第29話トラウマの迷宮で

 ギルドマスターから依頼を受けて、オレたちは迷宮にやって来た。

 オレの呪いが解けた初級迷宮断崖の迷宮だ。


 ◇


「よし、マリア。互いのステータス画面を出していくか、万が一の対策も立てていこう」


 迷宮を最初の階層で、準備を再確認していく。


 ――――《ステータス》――――


 □名前:ハリト(♂16歳)

 □職業:軽剣士

 New□第二職業:聖女候補の導き手

 Up!□メインレベル16→17

 Up!□スキルポイント:34→39


 □スキル

 ・剣技(片手剣)レベル4

 ├斬撃スラッシュ

 ├飛斬スラッシュ・カッター

 ├強斬ハイ・スラッシュ

 └多斬ダブル・スラッシュ


 ・回避(受け流し)レベル4

 ├見切り

 ├受け崩し

 ├集中回避

 └味方受け流し


 ・隠密レベル2

 ├忍び足

 └壁登り


 ・盗賊レベル2

 ├罠発見

 └罠解除


 ・空間収納レベル1

 └収納リスト


 □固有

 ・《観察眼》

 ├鑑定眼レベル1

 └探知レベル2


 ・■■■■■■■■■■


 □身長180センチ


 ――――◇――――


 前回のチャレンジの達成で、オレはメインレベルが1上昇していた。

 スキルレベルはまだ何も上げていない。

 状況を見ながら今回も上げていく作戦だ。


 あと第二職業が解放されて、《聖女候補の導き手》ができた。

 でも今の新しいスキルには開眼していない。

 こちらも様子を見ながら、臨機応変に対応していく。


 よし、マリアの方も再確認しておこう。


 ――――《ステータス》――――


 □名前:マリア(♀16歳)

 □職業:聖女候補

 □メインレベル13

 □スキル

 ・接近戦(杖)レベル1

 └強打アッタク


 □回避レベル2

 ├集中

 └ひらめき


 □神聖魔法レベル5

 ├回復系

 ├補助系

 └攻撃系


 □固有

 ・《聖女の欠片》1/3解放済み


 □ハリトのパーティーメンバー加護

 └スキルポイント:28


 ――――◇――――


 彼女のステータスは、前回に確認したのと同じ。

 こちらもスキルポイントが、けっこう溜まっている。

 臨機応変に振り分けていく。


「よし、それじゃ、進もうか」


「はい、そうでね」


 再確認もしたところで、迷宮を探索していく。


 陣形はいつもと同じで、オレが先頭を進み探索。

 後方のマリアは支援だ。


「よし、【探知レーダー】発動!」


 いつものように探知のスキルを発動して、迷宮を進んでいく。

 魔物は赤い点で表示。人は白い点で表示される。


「今のところ、怪しい反応はないな」


【探知レーダー】の反応は、それほど広範囲ではない。

 だが、初級迷宮程度なら、かなりの範囲をカバーできる。


 視覚にも注意を払いながら、慎重に進んでいく。


「マリア、この先に魔物が二体いるよ!」


「はい、分かりました」


 道中で魔物がいた。

 だがあまり強くなかった。


 オレ一人で奇襲をかけて、全滅させることが出来た。


「お見事です、ハリト君」


「ありがとう。でも、こうして初級迷宮に戻ってくると、スキルアップの恩恵が肌で感じられるよね」


 前回のこの迷宮に来た時、オレのメインレベル1しかなかった。

 武装も短剣一つしかなく、かなり慎重に探索した。


 だが今は無双状態で進んでいける。


「たしかに、そうですね。普通はこんな短期間で、ここまでレベルアップとスキルアップは出来ませんからね」


「たしかに……そう考えると、スキルポイントシステムは、やっぱり有能だったんだね」


 メインレベルを1上げるだけでも、普通の冒険者は苦労する。

 下手したら数ヶ月、数年かかる時もあるのだ。


 だがオレたちは天の声に従うだけで、最低限でも1は上昇するのだ。

 反則級なような気がしてきた。


「きっとハリト君が九年間も、努力してきた恩恵だと思いますよ」


「そうか。そうだとしたら、すごく有りがたいね」


 七歳から冒険者見習いになったオレは、呪いによって過酷な人生を送ってきた。

 報われない努力の辛さに、何度もくじけそうになった。


 だが『一人前の冒険者になる!』という想いだけで、九年間耐えていった。


 マリアの言っているように、その努力が報われたと思うと、本当に嬉しい。

 左手の甲の刻印に改めて感謝する。


「あとハリト君の、その謙虚なところも、力を得た理由だと思います」


「えっ、謙虚なことも?」


「はい、教典によると『大きな力は人を惑わせる。どんな力を得ても自分を見失うべからず』という教えがあります。だっから、ハリト君の謙虚は、その力の得た理由な気がします」


