第27話今後の方針

 マリアの新しいステータスのことを、孤児院の司祭様に聞きに来た。


「さて私の話は、ここまで。今日は、そこ子のことで来たのですか、ハリト君?」


「あっ、はい。そうでした! この人はマリアといいます。少し前から、一緒にパーティーを組むようになりました」


「マリアです。はじめまして。“西の第二区画”の教会で修行しておりました」


 初めて会う司祭様を前にして、マリアは少し緊張していた。

 でも神官として、ちゃんと正式な挨拶をする。


「ん? 『西の第二区画の教会』のマリアさん。もしや生まれた時から、あざの呪いがあった?」


「えっ……はい、そうです。ご存知なんですか⁉」


 司祭様のまさかの言葉に、マリアは表情を変える。

 南にあるこの下町の孤児院と、西の第二区画の教会はかなり離れているのだ。


「ええ、あそこの司祭とは昔からの知り合いです。実はあなたが幼い時に、私も遠くから目にしたことがあるのですよ」


「そ、そうだったんですか……」


「つまり“あの強力な呪い”を無事に、解呪できたのですね?」


「はい。ここにいるハリト君のお蔭です」


「そうですか。頑張っていたんですね、ハリト君」


「あっ、はい。ありがとうございます。自分で出来ることを、少しずつですが」


 司祭様に褒められると、本当に嬉しい。

 幼い時から育ててもらった、父親代わりの人なのだ。


 そうだ、マリアのことを少しずつ聞いてみよう。


「あのー、司祭様。“聖女”という存在は、ご存知ですか?」


「ええ、もちろん。天神様の声を聞くことが出来る、唯一無二の存在の方です。私も拝見したことはないが、先代の方は迷宮都市エンゼンにいたはずです」


 司祭様はやはり博学な方だった。

 聖女のこと教えてくれた。


 よし、もう少し切り込んで聞いてみよう。


「ありがとうございます。あと“聖女候補”と“聖女候補戦”という言葉はご存知ですか?」


「もちろん。聖女が天に召されると、その後に“聖女の候補者”が数名、天神によって選ばれます。その中から次代の聖女様を選ぶのが、“聖女候補戦”です」


 なるほど、そういうことか。

 」

 司祭様は部外者であるオレにも、分かりやすい説明してくれる。

 専門的な単語を使わず、大事なことだけを教えてくれた。


「ありがとうございます。あと最後の一つ《聖女の欠片》をいう物をご存知ですか?」


「《聖女の欠片》? それは初めて聞く言葉ですね。ですが欠片ということは、何か集めていくような感じですね?」


《聖女の欠片》に関して司祭様は、知らなかった。

 ということはステータス画面や、鑑定用の単語なのだろうか?

 もしくは教会では別の言葉で、言われているとか。


「なるほど、ハリト君。そちらのマリアさんが“聖女候補”に選ばれたのですね?」


「えっ……⁉」


 いきなりの指摘だった。

 そう答えていいか分からず。思わず言葉を失ってしまう。


 というか、どうしてバレてしまったんだろうか?

 オレの質問の中に、何か失言でもあったのか。


「ハリト君は失言をしていません。ですが私は分かりました。状況から推理ということです」


「あっ……そうだったですね」


 司祭様は話をしながら、推理して見抜いていたのだ。


 そう言われて、オレも気が付く。

 何しろ今まで一人ソロだったオレが、いきなり神官の少女を連れてきた。

 しかも聖女候補や聖女の欠片など、専門的なことについて質問していったのだ。


 誰が聞いても、マリアが聖女候補に選ばれた、と思うだろう。

 つまりオレの気がきかなったのだ。


「マ、マリア、ごめんね」


「いえ、私は大丈夫です。むしろハリト君は嘘がつけないと、最初から思っていました」


「あっはっはは……面目ない」


 マリアはむしろ清々している。

 司祭様に隠し子をしないで済んで、ほっとしているのだ。


「ふう……司祭様、失礼しました。実はこのペンダントを触ってから、マリアは聖女候補の声を聞いたんです」


 司祭様にペンダントを見せて、経緯を説明する。


「ほほう、これは? 不思議な品ですね。一見すると錆びたペンダントですが、触ってみると不思議な力を感じます」


「そうなんですよ。どうやら、それが《聖女の欠片》の一部らしです」


 司祭様には【鑑定】の能力のことは、まだ話していない。

 だから断片的に説明をしていく。


「なるほど。そうですか。ふむ、分かりました。間違いなくマリアさんは聖女候補の一人に選ばれたのでしょう」


「やっぱり、そうだったんですか! どうすればいんでしょうか、この先マリアは?」


「私も詳しくは分かりませんが……聖女候補が全員決まった時、“聖女候補戦”が開幕すると言われています。どんな戦いか分かりませんが、ある程度の“強さ”がないと、勝ち抜けないようです」


