3#窓から風船を落とした猫の呼び声

 とんとんとんとんとんとん!!


 とんとんとんとんとんとん!!




 それは、窓を叩く音だった。


 「うにゃぁ?」


 太膨猫のパンクは、巨体をうねらせて思いっきり窓に向かってジャンプした。



 ずるっ!



 「にゃっ!!」


 パンクの体重は重すぎて、ジャンプの途中で宙を掻くとそのままべたん!!と地面に墜落した。


 「パンクちゃん!大丈夫?!」


 女将は、慌ててまた立ち上がって窓へジャンプしようとする太膨猫のパンクを抱いた。


 「うにゃあ!うにゃあ!うにゃあ!うにゃあ!」


 「パンク!何暴れてるの?!・・・あれね。」


 女将は、何度も音がした窓をガラッと開けるとそこには、1匹の猫が萎んだ風船の吹き口をくわえて太膨猫のパンクを凝視していた。



 ぷぷっ・・・!!



 「?!」


 窓辺の猫は、太膨猫のパンクをジロッと見詰めたまま頬っぺたをめいいっぱい孕ませて、口にくわえていた風船に息を吹き込んで膨らませ始めた。



 ぷぅ~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~!!


 ぷぅ~~~~~~~~!!



 「何なのよ!あの猫・・・あっ!!」


 女将は窓辺の猫がどんどん膨らます風船が何時割れるかドキドキして耳を塞ぎながら、記憶の中でその窓辺の猫の正体を突き止めた。


 「君!テレビに出てた私と同じ『看板猫』・・・の『チャイ』!!」


 「ピンポーーン!正解だにゃー!!私は『喫茶チャイ』の看板猫のチャイちゃんだにゃー!!」


 窓辺の猫は笑ってそう言うと、パンパンに膨らませた風船の吹き口を爪でキュッと縛ると、居酒屋の店内にぽーんと肉球で突いて転がした。


 「やっぱり、僕達猫の息でも風船浮かないか・・・」


 窓辺の長毛猫のチャイは、しょんぼりとして店の中でバウンドして転がっていく風船を見詰めていた。


 「うわっ!おっと!」


 パンクは、慌てて転がった風船を追いかけて結んだ吹き口をくわえて外の長毛猫に返した。


 「んもう!店に風船転がして、尖ったとこに当たってパンクしたらどうするんだよ?!

 君・・・!!」


 「私は感染してないわ!!風船が割れてウイルス菌が店に分散とかふざけた事言わないでよ!」


 「失礼な!私はそんなこと思ってないわ!被害妄想しないで!」


 長毛猫のチャイは、窓から身を乗り出して太膨猫のパンクに反論した。


 「むぎゅっ!そんなに迫ったら、君の風船が潰されて本当にパンク・・・」


 「パンクちゃん!あっ濃厚接触!と思ったでしょ!」


 「被害妄想やめろと言ってるっしょ!!いったい君はなんなの・・・」




 ぷしゅーーーーーぶぶぶぶぶぶ!!




 突然、風船の吹き口がほどけて、風船の中の長髪猫の吐息が太膨猫のパンクの顔にもろに吹きかかった。


 「うにゃーーーーー!!にゃにゃにゃ!!」


 パンクはたまらず窓の外へ飛び出して、顔を何度と前肢で拭って仰け反った。


 「くにゃい!くにゃい!くにゃい!くにゃい!くにゃい!くにゃい!」


 「やっぱり!感染しそうだから・・・」


 「いい加減にしなさい!!フーーーーーッ!!」


 激怒したパンクは毛を逆立てると、長髪猫のチャイに襲いかかった。


 「ふにゃーー!!解った!!解った!!ごめん!!ごめん!!ごめん!!ごめん!!」


 慌てた長髪猫のチャイは、絡む太膨猫のパンクを力ずくで引き剥がすと、すっかり萎んだ風船を取りに行った。


 「ねぇ、この風船・・・」


 長髪猫のチャイと絡んだせいで、長髪猫の抜け毛だらけのパンクは、長髪猫がくわえている萎んだ風船の書いてあるイラストを見て聞いた。


 「この風船の絵、君の顔?私の店の真似しないでよ?!」


 「そう?」


 長髪猫のチャイは、萎んだ風船にもう一度息を吹き込んでぷーーーーーっ!と膨らませようとした。


 

 ぱぁーーーーーーん!!



 「うにゃーーーっ!!」


 突然、長髪猫のチャンが膨らませた風船がいきなり割れて仰天したパンクは、店の壁頭をぶつけてのびてしまった。


 「パンクちゃん、風船を何時も尻尾に付けて店の前に居るって有名なのに、風船が割れる音には弱いんだね。」


 「だって、首輪に風船付けてるじゃない?!」


 長髪猫のチャイは、割れた風船を爪で伸ばして悲しそうに風船に印刷された自らのイラストを見詰めてため息をついた。


 「あーあ・・・これ、最後の1個だったのに。」


 「気をおとすなよ、チャイ。私なんか、1個も私の絵の風船無いんだから・・・在庫切れよ。」


 パンクは、項垂れるチャイの背中を肉球でポンポンと軽く叩いた。


 「そうだわ!!パンクちゃん!同業者として同じ『看板猫』として頼みがあるの。」


 「頼みって?」



 








 






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