第13話中級迷宮へ

 迷宮で死にかけたことによって、オレは新たな力を入手。

 新しい【鑑定】スキルを会得、高性能な“古代の着衣アーマー”も入手。


 新しい天の声が従い、冒険者ギルドで依頼人マリアと出会う。

 だが孤児院の同期組が、マリアの呪いのことを馬鹿にしてきた。


 ◇


 冒険者ギルドの中。


「マジか⁉ あの伝染病の醜い女神官かよ⁉」


「こいつはウケる!」


 同期組の連中は、マリアのことまでさげすんできた。


「うっ…………」


 オレの後ろにいたマリアが、悲しそうな声をだす。

 肩を小さく震えさせていた。


(コイツら……)


 ――――そんな時だった。


 オレの中に“不思議な感情”が浮かんできた。


 これは今まで感じたことがない感情……“怒り”だった。


(これが“怒り”なのか……こんなに強い負の感情は、始めてだ……)


 今まで自分が蔑まれてきても、オレは“怒り”を感じることがなかった。

 常に前を向いて、必死になって努力してきたのだ。


(オレは、マリアのために怒っているのか?)


 司祭様の言葉を思い出す。


 ……『怒りは確かに負の感情。ですが時には……例えば大事な人を守る時は、その怒りは“内なる力”になります。だから自分の感情とは、正しく向き合うのです』


 内なる力に、そういうことですか。

 ありがとうございます、司祭様。


 あの時の言葉の意味が、今となってようやく理解できました。


 ふう……。

 深く深呼吸して、心を落ち着かせる。


 湧き出てきた怒りを、自分の中に包み込んでいく。

 よし、これで、もう大丈夫だ。


「おい、ガリチビ⁉ ビビッて、動けないのかよ⁉」


「はっはっは……呪いが移ったじゃねぇか⁉ ガッハッハ……」


 また彼らがマリアを蔑んできた。


 ――――だがオレは構わない。


「そこをどいて。カウンターに行くのに邪魔だから」


 通路を通せんぼする同期組に、勧告する。


「はぁ? いきなり調子に乗ってじゃねぜぞ⁉」


「ガリチビのクセに生意気んだよ!」


 激情した相手は握りこぶしで、オレに押し寄せてくる。

 高圧的な態度で、ビビらせるつりなのだろう。


 ――――だがオレは負けない。


「邪魔だ。そこ、どいて」


 誰かを守るための怒り……内なる力で、真っ正面から立ち向かう。


「ひっ⁉ こ、こいつ……」


「こ、こんなに、凄みがあったけ⁉ ガリチビのくせに……」


「い、いや、待て……こいつ……ガリチビじゃねぞ……オレたちより身長が……」


「ま、まさか⁉ ほ、本当だ……しかも腕も、あんなに太く……」


 同期組は声を失っていた。

 後ずさりして、道を開けていく。


「通してくれて、ありがとう。マリア、それじゃ、いこうか?」


「えっ⁉ は、はい……」


 マリアの手を引いて、カウンターに移動。

 依頼を受託したこと、受付のお姉さんに報告する。


 あと同時に『中級迷宮のチャレンジ』も、こっそり□YESを選択しておく。


 これで依頼もチャンジも、両方とも登録完了だ。


「さっきは止めようと思ったけど……でもカッコよかったぞ、ハリト君!」


「えっ? あ、ありがとうございます……」


 褒められて、急に恥ずかしくなった。

 マリアの手を引いいて、冒険者ギルドを後にする。


 よし、このまま目的の中級迷宮に、向かおう。

 場所は地図で確認してあるから、大丈夫。


 あっ、その前にマリアに確認しておかにと。

 迷宮に潜る準備が終わったか?


