第47話 車いす少女の羽ばたき

高校の校門をくぐると、授業中なのか生徒は見えないが、保護者はちらほらと目に入る。

さすが女子高と言ったところか、保護者の方もなんか上品な美人が多い気がする。


久しぶりの高校なので気分が上昇している俺に対し、久しぶりの高校だからこそ気分が低下している阿瀬さん。


「まだ怖いのか?」

「正直言って、怖いですよ……。今だって、目立ってますし……」


阿瀬さんの言葉につられ周りを見合わすと、車いすの人はおろかサングラスをつけている人すらいない。

帽子とサングラスをつけて車いすに乗っている阿瀬さんは、目立っているというより浮いてしまっている。


「なら一緒にいる俺も同じだ。二人で目立とうぜ!」

「……なんですか、それ。まったく意味わかんないです」


俺が思い切って胸を張ると、阿瀬さんがクスッと笑ってくれた。


こんなことで笑えるなら笑ってほしい、軽い気持ちでいてほしいから。


◆◇


阿瀬さんが通う高校は私立高校のためエレベーターもついており、バリアフリーも完璧。

なので、車いすでも余裕で三階にある阿瀬さんのクラスまで行くことができた。

エレベーターがなかったら、おんぶで運ぶハメになると思っていたので非常に助かった。


そんなこんなで、次の曲がり角を曲がるだけで目的の教室に着く。

最終確認で阿瀬さんを見ると、浮かない表情をしていた。


やはり、まだ早かっただろうか。


「大丈夫か? 行けそうか?」

「……はい。行きます。行かせてください」


言葉を聞く限りは頼もしいが、体が小刻みに震えてしまっている。


「無理してないか? また来月にするか?」

「連れてきておいて何てことを言うんですか。ここまで来たら行くしかないでしょう?」


そう言い終えると、阿瀬さんは自分の力で車いすを発進させる。

俺から離れていくのに、その背中はいつもより大きく見えた。


◆◇


扉から中を伺うと、入ろうとしている教室は授業中で、生徒が黒板の内容を板書しているのが見える。

生徒の後ろには彼女らの保護者が見守っていて、教室内は厳粛な空気が漂っている。


この中を入るのはなかなかに厳しいことに思う。

遅刻して授業中に教室に入るようなものだ。

やばい、そう考えると俺も入るのが嫌だ。


けど、俺が躊躇したってしょうがない。


「行くか」

「はい。行きましょう」


阿瀬さんは身に着けていた帽子とサングラスを外し、遂に意を決したようだ。


それを見て俺は後ろの扉を開けて入室する。


ガラガラ。


その音につられて、あまり授業に集中していなかったであろう女子が振り向いた。


「凛ちゃん……?」


その言葉を皮切りに、教室内がお祭り騒ぎになった。

そして俺は、こっそり阿瀬さんを置いて教室から出た。


◆◇


そこから夕方になり、俺は校門で待っていると、ぽつぽつと生徒や保護者が下校するようになった。

しかし、その中に車いす少女の姿は見えない。


……遅ぇな!


気を利かして阿瀬さんを教室に放置してから八時間ほどが経っている。

その間、学校を放浪して警備員に話しかけられたり、職員室に呼ばれたりして暇をつぶしていたのにまだ出てこない。


そろそろ捨てて帰ろうかと思っていた時に、下駄箱から大きなグループが出てくるのが見えた。

その真ん中には、いつもより笑顔が似合ったあの少女がいる。


「久野さんお待たせいたしました」

「ほんとだよ」

「あうっ」


俺は阿瀬さんのおでこにデコピンを食らわせる。


すると、周りからキャーという声が聞こえた。

あっ、他の子がいるのに待たされた怒りから復讐してしまった。


「この人が久野さんかー。かっこいいねっ。凛ちゃん」

「な、なに言ってるのよ、玲菜」

「凛が惚れるのも分かるわね。優しそう。」

「いいなー。私も共学に行けばよかったかなー」


俺を置いて盛り上がる女子グループ。


今時の女子高生って感じがする。

苦手だなー。


「もうっ、いいから帰ろっ。久野さん」

「お、おう」


周りからの冷やかしに耐えられなくなったのか、阿瀬さんが俺を遠慮なく車いすで轢いて先を促す。

結構真面目に痛かったので、女子から運転を代わって帰ることにする。


「またねー、凛ちゃん」

「お幸せにー」

「うるさいっ」


口では悪態をつきながらも、振り向いて友達に手を振る阿瀬さんは笑顔だった。


◆◇


「で、どうだった?」

「今更そんなこと聞くんですか?」


『つまんねーこと聞くなよ!』とばかりに、阿瀬さんの声には不満が含まれていた。

まぁ、訊くまでもないことだったよな。


「さいっこーでした。久野さんが言っていた通り、なんでこんなにうじうじしていたんだろうって思います」

「だよな」


阿瀬さんは今までにないほどのはしゃぎっぷりで、友達と話せたことがたまらなく 嬉しかったであろうことがひしひしと伝わってくる。

それを見て俺も、嬉しさを感じる。


二人してうきうきとしながら帰路についていると、阿瀬さんが急に後ろを向いてきた。


「あっ、そういえば私のことを途中で捨てましたよね。久野さんがついててくれると思ってたのに!」

「捨てたんじゃない。置いていったんだ」

「なおさらタチ悪いですよ!」


そこまで言い切ると、ここまでの流れを読んでいたのか、ニヤッとした顔をする阿瀬さん。


「これは罰ゲームですよ。」

「罰ゲーム?」

「はい。これからは私を『凛』と呼んでくださいっ」


……。


「そしたら、手術受けてあげますっ」



ーーーーーーーーーーーーーーー


皆様のおかげさまで、20000PVを突破することができました!

誠にありがとうございます!ありがとうございます!


そして、二部も終えることができました。(多分)

ここまでの展開はなにかとシリアスばかりで、個人的にラブコメとは言えないものだったのですが、三部からは正統派のラブコメを書きたいと思っております。

そして、皆様が好きであろう甘いイチャイチャシーンを増やせたらと思います。


また、新年度が始まることによってついに私生活が忙しくなってしまいました。

その結果、更新の速度がより遅くなることが予測されます。

申し訳ありません。


これからもよろしければ読んでいってください。

よろしくお願いします!本当にありがとうございました!


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