第39話 愛奈の大過去 ~『恋』~

 付き合い始めて数週間が経ち、学年を通り越して学校全体に私たちカップルのことは知られていた。


 周りの人からは祝福や冷やかしをたくさんもらった。

 彼氏はその度にとても浮かれていたが、私は何も感じなかった。

 

 考えてもみてほしい。

 好きでもなく、ただの義務感で付き合っているだけなのに周りから祝福されることを。

 ただただ周りが騒がしいと思うだけ。

 

 そもそも私は誰かに付き合っていることを公言したことはない。

 

 このことから考えるに、彼は私と付き合っていることを言いふらしているらしい。

 いや、自慢して回っているらしい。


 私にはそのことが耐えられなかった。


 彼氏にとって彼女は装飾品なの?

 時計やネックレスと同じで、人と比べて優劣を決めてマウントを取るの?


 ばかばかしい。

 

 しかしそれよりも耐えられなかったのが、彼氏の束縛が酷かったこと。

 他の男子と口を利くことも、連絡することも、顔を合わせることも禁止された。

 

 しかし、唯一の例外として、もう一人の仲が良かった男子と話すことは許された。

 きっと、一緒に過ごした仲からの情けからだろう。

 そこが私にとってのオアシスだった。

 

 彼に交際中の辛いところや、彼氏の愚痴を言ってストレスを発散していた。

 

 彼がいるから私はまだ耐えることができる。


 そしてついに、そんな日常も終わりを告げる。


◆◇


 交際してから一ヵ月が経った頃、体を求められるようになった。


 私は彼とキスはおろか、手をつなぐことすらしてこなかった。

 そのことが彼にとって生殺しだったのか、それとも周りに自慢できる話がなくなってきたからなのかは分からない。

 きっと両者だろう。


 私はもちろん拒絶した。

 その場はそれで退いてくれたが、彼の目からは『次はないぞ』という感じがした。


 このことをもう一人の男子に相談したところ、別れた方がいいと言われた。

 

 心身が衰弱していた私に、一人で物事を考えるほどの力は残っていなかった。

 なので素直に彼の言うことを聞いて別れることにした。


 そもそもグループを守るために付き合い始めたのに、その束縛のせいでグループが集まるとは一回もなかったのだ。

 これ以上付き合っている意味がない。


 これでやっといつもの学校生活が送れる。

 

 そう思っていた。


◆◇


 彼氏と別れると、すぐにその話は学校に流れていった。

 そのことにはもう慣れていたが、その話には尾ひれがついていた。


 話によると、私が浮気してフラれたことになっている。

 私は浮気なんてしていないし、振った側であるのに関わらず。


 このことによって、私の学校の評価はどん底にまで落ちていった。

 クラスでの気の使われ方もよりひどくなり、言われなき誹謗中傷も受けた。

 

 元カレに尋問したが、彼が流したわけではないらしい。

 もはや元カレのことなど侮蔑していたので、信じなかったが。


◆◇


 その結果、まともに話すことができるのはもう一人の男子だけになった。

 彼だけは私のことを慰めてくれたし、世間体が悪いことも気にしないでくれた。

 むしろ積極的に私と触れ合ってくれた。


 一緒に帰るのも、一緒に遊ぶのも彼とだけ。

 もはや彼といない学校生活はあり得ないほどに、依存していった。


 そんなある日のこと。


 今日も彼と帰ろうと廊下を歩いていると、教室から彼と友人の談笑が聞こえてきた。

 それ自体は普通のことだが、話していた内容が許容できるものではなかった。

 

 


 噂を流していたのは元カレではなく彼だった。

 彼は私に頼られていたことを自慢していた。

 

 精神的にやられている子は優しくすればすぐに落ちるらしい。

 つまり、今こそが私を堕とすチャンスらしい。

 

 私はその日、一人で帰って部屋に閉じこもった。

 

 ああ、私が私でなくなっていくのを感じる。


 ◆◇


 男女間の友情っていったい何なんだろう。


 私が友達と思っていたものは、向こうからしたら違うものだった。

 二人して最初から私を狙っていたんだ。


 男なんてきっとみんなそうだ。

 結局は顔と体だけ。


 ひどく裏切られた気分だ。気持ちが悪い。


 こんなことになるなら、この顔なんて要らない。

 望んで手に入れたものではないのに。



 ……。







 いや、違う。




 




 これが『恋』というやつなんだ。


 手に入れるためなら何でもしていいんだ。

 自分を高みへと行くための方法として、使われるものなんだ。


 


 だってそれが、『恋』なんだから。


 男子がそんな風に使うなら、私も『恋』を利用してやる。

 この恵まれた容姿を使って、私は私の思うままに生きる。

 男子を利用して、使い切ったら捨ててやる。



 


 だって、これが私にとって『恋』なんだから。


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