第25話:欠片

 マリアの武具を、前と同じ店に買いにきた。

 でも店の娘のランカに、オレは裏の倉庫に連れられてしまう。


「ねぇ、ハリト……教えて欲しんだけど。そのお爺ちゃんを認めさせた、ハリトの目利きの秘密をさ。ねぇ、いいでしょう?」


 ランカが甘い声を出しながら、密着してききた。

 オレの背中に柔らかい二つの感触が……ランカの胸が当たっている。


「うっ、うわぁ⁉」


 怖くなって、思わず離れてしまう。


「えっ……ちょっと、ビックリしすぎじゃない⁉ もしかして私のこと嫌だった?」


「ご、ごめん、嫌とじゃなくて、女の人に、あんなにくっつかれたのは、初めてだったんで……ごめん、ランカ」


「えっ、そうだったの⁉ ハリトはけっこうイケメンだから、女の子には慣れていると思っていたんだけど。それだったら、ごめんね、変なことしちゃって」


「うんうん、誤らなくてもいいよ、ランカ。女の人に慣れてなくて悪いのは、オレの方なんだから!」


 今までは呪いのお蔭で、生きていくのも精一杯だった。

 女性のことは考えてきたこともない。


 最近になって、ようやく余裕がでてきた。

 初めて女の子のマリアとパーティーを結成。

 ランカみたいな子と、普通に話せるようになった。


 でもオレは基本的に、女の子に対して免疫がないのだ。


「ふーん、そうだったんだ。真面目で真っ直ぐなんだね、ハリトは?」


「あっはっはは……変でしょ」


「うんうん。むしろ、好感度が高いよ。だって、冒険者ってスケベが多いじゃん。みんな私の胸と尻を触ろうとしてくるのよ!」


「それは大変だね。可愛い子も色々と大変なんだね」


「えっ……私が可愛い……?」


「うん! 前も言ったけど、ランカは凄く可愛いよ! 健康的で積極的で!」


「そ、そっか……お世辞でも嬉しいね。ちなみに、あのマリアって子と、どっちが可愛い?」


「えっ……両方かな? 二人ともタイプが違うから?」


 ランカは健康的な明るい可愛さ。

 マリアは色白で、少し影がある可愛さがある。


 どちらもオレにとっては魅力的で、眩しい存在だ。


「ふーん、そうなんだ。やっぱりハリトは無自覚なのね」


「えっ、無自覚? 何の?」


「何でもないわ。さて、そろそろ店に戻りましょ。マリアって子のハリトを探す声と、お爺ちゃんの私への怒鳴り声が聞こえてきたから」


「あっ、本当だ!」


 店先から急に姿を消したので、マリアが心配して探しているのであろう。

 そしてランカのお爺ちゃんが、こちらに探しに来るのだろう。


 二人で店先に戻ることにした。

 倉庫から廊下を戻っていく。


 ――――その時だった。


 気になる物が、視界に入る。


「ねぇ、ランカあれは何?」


「えっ……あれは、ゴミよ。買い取り品と一緒に、処分しておくゴミよ。欲しい物は、勝手にどうぞう」


 気になったのは、商店のゴミ捨て場だった。

 ランカは先に店の方に行ってしまう。


 オレは導かれるように、ゴミの方に近づいていく。


「これは……?」


 ゴミの中から気になる物を、拾い上げる。

 小さなペンダントだ。


 中が開くのかな?

 でもかなり錆びていて、中身を開けることができない。


 そんな時、後ろから店主さんがやって来た。


「ん? ボウズ、どうした?」


「あっ、ごめんなさい! 勝手に漁って! すぐに返します!」


「いや、構わない。どうせ捨てる物じゃ。勝手に持っていけ。それが気になるのか?」


「はい……何だか分からないですが、すごく気になります」


「ふん。そうか。相変わらず面白い目利きじゃのう。また、遊びに来い」


「はい、失礼します!」


 ペンダントだけ頂戴することにした。

 店の方に戻る。


 ちょうどマリアも買い物を終わったタイミングだった。

 彼女は自分の必要な物を、ちゃんと買っていた。


 二人で店を出ていく。


「もう……ハリト君、どこに行っていたんですか? かなり探したんですよ⁉」


「いやー、ごめん、裏に掘り出し物を見に」


「もしかして、あのランカという失礼な子と、一緒ですか⁉」


「え、うん。そうだね」


「そうですか。まったく、もう……」


 何やらマリアは頬を膨らませていた。

 理由は分からないから、触れないでおこう。


「ん? ハリト君、その握りしめているのは、何ですか? 随分と錆びているようですが?」


「あっ? これ? 気になった品で、貰ってきたんだ」


「ペンダント……にしては、随分と変ですね?」


「そうだね。開きそうで開かないんだ。何なのだろう? あっ、そうか!」


 その時、思い出す。

 調べるのに最適なスキルが、今の自分にあることを。


 意識をペンダントに集中。


「ふう……【鑑定】!」


 鑑定のスキルを発動。


 ピコーン♪


 鑑定成功の音が流れた。

 ペンダントの前に、透明な文字が出てきた。


 ――――◇――――

《鑑定結果》


 □名前:聖女の欠片1/3

 □分類:聖刻

 □ランク:S

 □固有

 └全部集めると《聖女の証》になる

 ――――◇――――


 えっ⁉

《聖女の欠片1/3》だって⁉


 もしかして、これがチャレンジの品だったの?


 かなりビックリした。

 こんな錆びていて、しかもゴミ場にあったのは、予想外すぎたのだ。


 それにしてもランクSの品は初めてただ。

 装備している高性能“古代の着衣アーマー”ですらランクA。


 それ以上のランクS。

 いったどんな物なのだろうか。


 でも説明には、あまり詳しく書いていない。

 全部集めて、《聖女の証》にしないと効果は無さそうだ。


 でも《聖女の証》ってどういう意味だろう?

 どうやって使うものなんだろう?


 見つけたはいいけど、疑問だらけだ。


「ねぇ、ハリト君、どうしたんですか? もしかして鑑定を?」


「あっ、うん。これ、ちょっと不思議なモノなんだ」


「私も見てもいいですか?」


「うん、もちろん」


 マリアにペンダントを手渡す。


 ――――その瞬間であった。


 ピコーン♪


 天の声が頭の中に響き渡る


 ☆《《聖女の欠片》が1/3解放されました》

 ☆《マリアの職業が“神官”から【聖女候補】にクラスアップしました》

 ☆《ハリトの第二職業が解放。第二職が【聖女候補の導き手】になりました》

 ☆《運命チャレンジが解放されました。【聖女候補戦】が開幕しました》


 えっ……。

 え?


 なんだ、これは?

 今までの天の声の中でも、トップクラスに不思議なことが告げられた。


 ――――しかも驚きは、それだけはなかった。


「ハ、ハリト君……これが天の声なんですか?」


「えっ……マリアも聞こえていたの、今の⁉」


 どうなっているんだ。


 とにかく二人で情報をまとめていかないと。

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