「あ、あの……ハリトさん、手が……」


「あっ⁉」


 気がつくと、ずっと手を繋いだままだった。

 ギルド内のいざこざから、この街中まで長い時間。


「ご、ごめんね、マリア。手なんて繋いじゃって……」


「うんうん。大丈夫です。初めて“人”に、こんな風に手を握ってもらったの、初めてだったけど」


「えっ……人と手を繋ぐのが、初めて⁉」


「うん。私は生まれた時から、この呪いがあった。だから伝染のデマを信じて、誰も……親さえも、私の手を握ってくれなかったの……」


「そ、そうだったんだ。ごめんね、最初がオレみたいな奴で」


「うんうん。嬉しかったから、大丈夫です」


「えっ、嬉しかった……?」


「人の手は……ハリトさんの手は、あんなに温かい……という意味です」


「そうか……そうだね。人は温かいよ、マリア。あっ、あと、オレのことは呼び捨てでいいよ。『さん付け』されると恥ずかしいし」


「分かりました、ハリト君……さっきは助けてくれて、ありがとう」


「え? うん。よし、それじゃ。《呪いの迷宮》に行こう! マリアの準備は大丈夫?」


「はい、大丈夫。私も一応は冒険者だから、常に準備してあります」


「よし、それじゃ行こうか」


 準備は整った。

 中級迷宮である《呪いの迷宮》に、オレたちは向かう。


 ◇


《呪いの迷宮》の入り口に到着。

 他の冒険者は誰もない。


 二人で迷宮に潜っていく。


「ここが中級迷宮か……」


「そういえばハリト君、中級迷宮は初めてですか?」


「いやー、恥ずかしながら。つい先日まで、レベル1だったもので、初なんだ」


「そっか……ん? でもギルドで受付の許可が、取れたということは?」


「そうなんだ。実は今はメインレベル9になれたんだ!」


「えっ……そんな短期間で、レベルが一気に8も⁉ す、凄い……」


「ありがとう。でもまだ実感が無くてさ。あっ、ところでマリアのメインレベルはいくつ? 参考までに」


「私のメインレベルは7です」


「おお、7か! 凄いね。ということは、今までも鍛錬を?」


「はい。この呪いを解きたくて、幼い時から必死で鍛錬をしてきました。あと冒険者になったのは二年位前に。ほとんど一人ソロだったけど」


「そっか……そんなことがあったのか。オレと似ているね。まぁ、でもマリアは才能があるはず。オレと違って地道にメインレベル7に上げて、中級迷宮に潜れる資格もとって……ん? なんかオレ、矛盾していることを言っている?」


「ふっふふ……ハリト君、面白い」


「エッへへへ……ごめん。よし、それじゃ行こうか!」


「はい」


 他にも互いのスキルなども、情報を交換。

 準備が整ったところで、本格的に迷宮を進んでいく。


 隠密のスキル持ちのオレが、先行して進んでいく。


 ――――だが少し進ん時だった。


「ん⁉ 魔物⁉ こんな近くに⁉」


 進んだ先の天井に、いきなり“大蜘蛛ジャイアント・スパイダー”がいた!


 シュー!


 毒々しい液体を、オレに向かって吐き出してくる。


「くっ⁉ 速い⁉」


 攻撃を胴体に喰らってしまった。


「ハリト君!」


 後方でマリアが叫ぶ。

 マズイ……これは間違いなく毒攻撃だ。


 早く回復しないと⁉


 ん……身体が動く?

 どうして?


 あっ、もしかしたら“古代の着衣アーマー”が守ってくれたのか⁉


 でも今は検証している暇はない。

 すぐさま反撃に移る。


「いくぞ! 【飛斬スラッシュ・カッター】!」


 剣技(片手剣)のスキルを発動。


 シューン……スカ。


 な⁉

 回避されてしまった。


 相手の攻撃と動きが、予想以上に速い。

 前の初級迷宮とは違う。


「ハリト君、援護します! 【聖衝撃ホーリ・ショック】!」


 後衛のマリアが援護射撃をしてくれる。

 神聖魔法での遠距離攻撃を発射。


 シャーン、バン!


