戻してほしいんだ。というか、理由だけでも調べてきてほしい」

「なんで俺なんですか!」

「だって、同じ学校だと、気まずい理由だった時ヤバいだろ。知られたくないことだったらなおさらだ。それに比べて君なら他校だからそういう心配はない。なにより……」

「なんですか?」

「君が俺の見る限り、一番有峰と仲良く見えたからな!」

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