第44話 克服
こうして高校時代を思い返してみると、なかなかに楽しい時代だったと思う。
部活や青春、少し努力が足らなかったが勉強も頑張っていた。
世間一般的にはリア充のほうに分類される人間だった。
なのになぜ、俺は三年生になってぶっ壊してしまったのだろう。
俺はそのことを今でも燻っていて、成長できていない。
だがそれも今日で終わりだ。
俺は二人についていけるように成長する。
◆◇
三人で高校時代の話をしていると、あっという間に時間が過ぎていく。
同じ経験であっても、話す人の目線によって考え方や捉え方が違うので面白いものだ。
修学旅行で夜更かししながら話すのに通ずるものがある。
しかし、楽しい、懐かしい時間も終わりだ。
俺は姿勢を正して、愛奈に正対する。
「愛奈、ごめんな。わがままに連絡先を消して」
「いいよ。確かにあの時は傷ついて、何もかもが嫌になったけど。今ここに賢太くんがいるから、いいよ」
「本当にごめん」
俺は正面に座っていた愛奈に頭を下げる。
それに対して愛奈は小さく手を振って許す仕草を見せる。
本当にいい元カノだと思う。
俺だったら、好きな人からいきなり連絡が来なくなったら恨む自信があるというのに。
「紗季もごめんな。連絡しなくなって」
「いいわよ。私は同じクラスだったから毎日話してたし」
「それもそうか」
俺と紗季は顔を合わせて笑い合う。
本当に良い親友を持ったものだ。
◆◇
「これで賢太の受験期連絡消滅事件は解決ってことかしら?」
「二人がいいなら、元通りだな」
「じゃあ、解決だねっ」
愛奈も含めて、改めて三人で笑い合う。
ずっと胸につっかえていた黒い何かが溶けていく感じがした。
こんなにすんなり許してもらえるなら、もっと早く行動すればよかったと思う。
行動のきっかけとなった阿瀬さんには感謝しないといけない。
「じゃあ、元通りってことで、今からは復縁だねっ、賢太くんっ」
「「えっ」」
笑いが絶えなかったカフェの一卓が静まり返った。
えっ、そういうことになるの?
「それは流石に違うんじゃないかしら。そもそも私があなたたちを認めたことは無いのだけど」
「去年から全く成長してないんですかー? なぜ賢太くんとの交際にあなたの認可が必要なんですか」
ほらまた喧嘩し始めたー。
結局俺を含めて三人とも成長してないじゃん。
でも今はこんなくだらないやり取りを見るのも、高校時代が帰ってきたみたいで楽しかった。
◆◇
「「賢太(くん)はどうなのっ」」
二人の口論では決着がつかないのか、当事者である俺に意見を求めてきた。
「正直分からない。勝手な話だが、高校時代と比べて愛奈に対する愛は冷めてしまっているように感じる」
「ほら見なさい!」
水を得た魚のように息を吹き返した紗季が愛奈にマウントを取る。
紗季には申し訳ないが、俺は言葉を続ける。
「でも、この前に愛奈に言われたように、自然消滅とは言えないような気もする」
「ほらぁ!」
今度は愛奈が紗季に指をさしながらマウントを取る。
子供っぽいからやめなさい?
そうして俺は口を閉じ、二人の行く末を見守ろうとすると、二人から睨まれる。
「「で、結局どうなのよ、賢太(くん)」」
……。
息が合ってるなぁ。本当は仲がいいでしょ君たち。
「ほ、保留」
隣の紗季に首を絞められ、前の愛奈からはおしぼりが投げられた。
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