第13話 紗季と必殺技

 俺と紗季はああいう眩しく軽薄そうな人たちが苦手だ。

 特に紗季は、軟派な人を性別問わずにとんでもなく嫌う。

 

「すいません。二人で食べると約束してるので」

「そうは言ってもさ。その人全然来てないじゃん。約束忘れちゃってんじゃね?」

「ずっと暇そうに待ってるじゃんかー」

「それなー」


 紗季は笑顔で優しく応対しているが、目が笑っていない。マジでキレる五秒前だ。

 しかし、それにまったく気づかないチャラ男たちは、他のテーブルからイスを取って一緒に食べようとする。

 これを許したら、どいてくれることは無くなるだろう。

 俺は腹をくくった。


「あ、紗季。ここにいたのか。探したんだぞ」

「遅いよ。賢太っ」


 俺が勇気を出してチャラ男たちの前に出て、紗季と合流する。

 それに合わせるように紗季は椅子から立ち上がり、俺の背中に隠れる。


「あ?なんだお前?」

「俺たち一緒にご飯食べる約束してるんだけど」

「それなー」


 案の定、ナンパの邪魔をされたチャラ男たちが凄んでくる。

 めっちゃ怖いやん。めっちゃ逃げたい。

 脳内で逃げ方を模索していると、背中に痛みが走る。

 後ろに視線をやると、俺の心を読んだであろう紗季が、俺を睨みながら背中をつねっていた。

 そういうことしちゃダメでしょ。


「なにイチャイチャしてんだテメェ!」


 ほら怖いお兄さんが怒っちゃった。

 しょうがない。いつも通りのパターンか……。

 俺も精一杯のにらみでチャラ男たちを威嚇する。


「お前らこそ何なの?俺が紗季とご飯を食べる約束してたんだが」

「お前が先約か。なら一緒に食おうぜ」

「やだ」

「やだじゃねぇよ!ただ一緒にご飯食うだけだろ!」

「ダメ」

「なんだお前!減るもんじゃないだろうが!」

「やだ」

 

 こうしてチャラ男と押し問答すること数分。

 途中で何度か手を出されそうになったが、チャラ男たちはあきらめてどこかに行った。

 今までに俺と紗季の食事を邪魔する奴はたくさんいた。

 別に普通の人とは一緒に食べることもあるが、このような人たちはお断りさせてもらっている。

 普通に断っても聞いてくれないときには、こうやって幼児退行ひっさつわざを使って力づくでどかしてきた。

 そのおかげか、薬学部キャンパスでの食事に邪魔されることは無くなった。

 知り合い外の人に『久野賢太はやばい奴』という共通認識が広がっていることは別の話だが。


「ふふふ。やっぱりこれ面白いわね」

「楽しんでんじゃねぇぞ」


 後ろにいた紗季が笑いながら言ってくる。

 さっきまではおびえたような顔をしていたのがウソのようだ。

 やっぱこいつ女優で食っていけるわ。


「ご飯食べるか。無駄に時間使ったしな」

「そうね。食べましょうか」


 なんだかんだあったが、紗季と二人で食べるご飯の時間が俺はたまらなく好きだ。

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