第48話 幕間 学校での彼女 前編

 私が教室に入ると、周りからの視線を一瞬で集めてしまった。

教室に入ってここまで視線を集めたのは、入学式に容姿で話題になって以来だろうか。

まぁ、あの時の視線とは百八十度も違うけど。


やはり、車いすは奇異の目で見られるのが定め。

私だって学校にけが人が来たら野次馬になる自信がある、だから彼らを責められたものではない。


 幸いなのは授業中なので気づくのは保護者のみ。

 まさか、授業中にクラスメイトが後ろを向いて私に気づくことはないだろう。


 しかし、そんな安心もほんの束の間だった。


 ある生徒がこちらをふらっと見て来たのだ。

 それは、なにかに導かれて振り向いたのか、それともなにかを感じ取って振り向いたのかわからない。

それでも、彼女なら私のことに気づくと思っていた。


 さすが私の親友だと思う。

きっと、私と心が通じ合っているからだろう。


 「凛ちゃん...?」


 なんですかその顔。

 しばらく会わない間に変わったのかと思ったら何も変わってない。

 しかも、『凛ちゃん』だなんて敬称なんてつけたことないでしょうに。


 一人が気づくとそれは連鎖式に広がるもので、クラスメイト全員に気づかれてしまった。

みんなして驚きと喜びの表情でこちらを見る。

病人になってこんなに温かい目で見られるのはあの男以外ではとても珍しい。


……。


 本当にしょうがないクラスだ。


◇◆


 担任の先生も私が来ることは知っていたのか、授業が中断になってしまっても笑顔で何も言わなかった。

 きっと先生も私のことを心配してくれていたのだろう。

 

 クラスメイトからの言葉に返答していると、一人の友人から一緒に授業を受けようと言われた。

 これはさすがに無理だろうと拒否していると、教室内の雰囲気が敵一色に染まったのを感じる。

 簡単に断れる空気ではない。

 

こうなったら、責任者の訊くしかない。

 後ろにいる久野さんに助けを求めようと振り向くと、そこには誰もいなかった。

 

あいつ! 捨てやがった!


 結局、先生が許可したことで私は約一年ぶりに教室で授業を受けた。


◇◆


一年ほどぶりに受けた授業は新鮮だった。

遠隔や病室で受ける授業も楽だが、みんなと受ける授業は一味も二味も違う。


正直に言ってとても楽しい、そして懐かしい。

一人は授業中にふざける人がいて、数人が寝ている人がいる。

公開授業なのに内職をする人もいるのは流石だと思う。


そんな授業も終わり、放課後になった。

みんなと話していると時間の流れが速く感じる。

孤独な病室ではあれほど時間の流れが遅かったのに。


せっかく学校につれて来てもらったのだ。

久しぶりに部活動も見ていきたいと思う。


私は足として玲菜に車いすを押させることにした。


◆◇


久しぶりに私が所属していたバドミントン部を見学するとだいぶ変わっていた。

知らない後輩や、いつの間にかの世代交代。

ジェネレーションギャップを感じるおじさんの気持ちが分かった。


「凛が抜けてからもみんな頑張ってたんだよ?」

「見ればわかる。私が部長だった時より強くなってる」

「はは。いや、それはないかもだけど……」


玲菜が私がいないときの部活の状況を説明してくれる。

玲菜は副部長だったので、きっと私の穴を埋めてくれたのだろう。


「大会、そろそろあるんでしょ?」

「そうだね。引退試合が来月ぐらいにあるね」

「応援に行くね」

「ほんとう? 約束ね」


私がいないこの部活の最後は、しっかりとこの目で見たい。


◆◇


時刻も夕方になり、部活も終わったので帰ることにする。

きっと久野さんもずっと待っててくれているだろう。

私を捨てたことは決して許さないが。


いったい何で償ってもらおうかな?


「凛、なんか嬉しそうだね」

「へっ、なにが?」

「なんか顔が緩んでたよ」


友人の一人が、隣から注意してくる。

全く自覚はなかったが、そんな顔をしていただろうか。


「そういえば、凛は男の人と今日来てたよね。ちょっとイケメンの」

「「「「「えっ?」」」」」


玲菜の爆弾発言で、周りの友人がギョッとした。

私と久野さんが一緒にいた、わずかな時間を玲菜は振り向いた時に見ていたらしい。


「ちょっと、凛っ。彼氏はバドミントンって言ってたじゃない」

「違うって!」

「しばらく学校に来ないと思ったら、男を作ってたなんて」

「けど、凛の見た目なら当たり前よねー」

「付き合っているなら言ってよ! お互い恋の秘密はなしって言ったじゃない!」

「だから違うって!」


私の否定も、恋バナをする女子高生に全く効いていない。

いかにも女子高の高校生らしい。


「で、どうなの? あの人のこと好きなの」

「す、好きって言われても……」


玲菜に訊かれて思う。

私にとって彼はどのような存在なのだろうか。

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