第10話 車いす少女との戦い

 他の病室の掃除と会話はしてきた。

 俺の目の前にある病室は、因縁のあの少女の部屋だった。

 ノックしようとする手は緊張で震え、心がとても重い。

 だが、紗季にあそこまで言われた以上、退くわけにはいかない。

 紗季だけでなく、今日話した患者さんからも元気をもらった。

 行くしかない。

 

 コンコン。


「失礼します。清掃に参りました」

 

 ノックしてから入る。

 扉を開けて室内を見ると、あの時と同じで、物語の中からでてきたような少女が窓から景色を見ていた。

 入室したことにも気が付いていないようにすら見える。

 どうにかして、会話しなければ。

 しかし、会話の話題はとても注意して選ばなければならない。身体的特徴や、病気の話だともっても他だ。絶対に地雷を踏む。

 ここは……。


「今日はいい天気ですね」

「……」

 

 残念ながら、女子との会話スキルがなかった……。

 本当は前もって会話のタネを考えてきていたのだが、あまりの麗しさにすべてふっとんだ。

 かわいい女子に話しかける緊張感と、話しかけるなオーラの中話しかける緊張感のダブルパンチ。

 心が折れそうだ。


「こんないい天気の日は掃除が進んじゃうね」

「……。」


 俺はあきらめないぞ、絶対に会話してやる!



………



 今日もダメだったよ……。

 懸命に話しかけたが、一回も反応がなかった。

 ただ、これで終わるわけにはいかない、これで済むと思うなよ。


◆◇

 

 翌日。


 今日こそは話してみせる。

 この日のために、自己啓発本だって読んできたんだ。負けることはないはず。

 帯に『女性との話し方を教えます。』って書いてあったし。

 行くぞ!


「すいません。恋愛の色相環理論って知ってますか?」

「……。」



………



 なにが悪かったんだろうか。

 今時の女の子って、恋愛第一主義じゃないの?

 結構自信があったのに、すべて無視するじゃん。

 もう一回勉強しなおそう。


◆◇


 また翌日。


 やばい、今までで一番自信がある。

 前回の反省を活かして、恋愛小説を読んできた。自己啓発本はもちろん捨てた。

 恋愛って理論じゃないんだ、感情論なんだ!

 よし、行くぞ!


「前世の恋愛ってさ、時空を超えて来世に続くらしいですよ」

「…………。」



………



 あれー、なんでだろう。

 難しい話は若者にはきついかと思って、やさしい話をしたんだけど。

 なんか最近、少女がいっそう俺から顔を背けている気がする。

 もしかして……。


◆◇


 またまた翌日。


 もう今回で無理なら、一人の力では無理だ。それくらい自信がある。

 少女漫画を読んできた。なぜ最初から少女漫画を読まなかったんだろうってくらい、勉強になった。

 ちなみに、恋愛小説は紗季にあげた。読みすぎでクタクタになっていたが、喜んでくれた。

 では、行くぞ!


「芋けんぴ、床に落ちてたよ」

「………………。」

 



………



 うーん、照れちゃってたのかな。

 これで心を開かないはずがないんだけど。

 小説みたいなフィクションが嫌いなのかと思って、リアルなのを出したのに。

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