第22話高ランクの冒険者

 中級迷宮のボス部屋の直前、謎の存在を【探知レーダー】で探知。

 相手は目の前にいるに姿が見ない相手だった。


 ◇


「ほほう?このオレ様に、よく気がついたな、お前?」


 誰もいない場所から、男の声が聞こえてくる。


「ハ、ハリト君……この声は……」


「マリアは後ろに下がって」


「は、はい……」


 相手は気配もなく、姿も見えない。

 でも場所を常に移動している。


 相手は間違いなく冒険者。

 しかも桁違いの腕利きの相手だ。


(まさか冒険者狩りか⁉)


 迷宮内で他の冒険者を、意図的に狩る者たちがいる。

 理由は相手の金品や装備品の奪取。


 全ての冒険者ギルドでは禁止されている。

 だ世の中から“負の存在”は完全に除去できない。


 監視の目を逃れて、冒険者狩りを行っている者も存在しているのだ。


(くっ……相手は間違いなく、高ランクの隠密と盗賊スキルの使い手……でも、マリアだけは必ず守る!)


 若くて綺麗なマリアが、悪質な冒険者に捕まったら、何をされるか分からない。

 オレは命を賭けてでも、仲間を守る覚悟を決めた。


(そのためには……自分の能力を最大に生かすんだ!)


 冒険者レベルと盗賊スキルでは、間違いなく相手に負けている。

 だからこそ別のスキル、自分にしかないスキルで立ち向かう。


(いくぞ……【鑑定】!)


 相手がいるであろう場所に、向かって発動。

 対象は人を意識する。


 ☆ピコーン♪


 ――――《ステータス》――――


 □名前:バーライ(♂28歳)

 □職業:上級隠密

 □メインレベル49


 ☆相手が【阻害】のスキルを所有しているために、今の鑑定レベルでは一部しか開示できず


 ――――◇――――


 くっ……【阻害】スキルなんてものがあるのか。

 知らなかった。


 でも、相手の居場所は分かった。

 鑑定によって、相手の全身が一瞬だけ明るく見えたのだ。


「そこだ……多斬ダブル・スラッシュ!」


 剣技(片手剣)の攻撃スキルを発動。


 ヒュイーン、シュバッ! シュバッ!


 鋭い二連撃で、相手に斬りかかる。


「なっ⁉ マジか⁉」


 相手は明らかに動揺している。

 声で分かる。


「くっ……【飛燕脚】!」


 何かの回避系のスキルを発動。

 オレの多斬ダブル・スラッシュは回避されてしまう。


 ――――だが相手のスキル解けて、姿を現す。


 黒づくめの衣装に男の姿が、段々と見えてきた。

 やはり何かのスキルで、姿を消していたのであろう。


 オレは剣先を向けて、最大限の警戒をする。


「どんなことがあってもオレは仲間を守る! だから立ち去れ!」


 精いっぱいの威圧で、相手に警告する。

 無駄な足掻きかもしれないが、これで退いてくれたら嬉しい。


 何しろ相手はメインレベル49の上級隠密。

 オレは勝てない可能性が高い。

 マリアと二対一でも、かなり難しいであろう。


「ふう……そんな物騒な物は下げてくれないか、兄ちゃん? オレは冒険者狩りじゃない」


 相手は両手を上げて、戦う意志がないことを見せてくる。


「いえ、油断は出来ません。あなたのような腕利きには、素手でも優れた戦闘技術があるはずです」


 だからオレは油断しない。

 上級職は普通ではない相手なのだ。


「まぁ、そうだよな。今回はオレが悪かった。でも、どうやって誤解を解けばいいのか? おっ、良い所にきた。ゼオン。お前たちも、説明してくれ! オレが冒険者狩りじゃないって!」


 ん⁉


 相手の視線が、オレの背後に移る。


 だがオレは相手から、視線を逸らさない。

 相手の隙を作るためのテクニックかもしれないのだ。


 ――――だが直後、オレは背後に“凄まじい圧”を感じる。


 思わず後ろを振り向き、剣先を向ける。


「なっ……」


 後ろ見て、オレは思わず言葉を失う。

 何故ならそこに、三人の冒険者がいたからだ。


「ハ、ハリト君……この人たち、いつの間にか……」


 後方を警戒していたマリアが、接近に気がつけないのも無理はない。


 何しろ新手の三人も、かなりの高ランクの冒険者。

 鑑定をする隙はないが、見た目の圧だけ理解できる。


「ああ、大丈夫だ、マリア。オレの側から離れないで……」


 彼女を守るように移動する。

 でも前後とも敵がいるから、気休めにならない。


 だがオレは最後まで諦めない。

 どんな手段を使っても、マリアを守るんだ。


「……いい目だ、少年」


「えっ……」


 相手の戦闘の人、巨漢の戦士タイプが、オレのことを褒めてくる。

 いきなりだったので思わず。声をだす。


 そんな時、新たな女性の声が響く。


「ちょっと、ゼオン! そんな威圧的な話し方じゃ、更に誤解を与えちゃうでしょ? あとバーライも早く謝りなさい。あんたの隠密のせいで、この子たちに誤解を与えちゃったでしょ!」


