第4話 バイトの面接
待望のゴールデンウィーク初日の朝。
多くの人たちが海や山に遊びに行って楽しんでいるであろうゴールデンウィーク。
そんな日に俺は一人、重い足取りでバイトの面接へと向かっていた。
ただの清掃のバイトに面接の必要があるのかと、疑問に思いながらも歩く。
一応、面接では第一印象がとても大事。
そのため、きっちりとした服装をしてきたのだが、それがとても恥ずかしい。
身長が低い俺にはスーツが似合わないし、休日にスーツを着ている人なんていない。
それに加え、病院の前が女子高だからか女子高生とよくすれ違う。
なんて日だ!
……あれ、俺はいつからこんなに自意識過剰になったのだろうか。
「まぁ、俺なんか誰も見ていないか」
俺の小さな独り言は、憎いほどの晴天に溶けていった
◆◇
病院に着くと早速、事務室へと通された。
そこには、顔にしわが深く入っていて白髪が渋い、眼鏡が似合うダンディな老人がいた。
白衣を着ていることから、いかにもこの人が病院の院長だろう。
院長の風格というか、威圧に気圧される。
緊張してきたし、体が震えてきた。
院長がこちらに気がつくと、何かを見透かすような視線を向けてくる。
「おお、君が今回のバイトの人かい?」
「は、はい、これから働かせていただく久野賢太です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いするよ」
院長が出した手を、俺は恐る恐る握って握手をする。
多くの人を救ってきたであろう院長の手は、硬く暖かい気がした。
俺はカバンから書いてきた履歴書を出して渡す。
「ありがとう。ちょっと見る時間をいただくね」
そういうと、院長は先ほどと同じ目つきで、履歴書を注意深く読んでいった。
申し訳ないことに、そんなに集中して読むほどの履歴は俺にはないのだが。
院長との二人きりで無言の空間を、居心地悪く過ごす。
しばらく経つと、院長は履歴書から目を外してこちらを見る。
「ふむ、君はすぐそこの大学の薬学部なのか。ということは、将来薬剤師になったときの下見としてこのバイトを選んだのかい?」
「いえ、私は薬学部といっても、薬剤師にはなれない方の薬学部なのです。六年制ではなく、四年制の。偏差値が低い方の」
「なるほどね」
そういうと院長はもう一度履歴書に目を戻す。
そして、読み終えたのか履歴書を机に置いた。
院長は一体何を考えているのだろうか。
『なんでこいつはこのバイトを志望したのだろうか』と訝しげに思っているのだろうか。
しかし、院長の目は今までと打って変わって、暖かい目をしていた。
「興味深いね」
「えっ?」
「それで、君はバイトの内容をよく知っているかい?」
「い、いえ、求人情報に載っている程度の情報しか……」
「なら私が説明しよう。といっても、普通に病院を掃除するだけなんだけどね。ただ……」
「ただ?」
「君には掃除だけでなく、患者とのコミュニケーションも取ってほしい。ここの入院患者はお年寄りが多くてね。彼らは身寄りも少ないし、若者と話す機会は少ないからいい刺激になると思うんだ。もちろん、時給は上げさせてもらうからさ。」
「それは別にかまいませんが……」
いきなり仕事が増えた。
それぐらいで時給が上がるなら何の問題もない。
しかし、いきなり仕事が増えるとびっくりする。
あと、興味深いってなに?俺にそっちの趣味はないのだが。
「注意しておくが、あくまでコミュニケーションをするだけだぞ。看護師免許がないのに看護したら一発アウトだ。あと、患者がどんなに可愛くても手を出すんじゃないぞ。」
「出しませんよ!」
「ははは。ならいいんだがね」
思ってもいなかった言葉に、思わず声を荒げてしまう。
患者といっても、お爺さんとお婆さんしかいないだろうし、お年寄りが多いと言ったのは院長だ。
院長は見た目とは裏腹にユーモアがある人らしい。
とりあえず、バイトが決まったことと職場が楽しそうで安堵した。
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