ふたりの家
コウジの部屋は、古くて小さなアパートの二階だった。小さな台所とトイレ、風呂場のついた六畳一間の和室の中心には薄い布団が敷かれていて、周りには彼の服やらテレビやらパソコンやら、雑多なものが置かれていた。
座れるスペースは、布団の上にしかなかった。二人で座って話しているうちに、つい雰囲気でキスをして、そのまま押し倒されてしまった。
母親の彼氏とは違って、ユイナはそれが嫌だとは思わなかった。むしろ至って自然なことだと思った。
その晩は暑かったけれど、狭い布団の中、二人で身を寄せ合って眠った。明け方にふと目を覚ますと、薄明るい部屋の中、すぐ傍でコウジの寝息が聞こえた。
その瞬間、涙が出るほど幸せだと思った。
次の日、ユイナは高校に行かなかった。
コウジは部屋にいてもいいよと言って、ユイナに部屋の鍵を預け、アルバイトに出かけていった。
元々母親がいない間に家事をしていたユイナは、料理には少し自信があった。晩ご飯を作っておこうと台所を見ると、小さな手鍋が一つあるだけだった。食器もほとんどなかった。ゴミ袋の中には、コンビニの弁当の容器がいくつも詰め込んであった。
彼女は近所にあった百均で、食器や台所用品を買い込んだ。スーパーで食材を帰って、彼の部屋に戻った。
心が弾んだ。ボロアパートの小さな部屋が、ユイナには世界一素敵なふたりの家に見えた。
家に帰ってきたコウジは、夕食ができているのを見てひどく喜んだ。彼は彼女の作ったものを、何でも大げさなくらい褒めながら食べた。
その晩は一緒に風呂に入って、一緒に寝た。
次の日もユイナは、学校に行かなかった。
家にも帰らなかった。
このアパートの部屋が、自分の本当の居場所なんだと思った。
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