第24話再び武具屋に

 冒険者になったオレは、女神官マリアとパーティーを組む。

 探索の中で、憧れのBランクパーティー《白狼乃牙ホワイト・ファング》と邂逅改稿


 中級迷宮を無事にクリアして、マリアの装備品を買いに行くことになった。


 ◇


 迷宮をクリアした翌朝になる。

 マリアと待ち合わせして、下町の武具屋にやってきた。


 場所は前回と同じ《萬屋本店》だ。


「ここがハリト君の、おすすめの店ですか?」


「うん、そうだね。新品と中古品もあるから、かなり種類もあるんだ」


 今回の《チャレンジ:《萬屋本店》に行って《聖女の欠片1/3》を見つけて買おう》のことは、まだマリアに言っていない。


 買い物をしながら様子を見てから、伝えるつもりだ。


「それじゃ、中に入ろうか」


「はい」


 二人で店の中に入る。

 時間が早いこともあり、まだお客さんは少ない。


「ん? いらっしゃい! あれ、ハリトじゃん! また来てくれたんだ!」


 店内で声をかけてきた店員さんは、エプロンをしたショートカットの少女ランカ。

 この店の娘さんで、ちょっと言葉はキツイけど、真剣に相談に乗ってくれる武具のプロだ。


「ん? 後ろの子は、ハリトの連れ?」


「えっ、ああ。マリアっていう神聖魔法の使い手で、新しいパーティーメンバーなんだ」


 後ろにいたマリアを紹介する。

 そういえ前回、ここに来たときは一人だった。


「ふーん、マリアね? 随分と可愛い子をゲットしたのね、ハリトのくせに!」


 ランカは鋭い視線で、マリアのことを見ている。

 まるで見定めているような感じだ。


 そんなランカに対して、マリアが口を開く。


「申し訳ありませんが『ハリト君はクセに』ではありません。ハリト君は素晴らしい才能の持ち主で、Bランクパーティーの人にも一目置かれているんですよ!」


 何やらマリアは、オレのことを凄く褒めてくれる。

 しかもランカに対して、何か対抗心がある感じだ。


 それに対してランカも口を開く。


「へー、そうなんだ。でもハリトに最初に目をつけたのは、私の方なんだけどね。こう見えて武具の目利きと、男の目利きには自信があるのよ、アタシは!」


 何かよく分からないけど、凄く対抗心を燃やしている。

 オレのことを褒めてくれるのは嬉しい。


 でも仲良くして欲しい。

 あと買い物をしたい。


 ――――そんな時だった。


 ランカの後ろから、誰かがくる。


「コラ! ランカ! 仕事をしろぉ!」


 ゲンコツを頭の上に落とす。


「痛っ⁉ わ、分かったよ、爺ちゃん!」


 やって来たのは初老の男性。

 ランカの祖父で、この店の店主さんだ。


「それじゃ、ハリト。また、後で選んであげるね」


 ランカはそう言い残して、仕事に戻っていく。

 気のせいかもしれないが、マリアの方には舌を出している。


「ふー、すまないな。あれでも普通の仕事は、しっかりしているんじゃが」


「いえいえ。こちらこそ。連れが張り合ってしまいまして、申し訳ないです」


「そうか。ん? その服は……ふむ……いい、感じに実戦で使い込んでいるな」


「えっ……分かるんですか?」


 オレの“古代の着衣アーマー”を、店主さんは凝視してきた。

 かなり鋭い視線だ。


「ああ、こう見えてプロだからな。かなり激戦にで、使い込んできたようじゃのう、この短期間で」


「あっ、はい。オレが未熟なんで、戦闘では助けてもらっています」


「はっはっは……武器と防具は使ってなんぼじゃ。頼ってやれ」


「はい、ありがとうございます!」


「それじゃ、今日も“掘り出し物”を見つけられるといいのう」


 そう言い残して、店主さんは去っていく。

 マリアと二人きりになる。


「ハリト君、ここは随分と変わった店ですね、特に店員さんが?」


