第63話 バドミントンサークルでの彼女たち
太陽がさんさんと道路を照らし、うるさいあいつが鳴き始めると夏が来たと感じる。
近年になって、七月なのに猛暑が当たり前のようになっている。
これも地球温暖化の所為なのだろうか。
まぁ、『夏だからこそ』というものもある。
夏と言えば、甲子園。甲子園と言ったら野球。
つまり、夏と言えばスポーツ。
ということで、今日は久しぶりにサークルに来ていた。
「賢太がサークルに来るなんて久しぶりじゃない?」
「そうだな。最近色々と忙しくてさ」
俺と紗季は、バドミントンシューズの紐を結びながら会話をする。
バイトや、凛の面会などで来れなかったのもあるが、それ以外にも一つ大きな理由があった。
「そうですよー。せっかく遠い薬学部キャンパスの体育館にまで来て賢太くんがいなかったこと何回あったと思ってるんですかー?」
そう言って、頬を膨らまして俺の結んだ靴紐をほどく愛奈。
イラつきそうでイラつかない微妙ないたずらやめてくれませんかね。
……。
「なんで、愛奈がここにいるんだよ。ここ薬学部バドミントンサークルだぞ」
「なんでって、このサークルの公式マネージャーになったからですよ」
「公式スポンサーみたいに言うなよ……」
「でもマネージャーになったのは本当よ」
靴紐を結び終わって、ラケットをぐるぐると回しながら紗季が補足説明をしてくれる。
愛奈の頬っぺたを引っ張っているせいでまだ準備は終わっていない俺に、『早くしろ』と目で言いながら。
だって仕方ないじゃないですか。
こいつがマネージャーになったなんて聞いてないんですよ?
例えるなら、隣のクラスの子が自分のクラスの学級委員になったようなもの。
普通できないはずなんだが。
「どうやってマネージャーになったんだよ。愛奈は法学部だろ」
「普通に、ちょっといい顔したら余裕でした」
「そこで持ってる最大の武器使うのかよ……。そして、うちの男子部員もちょろいな……」
どうやら愛奈に魅了されて許可してしまったらしい。
確かに、可愛い子がマネージャーになったらやる気出るよな。
俺も高校時代は、マネージャーがいたバスケ部やサッカー部によく嫉妬したし。
「まぁ、いっか。じゃあやるか! 紗季!」
「やっとね。待たされすぎて帰ろうかと思ったわ」
「はえーよ」
靴ひもを結び終わった俺は、自分のラケットを取り出してコートへ向かった。
今日こそは紗季をボコボコにしてやりますかね!
◆◇
「そういえば紗季」
「何よ」
俺たちはいつものように、基礎打ちをしながら会話をする。
ちなみに、愛奈はニコニコと俺が打っているのを見ている。
何がそんなに面白いのだろうか。
「このサークル、夏休みに大会に合わせて合宿があるらしいぞ」
「へー、そうなのね」
「行くのか?」
「まだ予定が分からないから何も言えないわ、ね!」
俺の質問に答え終わると、紗季は軽くスマッシュを打ってくる。
久しぶりのバドミントンと言えど、中学からやっているので体は覚えている。
軽くガットに当てて、ネット前に落として紗季にシャトルを上げさせる。
「賢太はどうするのよ?」
「うーん。大会は出ないといけないだろうから、行くと思う、ぜ!」
予想通り、紗季が上げてくれたシャトルにスマッシュを打つ。
ただ、久しぶりに打ったせいで力が籠りすぎてシャフトに当たってしまう。
「下手ねあんた。腕落ちたんじゃないの」
「しょうがねぇだろ。本当に久しぶりなんだから」
俺のコート外に出てしまったシャトルを、紗季は綺麗なフットワークで追いついて打ち返してくれた。
おかげでまだラリーは続けられそうだ。
本当に頼りになる。
「マネージャーはどうすんだ?」
「私ですか? 賢太くんの試合はぜひ応援したいですね!」
一人だけ輪に入れていなかった愛奈に言葉を投げると、にやにやとした顔のまま返答された。
俺の恥ずかしい姿は見ないでほしかった。
「そういえば、高校時代の大会も応援しに来てくれたよな」
「うん、付き合って以降は全部応援しに行ったよね」
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