「なるほど。つまり強くならないと、駄目なんですね、マリアは……」


「はい、そうですね。あと聖女候補には“聖女候補の導き手”と呼ばれる護衛者も、同時に選ばれます。その者は特に“武の力”が試されるはずです、ハリト君?」


「えっ……司祭様は、知っていたんですか、オレが“聖女候補の導き手”なことを?」


「いえ。これも状況推理です。ですが正義感の強いハリト君なら、見事な“聖女候補の導き手”になれると思います」


「あっ、はい、ありがとうございます!」


 司祭様には本当に敵わない。

 最初からオレのことを、全て見抜いていたような感じだ。


 正直に話をして本当によかった。


「でもオレとマリアは、今のまま冒険者を続けていても、大丈夫なんですか?」


「そうですね。迷宮探索では色んな強さを、身につけることが出来ます。聖女候補と“聖女候補の導き手”には、最高の鍛錬の場になるでしょう」


「なるほど。分かりました! これからも冒険者として励んでいきます!」


 有り難いアドバイスだった。

 正直なところ冒険者を、廃業する覚悟もあった。


 だが自分の鍛えるために、今まで同じく……いや、今まで以上に探索ができるのだ。


 一人前の冒険者を目指す自分にとって、これ以上嬉しいことはない。


「あと、ハリト君。この紹介状をあげましょう。中心区画の教会の司祭に、これを渡すといいです。彼女なら聖女関係で、ハリト君の力になってくれるでしょう」


「ありがとうございます! あっ、でも中央区画は……」


 迷宮都市ガルドは街の区画が、何層にも分かれている。

 その中でも“中央区画”は、許可証がある冒険者しか入れない。


 具体的にはCランク以上の冒険者だけしか、入場が出来ないのだ。


「ハリト君なら近いうちに、入ることが出来るでしょう。何故ならこの短期間で、そこまで腕を上げたのです。信じています」


「はい……期待に添えるように、全力を尽くします!」


 司祭様から温かい言葉と、紹介状をもらった。

 今まで以上に冒険に力が入っていく。


「それでは気を付けて。神のご加護が二人にありますように」


「ありがとうございます、失礼します」


 挨拶をして、司祭様の部屋を出ていく。

 そのままマリアと孤児院から外に出る。


「素敵な方でしたね、ハリト君の司祭様は」


「うん、そうだね。ちょっと厳しいところもあるけど、頼りになる人だよ」


 司祭様に自慢の人だ。

 本当にお世話になりっぱなしで、いつか恩返しをしたい。


「さて、今後の方針なんでけど、マリア」


「はい、私も冒険者を続けていきながら、出来るとこまで、“聖女”を目指したいと思います」


「えっ⁉ いいの⁉」


「はい。神官にとって聖女は憧れの存在。候補者に選ばれただけでも、幸運と思っています」


「そっか……それは良かった」


 実はママリアが嫌がったら、どうしようと思っていた。

 でも同感してくれて本当に良かった。


「それにハリト君が“導き手”だから……私は最後まで、一緒に付いていきます」


「ん? そっか。改めてこちらこそ、よろしく、マリア!」


「はい、よろしくお願いします、ハリト君!」


 二人の目標は決まった。


 一人前の冒険者を目指しつつ、冒険者としての力を付けていく。

 そして時が来たら【聖女候補戦】に参戦して、勝ち抜いていく。


 この二つだ。


「それじゃ、とりあえず冒険者ギルドに向かおうか?」


「そうですね」


 二人で下町の冒険者ギルドに足を向ける。


 ――――その時だった。


 ピローン♪


 いつもの天の声の音が、聞こえてきた。

 今回はどんなチャレンジがくるのかな?


 ☆《緊急チャレンジ:下町の冒険者ギルドで《初級迷宮断崖の迷宮の依頼を受けて、の特殊ボスを倒せ。挑戦しますか?》

 □YES

 □NO


 ん?

 迷宮チャレンジ。

 しかも今さら初心者迷宮?


「えっ……でも、この迷宮は……」


 迷宮の名前を見て、オレは思わず言葉を失ってしまう。


 初級迷宮断崖の迷宮は普通の迷宮ではない。

 オレの呪いが解けた、あの迷宮なのだ。


「あの迷宮に再び……しかも特殊ボスがいるのか?」


 何やら嫌な予感がするのであった。

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