第53話 ミスコン
「……どういうことだ?」
俺は聞いたことのある話だと思いながらも、愛奈に説明を促す。
「私って、賢太くんとの冷却期間中に女子高生ミスコン出たじゃん?」
「そんなこと言ってたっけ」
「言ったよー。忘れん坊だなー」
机越しに俺の頬っぺたを引っ張る愛奈に、俺はされるがままになる。
本当にいつ言ってたっけ?
俺がうねりながらも思い出すことに奮闘していると、愛奈は言葉を続けた。
「本当に忘れちゃったんだねー。これでも私、全国の女子高生の中で三番目ぐらいに入賞したんだよ?」
「へー、そうなんだー」
「むー。さては、信じてないなー」
俺の適当な相づちに不機嫌になったのか、頬を膨らませる愛奈。
小さな顔をリスのように膨らませ、強調された桜色の唇に目が奪われる。
いわゆるぷく顔が、一定そうに人気があることを痛感した。
こりゃミスコン入賞するわ。
なんだったら優勝してもおかしくないだろ。
「優勝はできなかったのか?」
「うーん。できそうだったんだけど干されちゃって……」
「干される?」
「うん。彼氏いるって言ったら票が吹っ飛んじゃった」
「あー……」
愛奈はそう言いながらも納得がいかないという顔をしている。
なんだったら、恨んでいるのか目が血走り始めた。
小声でこの世とは思えない罵詈雑言も聞こえてきたし。
いや、そりゃそうだろ。
なんで納得いってねぇんだよ。
アイドルに熱愛スクープあったら、ファンは離れるだろうよ。
ここら辺の話はシビアだから深くは考えないけど。
そうして、しばらくすると愛奈は冷静を取り戻したのか、顔がいつものかわいらしいものになる。
「それで話し戻すんだけど、入賞したから芸能界から色々とオファーが来たの」
「行けばよかったじゃないか」
「あの女を芸能界で潰すのも面白いとは思ったけど、賢太くんとの時間がつぶれちゃうからやめちゃった」
『てへっ』とばかりに、愛奈が舌を出しながら俺にお茶目なウインクを送るが、俺は騙されない。
色々と物騒な言葉出てただろ。
「それがなんで、俺がテレビに出る話になるんだ?」
「私が今度、密着番組出ることにしたから賢太くんにも彼氏役で出てくれないかなって」
「なんで彼氏役なんだよ。友達役でいいだろ」
これ絶対、紗季と同じ番組だわ。
スタッフもびっくりだろ、まさか共通の友人が出てくるなんて思ってないだろうし。
俺が断ろうと言葉を考えていると、愛奈が急に俯いて震えだした。
えっ、もしかして泣いてる?
「実はね。ぐすっ。非公式な私のファンクラブがあって、そこで私の写真が流出してるの……」
「えっ」
「だからこれをきっかけに、彼氏がいることを広めてやめて貰おうかなって、ぐすっ」
「……」
愛奈が意外なところで苦労しているのを知って絶句してしまった。
インターネットが広がった今では、ネットストーカーやSNSでのトラブルというのはよくある話だ。
かわいい女子の画像というものは、色々と悪用されがちだ。
男の俺には分かる。
そんなことに仲のいい友人がその被害にあっていると思うと、手を差し伸べてあげるのが友達の役目だろう。
しかし、今回は場合が場合である。
愛奈の言うとおりに彼氏役で出たら、きっと俺がネットでつるし上げられるだろう。
俺はセンチメンタルなので、ネットでの誹謗中傷は耐えられない。
デジタルタトゥーとはよく言ったものだ。
「うーん」
「賢太くん、そんなに私の彼氏役でテレビに出るのは嫌なの?」
「いや、そういうわけでは――」
「私って、日本で三番目に可愛いって言っても過言じゃないんだよ?」
『私のことをもっと見て』とばかりに、顔を近づけている愛奈。
その顔は先ほどとは打って変わって、少しニヤついた笑顔だ。
その小悪魔的な笑顔を見て、先ほどの涙は演技だったことを悟る。
結局は、俺の同情を誘って隙を生じさせ、後はお色気と言ったところか。
その証拠に、今では愛奈の顔が近づきて目の部分しか見えん。
完全に隙を突かれた俺の唇に、愛奈の唇がくっつきそうになったその時、クローゼットが開いた音がした。
「私がいる前で破廉恥なことができるとは思わないことね」
「やっと出てきたんですか? 泥棒猫さん?」
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