第42話 俺と紗季と愛奈の過去 ~理由~
「ほ、保護者……?」
紗季の顔が一瞬で青くなっていき、目が泳ぐ。
呼吸もどんどんと浅くなっていくのが見て分かる。
これはまずい。
症状が出始めてしまっている。
俺は愛奈を振りほどき、席を立って紗季の背中を軽く撫でてやる。
人間、辛いときや落ち込んでいるときは背中を撫でられることが一番効果的だ。
「愛奈、今日は一人で帰ってくれないか?」
「う、うん。そうした方がいいよね」
愛奈は状況が分からないという顔をしているが、持ち前の察する能力で場を読んで素直にうなずいた。
こういう時に、愛奈の人の気持ちが読める能力はありがたい。
俺は謝りながら愛奈が教室から出て行くのを見送ると、俺は紗季の体調を気遣う。
「大丈夫か、紗季」
「え、ええ。不意だったから驚いちゃっただけよ」
紗季は震えながらも、俺に心配をかけまいと気丈に振る舞う。
しかし、さすがに三年以上の付き合いがあると分かるものはある。
モデルはできても女優はまだできないな。
「無理すんなって。今日は家まで送るよ」
「あら、彼女持ちのくせに送り狼なんてやるのね」
「言ってる場合かよ」
俺は紗季の手を引いて教室から出る。
もちろん、紗季の荷物も持ってやる。
「叔母さん家は駅の方だったよな」
「ええ、引っ越してなんていないから安心して」
俺がぐいぐいと手を引っ張りながら廊下を歩いていると、後ろからボソッと声が聞こえた。
「ごめんなさいね」
謝るなよ。
そういうのは言いっこなしだろ。
◆◇
翌日。
学校に着き、机に荷物を置くと隣から愛奈が近づいてくる。
そして、愛奈に話しかけられた。
「ねぇ、賢太くん。昨日のことなんだけど……」
「そのことなんだが、悪いけど愛奈には話せないんだ」
俺は愛奈から目線を外し、ばつが悪そうに答える。
登校前から訊かれることは分かっていたが、どんなに恋人といえど言えないことはある。
自分のことならまだしも、紗季という第三者のことだ。
個人情報保護法に引っかかってしまう。
「これは別に信頼していないというわけではなくて――」
「別にいいよ。きっと複雑な事情があるんでしょ?」
愛奈は儚い笑顔をしながら俺の意図を汲み取ってくれる。
なんて良い彼女なんだろう。
本当に人の気持ちを慮るのが上手い彼女だ。
俺が愛奈の人柄に感動していると、愛奈は言葉を続ける。
「そんなことより、有峰さんに謝っておいてくれないかな? どうやら私、無遠慮な発言をしてしまったらしいから」
「それぐらいはしとくけど。直接本人に言わなくていいのか?」
「それはいいかな。私、有峰さん嫌いだから」
おいおい、無遠慮な発言を反省した直後にまた出ちゃってますよ。
せっかく殊勝な心掛けだと感心していたのに無意味じゃないか。
けど、これは嫌いな理由を聞く絶好の機会だ。
「どうして愛奈は紗季のことが嫌いなんだ?」
「どうしてって……」
愛奈は頬を膨らませたまま、顔をぷいっと背けてしまう。
若干顔も赤くない?
「……いいから」
「えっ?」
「かわいいからよっ! まさか私と張り合うような女子が学校にいるなんて思ってなくて嫉妬してんのよ! なんか悪い!?」
別に難聴系主人公をやっていたわけではなく、単純に聞こえなかったので聞き直したら逆切れされてしまった。
というか、嫌う理由かわいっ。
「ほんとにそれだけか?」
面白くなってきたので深堀りしてみる。
もしかしたら埋蔵金でも埋まっているかもしれない。
「あ、あと……」
「あと?」
さらに愛奈は赤面させ、顔を背けた。
「私以上に、賢太くんのこと知ってるから……」
俺の彼女最高かよ!
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