「そっか……それなら、これからも気を付けてくね!」


 マリアの教えの通りだ。

 強大な力は人を惑わせてしまう。


 オレもスキルポイントや鑑定、収納、探知など普通とは違う力を手にした。

 間違いなく悪用したら、他人に被害をかけしまう特殊スキルばかり。


 だからこそ過信せずに、謙虚に冒険をしていく必要があるのだ。


「ハリト君なら、大丈夫ですよ。私が保証します」


「ありがとう。よし、頑張っていこう!」


「はい!」


 気持ちを改めたこところで、先に進む。

 初級迷宮だけど慎重に、探索をしていく。


「こっちの部屋は大丈夫だよ、マリア」


「はい、では次にいきましょう」


 迷宮の探索は順調だった。

 道中の魔物を倒して、ほとんどの部屋を調査していく。


「ここも特に異変はなかったですね。あとはまだ部屋は残っていますか?」


「そうだね。残すは、あと一つだけだね」


「では、いきましょう」


 マリアと“最後の部屋”に向かっていく。


 ――――そしてオレの鼓動は早くなっていた。


(ふう……“あの部屋”に行くのか、ついに……)


 これから向かうのは、特別な部屋。


 前に一度だけ入った場所。

 断崖と橋がある、広めの空間だ。


(あの大鬼オーガがいた部屋……)


 この先の部屋は、前回オレが大鬼オーガに負けた場所。

 この迷宮の中で、苦い思い出の場所なのだ。


(でも、今のオレなら大鬼オーガ程度なら、問題ない。自信をもっていこう!)


 前回はメインレベル1、スキルも無し状態だった


 だが今は大鬼オーガより強いボスも、中級迷宮で倒してきた実績がある。

 負けてしまったトラウマを、新たな自信で塗り替えていきたい。


 そんな思い出の部屋に到着する。


「マリア、この扉の向こうだよ。一応は……魔物の反応はないね」


「はい、では入りましょう」


 部屋の中に、二人で入っていく。

 この部屋は扉を開けて、入るシステム。

 その後は自動的に閉まる。


 そう考えたら、ボス部屋に少し似ている。

 部屋に入って、周囲を最大級に警戒する。


「魔物は……いないな?」


 探知レーダーの結果と同じく、部屋に魔物はいない。

 広めに空間があり、その先に断崖がある。

 真ん中に一人用の吊り橋がある。


 前回の時は、大鬼オーガの先生攻撃によって、あのつり橋は破壊されてしまった。

 そのためオレは退避できなかった。

 最終的には断崖の下に、落ちてしまったのだ。


「えーと、前回は、この崖の下に落ちて、呪いが解けて、不思議な空間に辿りついたんだ?」


「えっ、この下ですか? 見た感じは普通ですね?」


 二人で断崖の下を覗き込む。

 よく見るとそれほど深さはない。


 おそらくは下の階層に、繋がっているのかもしれない。

 落ちても打撲くらいで済みそうだ。


「あれ? 変だな、前の時は、地獄の底に繋がっているみたいな、凄い深さったんだけど……?」


「そうですか。もしかしたら、恐怖によって、深さが倍増して見えたのかもしれませんね?」


「ああ、なるほど。そうなのかな?」


 前回の時はナイフ一本で、メインレベル1しか無い状態。

 マリアの指摘の通り、大鬼オーガに接敵して、オレはパニック状態だった。


 だから地獄の断崖のように見えたのだろう。


「それでは先に進みましょうか?」


「うん、そうだね。先に橋を渡ってちょうだい、マリア。オレは、ここで警戒しているから」


 橋の先には、また新しい扉がある。

 探知の感じだと、あそこは行き止まり。

 最後の部屋であり、念のために調べておきたい。


「はい、分かりました」


 マリアは慎重に吊り橋を渡っていく。

 特に問題はない。


 オレの杞憂だったようだ。

 され、オレも渡るとするか。


 ――――その瞬間だった。


 ――――ゾワッ!


 背中に嫌な気配を感じた!


 すぐさま振り返り、剣を構える。

 だが何もいない。


 探知レーダーにも反応は無いし。

 だが嫌な感じは、更に強くなってきた。


「くる!」


 そう叫んだ直後だった。


 シュイーン。


 目の前の地面が光り、何かが出現してきた。

 人型で武器を構えている……かなり大きい。


「うっ……こいつは……⁉」


 出現したのは魔物だった。

 初めて見る魔物の種類。


 ギルドの図鑑によると、たしか“大鬼王オーガ・キング”のという危険な魔物だった。

 普通は上級迷宮に出る魔物だ。


大鬼オーガ種で……あのあざ? まさかか、こいつは⁉」


 大鬼王オーガ・キングの顔にある特徴的なあざに、見覚えがあった。


 前回、ここでオレに敗北を与えた、あの大鬼オーガと同じ特徴。

 雰囲気もどことなく似ている。


「まさか……あの時の大鬼オーガのが、“進化”して出てきのか、オレの目の前に⁉」


 こうして危険な魔物に進化した仇敵と、オレは再び対峙するのであった。

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