 前に出てきたのは女魔術師。

 セクシーな恰好の大人の女性だ。


 妖艶な笑みで、オレにゆっくり近づいてくる。


「ごめんべ、坊やたち。私たちは《白狼乃牙ホワイト・ファング》って、いう冒険者なの。これ、一応、ギルドの正式な身分証よ」


 そして大きな胸の谷間の中から、冒険者ギルド証を出して見せてくる。

 銀色に輝く証明タグだ。


「えっ……皆さんは、あの《白狼乃牙ホワイト・ファング》の人たちなんです⁉」


 まさかの事実に思わず声を上げてしてしまう。


白狼乃牙ホワイト・ファング》……この迷宮都市ガルドでも数少ない、高Bランクのランクパーティー。


 オレが密かに憧れていた人たち。

 もちろん冒険者狩りなどいう、セコイ真似をしない人たちだ。


「あっはっはは……そうだんですか……ふう……」


 驚きと安心。

 張りつめていた緊張感が解けて、腰が抜けそうになる。


「おい、大丈夫か、ボウズ? 驚かせて悪かったな」


 上級隠密バーライさんが、オレの身体を支えてくれる。

 いつの間に接近してきたのだろうか。


 凄い隠密スキル。

 全然、足音がしなかった。


「あっ、ありがとうございます……もう、大丈夫です」


 憧れの《白狼乃牙ホワイト・ファング》の人たちに、情けない姿を見せる訳にいかない。

 全身に気合を入れ直して、自分自身の足で立つ。


 心配そうな顔で、マリアも駆け寄ってくる。


「ハリト君、この人たちは……?」


「うん、《白狼乃牙ホワイト・ファング》の皆さん、らしい。Bランク冒険者の。危害は加えてこないはず」


「良かった。でも……Bランクの人たちが?」


 マリアが首を傾げるもの、無理はない。

 普通はこんな高位の人たちは、中級迷宮などは来ない。


 もっと上の《上級迷宮》や、《弩級迷宮》に行くのが常識なのだ。


 ちなみに冒険者ランクの目安は、こんな感じだ。


 ――――◇――――

 冒険者ランク(レベルは冒険者協会が公表している大よその目安)


 Sランク:レベル81~ :大陸にも数人しかいない


 Aランク=レベル61~80:各迷宮都市に6人しかいない 


 Bランク=レベル41~60:迷宮都市に60人しかいない


 Cランク=レベル31~40:各迷宮都市に600人しかいない


 Dランク=レベル11~30:平凡な冒険が一生かけて到達できるレベルの限界


 Eランク=レベル1~10:初心者~才能がない者が到達できる限界


 ―――◇――――


 つまりこの迷宮都市にはランクBの高位のパーティーは、十数組しかない凄腕なのだ。


「まぁ、オレたちは、少し探し物があってな?」


 上級隠密バーライさんは言葉を、はぐらかせてきた。

 何か理由があるのであろう。


 冒険者同士では細かい詮索はしていけない、暗黙のルールがある。

 ここはお互いにスルーして別れるのでが、都合が良いのだろう。


「ところでボウズ……ハリトっ言うのか? お前さん、“何者”だ?」


「えっ……?」


 だがバーライさんは真剣な顔で訪ねてきた。


「ちょっと、バーライ。何、詮索しているのよ? ここはサラっと別れていくのがスマートでしょ?」


「いや、そうはいかんだ。レイチェル。何しろこの少年は、オレの【不可視体インビズリティブ】を初見で見破ったんだぞ。何のスキルも使わずに?」


「「「えっ……」」」


 バーライさんの言葉に、《白狼乃牙ホワイト・ファング》の面々は言葉を失っていた。


「もしかしたら、“普通”じゃないのか、お前は? ハリト?」


「あっ……それは……」


 まさかの指摘に言葉を失ってしまう。


 どう答えたらいいのだろうか。

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