第28話奇妙な事件
マリアと司祭様と話をした後、新たな天の声が聞こえてきた。
☆《緊急チャレンジ:下町の冒険者ギルドで《
という内容だった。
自分の中では嫌な予感がするチャレンジだった。
何しろ
呪いを解呪して、新たなスキルシステムと手に入れた、きっかけの迷宮なのだ。
「どうしました、ハリト君?」
「ん……なんでもないよ、マリア。それじゃ冒険者ギルドに向かおうか」
もしかしたらオレの考えすぎかもしれない。
マリアを心配させないように、まだ言わないでおく。
あとは冒険者ギルドに着いて、依頼を見てから判断することにしよう。
◇
下町の冒険者ギルドに到着する。
掲示板を探して、
「ん? あれ?」
だが不思議なことに依頼書が貼っていない。
今まで天の声が聞こえた時は、必ず関連する依頼があったのに。
こんなことは初めてだ。
――――そんな時であった。
オレに声をかけてくる人がいた。
「おお! ハリト、いたか! ちょうど探していんだぞ!」
やってきたのは、冒険者ギルドのギルドマスターのライザックさん。
熊のような怖い顔で、巨漢の腕利き戦士だ。
「えっ、オレを探していたんですか?」
何かあったのだろうか?
「とりあえずオレの部屋に来てくれ。そっちの新しい仲間の子と」
「あっ、はい」
内密の話らしい。
ライザックさんと奥の部屋に向かう。
ギルドのギルドマスターの個室だ。
マリアを紹介してから、話を聞くことにした。
「さて、話というのは、個人的に頼みたいことがあるんだ。今は暇か?」
「あっ、はい。特に依頼は受けていないです。どうしたんですか?」
ライザックさんの顔は神妙だ。
あまりよくない事件が起きているのだろう。
「実は初級迷宮の一つで、ちょっとした事件があった。何組かの冒険パーティーが、行方不明になっている」
「えっ、初級迷宮で、冒険者が⁉ でも、どうして、オレに?」
冒険者は迷宮で命を落とすのは、珍しくない。
見返りも大きいが、危険も高いのが冒険者業なのだ。
「いや、普通の行方不明なら問題はない。だが原因が分からないんだ。念のために中級ランクの冒険者に偵察にいかせた。だが迷宮内は特に問題はなかった。だが、その後も行方不明が出たんだ」
「えっ、中級ランクの人たちが探索した後に、また行方不明者がですか⁉」
これはかなり異常なことだった。
何故なら、中級ランクの人たちの探索能力は凄い。
初級迷宮程度なら罠や危険性は、見落とすはずはない。
だが、それでも以降も、事件は起きている。
つまり中級ランクの人たちでも見つめられない未知の危険性が、その迷宮には潜んでいるのだ。
「迷宮の封鎖は街の法律でできねぇ。このままだ犠牲者が増えちまう」
迷宮都市には、特殊な法律がある。
それは『どんな迷宮でも基本的に封鎖は厳禁。誰もが挑戦する権利がある』という決まりだ。
迷宮の財産によって潤っている、各迷宮都市ならでは法律だ。
だからどんなに犠牲者が出ても、迷宮の封鎖はできない。
そして危険があるほど、冒険者は潜っていってしまうのだ。
「なるほど、それでオレの出番なんですね」
「ああ、お前の不思議な力で、少し調査してくれないか?」
オレが特殊な能力に目覚めたことは、ライザックさんも知っている。
全ては話してはいないが、ある程度は気がついているのだ。
「はい、調査なら協力します」
オレもつい先日までは初級冒険者だった。
だから放っておくことは出来ない。
理不尽で危険な迷宮は、今後のために調査しておく必要があるのだ。
あっ、そうだ。
マリアに相談しないと。
「もちろん、私も賛成です、ハリト君」
マリアからも賛同を得られた。
改めてライザックさんに、依頼の了承の返事をする。
「おお、それは良かった。これが正式な依頼書になる。確認しておいてくれ」
「あっ、はいありがとうございます」
ライザックさんから詳細が書かれた、依頼書を受け取る。
内容を読んでいく。
――――確認して、自分の目を疑う。
知っている迷宮だったのだ。
(場所:
問題の迷宮は《断崖の迷宮》だった。
天の声が示していたのは、この依頼のことだったのだ。
(あの迷宮で問題が起きているのか。それなら行くしかないな!)
そっと目前をタッチ。
YESを選択する。
「それじゃ、行ってきます。ギルドマスター」
「ああ、気を付けてな」
こうして依頼を受けることになった。
オレたちは冒険者ギルドを後にするのであった。
冒険の準備は常にしている。
このまま
歩きなが、らマリアに事情を説明していく。
「実は今回の《断崖の迷宮》は、オレがこの不思議な力に目覚めた場所なんだ」
「えっ……ハリト君の呪いが解けた場所ですか?」
「そうなんだ。だから、もしかしたら、普通の初級迷宮とは違うかもしれない。マリアも気を付けて欲しい」
「はい、分かりました! いつもの中級迷宮以上に、気を引き引き締めていきます」
マリアも理解してくれた。
こうやって事情をすぐに分かってくれる仲間の存在は、本当に有り難い。
改めてマリアに感謝する。
移動しながら、念のために作戦を立てていく。
「ギルドマスターの話だと、迷宮の作りは初級のままらしい。でも、何か異常が起きているらしいんだ」
「なるほどですね。それなら常に警戒して、臨機応変に対応する必要がありますね、今回は」
「そうだね。だからスキルアップもまだしないでおこう。状況に応じて、オレとマリアのスキルアップをしていくから」
「はい、分かりました!」
スキルアップはオレたちだけの必殺技。
予想外の危険に対処できる、有能スキルシステムなのだ。
二人で作戦を立てながら、目的の場所に到着する。
迷宮都市に広場の近くにある、
(また来たのか、懐かしいな……)
前回は訳の分からないまま、外に出されて、この広場に戻ってきた。
だが今回は違う。
自分の意思で再び、この迷宮に潜ろうとしているのだ。
気を引決めていく。
「それじゃ、マリア。いこうか?」
「はい、いきましょう」
こうしてオレは運命が変わった迷宮に、再び潜入していく。
――――そして最深部で、運命の再会を果たすのであった。
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