第54話 名探偵だよ! ヤンデレちゃん

「あら、やっぱり気づいていたのね」

「まぁ、最初は勘だったけど、賢太くんの言動で確信を持ちました」

「まじかよ……」

「やっぱり賢太のせいじゃない」


 紗季が腕を組みながら俺を睨んでくるが、正直俺は納得がいってない。

 俺の行動に不備があったとでも言うのか?


「賢太くんは嘘が苦手な、素敵な男性ですからっ」

「物は言いようね。ただの馬鹿じゃない」


 愛奈が俺をフォローするように満面の笑顔をするのに対し、紗季は俺をけなすための無表情。

 まさに天使と悪魔という感じだ。

 いや、小悪魔と悪魔なので地獄ですね。


「でも賢太くんだけじゃないよ? 有峰さんの所為でもあるんだよ?」

「へー。そんなことないと思うのだけど、参考程度に聞かせて頂戴」

「匂い、女特有の甘い匂いが玄関から匂ってた」

「はぁ?な、なに言ってるのよ」


 愛奈の発言に、紗季が今日初めての動揺を見せた。

 その顔を見て優勢になった愛奈が、一気に偉そうになる。


 しかし、俺には全く状況が飲み込めない。

 紗季が臭くて、愛奈の鼻が尋常じゃないってこと?


「賢太くんは男子で分からないと思うから、説明してあげるね。有峰さんは――」

「べ、別にいいわよ。分からないままで」


 愛奈が俺に理由を打ち明けてくれそうになったが、紗季がそれを阻止する。

 それを見た愛奈の顔がより一層悪くなる。


「ふーん。賢太くんに知られたくないんだ。意外とかわいいんだねー」


 愛奈がニヤニヤとした笑顔で紗季を弄んでいる。

 こうして紗季が愛奈に弄られているのを見るのは初めてかもしれない。


 これに対しての俺の行動はどうすればいいのだろうか。

 知りたい気持ちはあるが、それだと紗季の気持ちを踏みにじってしまう。

 うーん、でも知りたい。


「でも、賢太くんは知りたいみたいだよ? 有峰さん」

「賢太、世の中には知ってもいいことと知ってはいけないことの二種類があるの。今回は知ってはいけないことよ」

 

 愛奈が俺の表情を見て助け舟を送ってくれるが、紗季が必死の表情で食い止める。

 紗季が必死になればなるほど気になるんだよなぁ。


「有峰さんがそこまで言うならやめてあげるけど、いつかはバレるとおもうけどねー」

「こんな鈍感馬鹿にバレるわけないじゃない」


 愛奈と紗季が俺を置いて小声で話し合い始めた。

 なんか知らんけど、俺への暴言が吐かれていることだけは伝わってくる。


「まぁ、賢太くんの猿芝居でバレたところは大きいけどね」

「ほう、猿芝居とな。面白い。説明してくれ」


 俺も自分の演技には自信があったため、愛奈に説明を促す。

 紗季の真似をしたのは、別に紗季の揚げ足取りではない。多分。


「そうだねー。ゴミ箱の中のコーヒーを拭いたであろうティッシュ。一杯目と言っていたのに、なんでそんなものがあるんだろうね。他にも、誘導尋問的に訊いた存在しない長髪。長髪なんてないのに、見るからに賢太くんが取り乱していた。あと頻りに賢太くんの目線がクローゼットに行ってた」

「スリーアウトじゃない……」

「んな馬鹿な」


 愛奈の頭の良さがおかしい。


 俺が頑張って母親と偽った長髪は、もともとなかったらしい。

 つまり、最初から愛奈の手のひらで泳がされていたということだ。

 確かに、愛奈は俺にその髪を見せることはなかった。


 でもそんな誘導尋問思いつきますかね?


 やっぱり、元カノを相手取るのは分が悪い。


 ◆◇


 結局三人で机を囲んでティータイムとなった。

 美女がそろう優雅なティータイムではなく、すごいギスギスとしたものだ。

 

 あと一日に三杯目のコーヒーは体に大丈夫なのだろうか。


「で、結局君たちは俺に何を求めているんだ」

「「私のVTRに出てもらうことよ(だよ)」」

「出たくないんだが」


 俺が最悪な空気の中、積極的に地雷を踏みに行く。

 だって、そうしないと帰ろうとしないんだもん。この人たち。


「まぁ、そんなこと言っても出ることになってるけどね」

「ねー」

「それがおかしいんだよなー」


 紗季と愛奈という最悪な二人がコンビを組んだら負け確なので、俺の相槌も適当になる。

 正直、もう出るほかないんだけど、抵抗できるなら抵抗したい。


「ローカルテレビだからいいじゃない」

「深夜番組だから見る人いないってー」

「メリットがないんだよなぁ」

「思い出になるわよ」

「うーん」

 

 思いっきりお金が出たり、有名人に会えるとかならいいんだけど、そういうのが無いしなぁ。


 そうして三人で頭を抱えていると、愛奈が名案を思いついたのか、急に立ち上がった。


「分かった。賢太くんが私にしてほしいこと何でもしてあげるよっ」

「えっ、マジ?」

「うん。本当に何でもしてあげる。あーんなことや、こーんなことまで」


 そういって愛奈がニヤニヤしながら俺に色々なジェスチャーを見せる。

 脳内ピンク一色な愛奈が、やばい発想をしていることがよく伝わるひどいボディランゲージだ。


 でもこれは使える。


「その提案乗ったっ!」


 俺の発言で紗季からビンタを貰ったが、私は元気です。

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