後悔しない

 ユイナはペンダントを捨てなかった。


 話を聞いて少し気味が悪くなったし、鎖の触れている辺りが爛れてきたので、外すことにはした。だけど手放さず、持ち歩いているバッグの中にいつも入れていた。


 もちろんコウジと別れることもなかったし、家に帰ったりもしなかった。


 店内にいると、イチコとたまに目が合うことがあった。そんなときの彼女は、ユイナを咎めるような顔をしていた。


 発疹は治まらなかった。じわじわと右の頬まで浸食され、化粧をしても隠し切れなくなった。


 ある日突然、「お客さんが気味悪いって言うから」と言われ、店をクビになった。


 ユイナはまだ暗い道をとぼとぼ歩いて、コウジの部屋に帰った。


 クビになったと告げると、腹を殴られた。


 一人で風呂に入りながら、ユイナは泣いた。店を辞めさせられた、自分の不甲斐なさが許せなかった。


 コウジを憎いとは思っていなかった。


 収入がなくなった。ユイナの稼ぎはそこそこあったはずなのに、ほとんど残っていなかった。


 コウジはまた外出した。次の日の朝に帰ってきて、「引っ越す」とユイナに告げた。


「俺は後で行くから、お前とりあえず先に行っといて」


 一人にされるのが不安で、ユイナは首を横に振ったが、「言う通りにしろ」と凄まれた。また殴られるのが怖くて、彼女はしぶしぶ承知した。


 ここに来た時と同じバッグに荷物を詰めて、部屋を出ることになった。


 ほんの数か月前には、最高に素敵な家に見えたアパートの部屋が、今は冷たくそっぽを向いているように思えた。


 支度を整えた彼女は、初めてコウジに尋ねた。


「あたしって、コウジの何?」


「ユイナは俺の彼女だろ」


 間髪入れずに答えが返ってきた。ユイナは微笑んだ。


 コウジが悪い人だっていい。大丈夫、後悔しない。


 そう思って、ユイナは部屋を後にした。


 バッグの底には、オープンハートのペンダントが大事に納められていた。

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