「まぁ、そうかもね。でも、品ぞろいと掘り出し物は、凄いから見えていこう!」


「はい」


 二人で買い物を開始していく。

 マリアは自分の武器と防具を、一人で見ていく。

 候補が決まったら、オレに声をかけてくれるという。


 オレは一人で店内を物色していく。


「うーん、《聖女の欠片1/3》か……そもそも、何の形をしているんだろう?」


 チャレンジは《YES》を選択しておいた。

 でも肝心の目的の品の形状が、分からないのだ。


「この店にあるということは、武器か防具の形をしているはずだよな……」


 でも店内には、膨大な数の武具がある。

 これを一個ずつ鑑定していったら、何日かかるか分からない。


「前回の時は、オレがこの服を偶然見つけて……それで気になって鑑定を会得して、それで見つけたんだよな……」


 もしかしたら今回も、オレが気になる物があるのだろうか?


 でも今のところは見つからない。

 前回のジャンク品を見てみるが、どれもパッとしない。


「うーん、どうしたものかな……ん?」


 そんな時、誰かが近づいてきた。


 赤系のショートカットの少女、ランカだ。


「ねぇ、ハリト。今は一人?」


「え、うん。マリアはあっちで武器を見ているから。それがどうしたの?」


「それじゃ、ハリトだけに凄い物を見せてあげる。ちょっと裏にきてちょうだい」


「えっ、裏に? いいの?」


 ランカに強引に引っ張られていく。

 店の勝手口から、裏に連れられていく。


「ん? ここは、倉庫?」


「そうね。中古品の買い取りした物で、キレイにしてから店に並べるのよ。凄いでしょ?」


「うん、そうだね。なんかすごいね」


 倉庫の中には、沢山の中古の物が無造作に置かれていた。

 まさにお宝の山という感じだ。


 そんな一角に、ランカは連れていく。


「ねぇ、見てよ、この剣と盾、凄くない?」


「おお、本当だ⁉ これは……?」


「これは昨日、買い取ったばかりの品なのよ。かなり名品みたいで、まだ誰も見ていないの。ハリトが初めてだよ!」


「そうなんだ……それにしても、凄いな」


 見せてもらった剣と盾は、豪華な意匠が彫られている。

 かなりの業物なのであろう。

 光沢が素晴らしい。


 こっそり鑑定してみたけど、性能も高め。

 それぞれに一個ずつ付与機能があった。


「どう、今だったらハリトにだけ売ってあげるよ? 私の好意で?」


「えっ、いいの? お爺ちゃんに叱られない?」


「大丈夫よ。何しろお爺ちゃんも、ハリトのことを気に入っているのよ。前回、うちに来た後から、何かとハリトのことを口にしているのよ」


「えっ……オレのことを?」


 前回、オレは特に何もしていない。

 逆に“古代の着衣アーマー”を安すぎる値段で買っただけだ。


「何でもハリトの目利きを、凄く褒めていたよ。ほら、ウチの店は目利きが命なのよね。だから、良い品を見つけた者は、すごく認めているのよ」


「そっか……商売柄は確かにだね」


 こうした店は新品は、職人から品を仕入れていく。

 でも目利きがちゃんとしていないと、不良品を掴まされてしまう危険性もある。


 また冒険者から中古の武具を、買いとる時も同じ。

 目利きが出来ないと、客の信用を失う。


 販売する武具屋にとって、目利きのスキルは最優先なのであろう。


 ――――そんなことを、考えていた時だった。


 ぷにゅ♪


 背中に“柔らかい感触”がきた。


 えっ?


 これは何?


 そして後ろから、甘い女性の声がする。


「ねぇ、ハリト……教えて欲しんだけど。そのお爺ちゃんを認めさせた、ハリトの目利きの秘密をさ。ねぇ、いいでしょう?」


 えっ⁉

 ランカが後ろから、密着してきている⁉


 ど、どうしよう……。

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