第15話 紗季と元カノと修羅場
「賢太くんっ!」
かつて俺と心を通わせていた少女が、俺のもとに一心不乱に走ってくる。
逃げなければならないのに、まるで金縛りにあったかのように体が動けない。
しばらく会わない間に、元カノはメドゥーサにでもなったのだろうか。
「会いたかったよぉ!」
結局元カノは俺の前まで来て思いっきり抱き着いてくる。
抱き着いた時の頭の位置、胸の圧迫感、におい、すべてを俺は覚えている。
間違いない、こいつは俺の元カノだ。
そう俺の意識が飛んでいる間、当の元カノは長い空白期間の埋め合わせなのか、頬を俺の胸にすりすりとこすりつけている。
ナンパされているという事実を全く忘れてしまっているのだろうか。
「おいおい、嬢ちゃん。まだナンパの途中だぜ……って、またお前かよ!」
「おいやべぇよ、また幼児退行野郎の女だぜ。手を引いた方がいいって」
「それなー」
チャラ男は元カノを追いかけてきて、俺の顔を見るなり顔を見合わせる。
ひそひそと話し始めたが、チャラ男の性かそれでも声が聞こえてくる。
諦めんな!行けるって!元カノを貰ってくれ!
身動き一つ取れない俺は目で頑張って訴えるが、チャラ男はこちらを見ようともしない。
必殺技が効きすぎたか。
それでも俺が頑張っていると、恐ろしく鋭利な言葉が聞こえてきた。
「うるさいですね。消えてください」
元カノは頬ずりをやめ、目だけそちらに向けて言った。
その発言で時間が止まる。
簡潔な言葉であったが故の殺傷力で、顔とのギャップが加わると、それはもう人を殺せそうだった。
実際問題、ここにいる全員の動きが止まって静まり返ってしまっている。
「……失礼しましたー」
「ざしたー」
そう言うと、チャラ男たちは静かにその場を後にしようとする。
心なしかチャラ男たちの色が薄くなって、向こう側が透けて見える。
待って!行かないで!
俺の願いも届かず、チャラ男たちは脱兎の如く逃げだした。
「これで落ち着いて話せるね!賢太くんっ」
元カノは俺の胸の中で、上目遣いになって俺のことを見てくる。
どうやら、元カノの目にはもう俺しか映っていないらしい。
近距離でこの上目遣い、一度別れてなければ即死だった。
俺はたじたじになりながら言う。
「い、いや、そういうわけには……」
俺がたじたじになっているのは元カノの顔が近いだけではない。
「あら、お久しぶりね。
近くにいた紗季がついに口を開いた。
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