第58話 俺とテレビ局
地獄のような阿瀬さんとの二者面談から数日。
俺はテレビ局で取材を受けていた。
「有峰さんって、中学時代はどんな子だったんですか?」
「そうですね、明るく元気な子でした。他校からも人気で、有峰さんを一目見ようとする男子は少なくなかったです」
「そうなんですね」
女子アナウンサーからされる質問を、俺は猫に猫をかぶって答える。
下手なことを言ってしまうと、紗季の芸能生活に泥を塗ってしまう。
なので、紗季のことを考えて一挙手一投足を慎重にしなければならないし、少し話を盛ってあげたり、今後に悪影響を及ぼしたりするような話はしないようにしなければならない。
「有峰さんがモデルになろうとしたのも、久野さんの影響が大きいと聞いたのですが、本当なのですか?」
「それは大げさですよ。僕はほんの少し背中を押しただけです。有峰さんはモデルになれるスペックはすでに持っていましたから」
「謙虚な方なんですね、久野さんって」
「そんなことないですよ」
アナウンサーが俺と目を合わせながら褒めてきたのを、俺は顔を逸らして答えた。
だって照れくさいんだもの。
この女子アナウンサーは、地方アナウンサーなのにも関わらず全国でも有名で、大学を卒業したての新人さんだ。
こんな美人に目を合わせたまま褒められて、照れない男子がいるだろうか。
いや、いない。(反語)
だから、これで照れたり恥ずかしがるのはしょうがないので、二人してそんな目で見ないでほしい。
俺はちらっと、カメラには映らない部屋の端に目をやった。
そこには、腕を組んで俺の発言を検閲している紗季と、アナウンサーを明らかに敵視している愛奈がいた。
なんでいるんだよ。VTRなんだからスタジオで見るまで楽しみにしてろよ。
そんな俺の不満をよそに、取材は続けられる。
「今となっては、有峰さんは地元だけでなく日本全国レベルで有名になろうとしてますが、友人としてどう思いますか?」
「友人としては、手が届かない存在になってしまうのは悲しいです。ですが、日本のみなさんにこんな美人な親友がいるんだぞって知ってほしいです。紗季は僕にとっての誇りですから」
なぜだろう、この話題だけはすらっと言えたような気がする。
◆◇
ひとまず紗季の取材が終わってひと伸びすると、隣に紗季が移動して来た。
「お疲れ様」
「ホント疲れたわ」
「ひどく欺瞞に溢れたインタビューだったわね。一瞬誰かと思うほどだったわ」
「文句言うな」
紗季はおかしそうに笑いながら取材の感想を述べてきた。
勝手に出させといてその言い草はないと思うの。
「でも、取材されて色々なことを思い出したな。中学時代なんて、忘れてたわ」
「そうね、昔のことを色々と思いだしたし、賢太が私のことをどう思っているのかが良く分かったわ」
そう言って、紗季はいたずらっ子っぽい笑顔を見せてきた。
今考えると、紗季をどう思っているかなんて、本人に言ったことはなかった気がする。
そう考えた途端、とてつもない羞恥心が込み上げてきた。
「馬鹿言え、それこそ欺瞞に溢れさせたわ」
「へー、まぁそういうことにしといてあげるわ」
「あ、おい」
俺が弁明する時間を与えないように、紗季は部屋から出て行ってしまった。
その顔は、クールな高校時代の顔ではなく、初めて会った中学時代のような天真爛漫な笑顔に見えた。
◆◇
「次は染井さんに関する取材になりますが、次も久野さんが答えるんですね」
「はい、本当にたまたまですけどね」
「意外と世の中って狭いんですかね? でも、こんな美人さんが二人もいて久野さんは女性に困らなそうですね。顔もかっこいいですし」
「そんなことないですよ。今だって彼女いませんから」
「そうなんですねっ!」
カメラがセッティングされるまでの間、女子アナさんとの雑談に興じる。
やはりアナウンサーだけあって、話を出させるのが上手い。
隙あらば褒めてくるので、気分が良くなって何でも話してしまいそうになる。
でも、この人の癖だろうか。
俺が見えるか見えないか微妙な所で舌なめずりをするのは少し怖いからやめてほしい。
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