 見事に命中。

 大蜘蛛ジャイアント・スパイダーの動きが一瞬、止まる。


 よし!

 今が好機。


「いくぞ! 【斬撃スラッシュ】!」


 すかさずオレは踏み込み、剣術スキルを発動。

 無防備な大蜘蛛ジャイアント・スパイダーに斬りかかる。


 ズシャ!


 今度は無事に命中。

 なんとか大蜘蛛ジャイアント・スパイダーを倒すことに成功した。


 ふう……危なかった。

 周囲を警戒しながら、魔石を回収する。


「さっきの毒、大丈夫、ハリト君?」


「ありがとう。この服のお蔭で、なんとか?」


「えっ、そんな普通の布で⁉ あの大蜘蛛ジャイアント・スパイダーの毒を防いだ⁉」


 マリアは凄くびっくりした顔になる。


 何故なら大蜘蛛ジャイアント・スパイダーの毒は、金属鎧も溶かすほど強力。

 普通の服では、絶対に防御できないという。


「そうだったのか……実はこの服には、少しだけ特殊な防御力があるみたいなんだ」


「え、特殊な⁉ すごい……高ランクの冒険でも特殊耐性付きの防具は、なかなか持っていないのに」


「そうなの? まぁ、でも今のオレには、宝の持ち腐れかもね……」


 今の戦いを思い返して、深く反省する。

 かなり失敗してしまった。


 最初の索敵で、大蜘蛛ジャイアント・スパイダーを発見できなかった。

 それに毒攻撃も回避に失敗。


 あと【飛斬スラッシュ・カッター】も外してしまった。

 マリアの援護射撃がなかったら、危ない戦闘だった。


(やっぱりスキルポイントを使って、スキルレベルを上げよう! あっ、でも索敵は、どのスキルを上げればいいんだろう?)


 ――――そんな困っていた時だった。


 ☆《ピローン♪ 新しいスキルを会得しました》


 えっ?

 新しいスキル?


 いきなりでビックした。

 何だろう、ステータス画面を確認してみよう。


 ――――《ステータス》――――


 □名前:ハリト(♂16歳)

 □職業:剣士

 □メインレベル9

 □スキルポイント:22


 □スキル

 ・剣技(片手剣)レベル2

 ├斬撃スラッシュ

 └飛斬スラッシュ・カッター


 ・回避(受け流し)レベル2

 ├見切り

 └受け崩し


 □隠密レベル1

 └忍び足


 ・空間収納レベル1

 └収納リスト


 □固有

 ・《観察眼》

 ├鑑定眼レベル1

 └New!探知レベル0


 ・■■■■■■■■■■


 □身長176センチ


 ――――◇――――



 ん?

《探知レベル0》というのが、追加されているぞ。

 また《固有》の《観察眼》から発生しているスキルだ。


 とりあえずタッチして、説明を見て見よう。


 ☆《探知:目に見えない物も、レーダーで探知して確認できる。内容や有効距離などは、レベルアップで増えていくよ》


 ん?

『目に見えない物も、レーダー探知して確認できる』か。


 どういう意味だろう。

 特に“レーダー”は初めて耳にする単語。


 とりあえずスキルポイントを1消費して、レベル1に上げて使ってみよう。


 ☆《ピローン♪ 探知レベル0→1になりました》


 よし、上がったぞ。

 まずは適当に使ってみよう


「えーと、【探知】!」


 ピッ、コーン♪


 また音が流れた。

 成功したのかな?


 ん?

 なんだ、この表示は⁉


 透明で丸い地図みたいのが、目の前に出てきたぞ。

 もしかしたら、これが《レーダー》なのかな?


 中心に白い点が二個ある。


 少し通路を先に、怪しい赤い点があるぞ。


 これは一体、何を意味しているんだろう……?

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