第12話依頼人

 迷宮で死にかけたことによって、オレは新たな力を入手。

 防具屋や新しい【鑑定】スキルを会得。


 お蔭で高性能な“古代の着衣アーマー”を格安で買えた。


 そんな中、新しい天の声が出てきた。



 ◇


 ☆《チャレンジ:新しい防具を試すために明日、下町の冒険者ギルドに行って、中級迷宮の依頼を受けてみよう。行ってみますか?》

 □YES

 □NO


 うーん、ちょっと困った内容だ。

 今のオレはまだランクEの初心者な冒険者。


 中級迷宮は危険すぎるのだ。


「選択は保留しておこう。明日の朝一に冒険者ギルドに行って、啓示物の内容を確認してからにしょう」


 今日はもう遅い時間だ。

 常宿に戻って、身体の疲れを取ろう。


 そんな時、また天の声が聞こえてきた。


 ピロ~ン♪


 ☆《チャレンジ『下町の《萬屋よろずや店》に行って買い物してみよう』を完了しました》

 ☆《特別経験値が付与されました》

 ☆《ハリトのメインレベルが1上昇しました》

 ☆《スキルポイントを4ゲットしました》




 ――――《ステータス》――――


 □名前:ハリト(♂16歳)

 □職業:剣士

 Up!メインレベル9

 Up!スキルポイント:18→22


 □スキル

 ・剣技(片手剣)レベル2

 ├斬撃スラッシュ

 └飛斬スラッシュ・カッター


 ・回避(受け流し)レベル2

 ├見切り

 └受け崩し


 □隠密レベル1

 └忍び足


 ・空間収納レベル1

 └収納リスト


 □固有

 ・《観察眼》

 └鑑定眼レベル1


 ・■■■■■■■■■■


 Up!身長172→176センチ


 ――――◇――――


 おお、レベルが上がった。

 そうか《萬屋よろずや店》にいくチャレンジを、完了したからか。


 ああ、ついにメインレベル9まで到達したのか。

 これは素直に嬉しい。


 何しろ次のレベルは、初心者冒険者の壁。

 レベル10になれば、何とかEランクの最底辺を突破できるのだ。


「うーん、それにしてもスキルポイントが、けっこう貯まってきたな?」


 22ポインも貯めたのは初。


 何に割り振ろう?

 かなりワクワクしてきた。


「とりあえず明日の依頼内容を見てから、考えよう。何が起きるか分からないかな」


 今までも収納や鑑定など、急にスキルを会得してきた。

 だからポイントは貯めておく方が、賢いのかもしれない。


「よし、今宵はゆっくり休もう。新しい服も買ったことだし」


 この夜は常宿に戻る。

 ゆっくり休んで、体力と精神力を回復させることにした。


 ◇


 翌日になる。

 朝一で冒険者ギルドに向かう。


 朝一の冒険者ギルドは好きだ。


 何故なら朝の冒険者ギルドは、比較的に空いている。

 オレに突っかかってくる人も、少ないのだ。


「よし、どんな依頼があるかな?」


 冒険者ギルドに到着。

 中に入り、依頼の張ってある壁を確認。


 中級迷宮に関する依頼を、探していく。


「おっ、あった。これだ」


 依頼の中に一個だけ、中級迷宮に関する物があった。


 内容は……『中級迷宮“呪いの迷宮”の探索の護衛求む、至急』だ。


 ん?

“呪いの迷宮”?


 初めて目にする名前だな。

 新しく発見された迷宮かな?


 よし、とりあえず紙を受付に持っていって、お姉さんに確認してみよう。


「あっ、おはようございます……って、ハリト君でしたか。おはよう。あら? 服を新調したの?」


「あ、実は、昨日、ギルドマスターに教えてもらった防具屋さんで、これを購入しました」


「へー、パパの紹介で、あの店に行ったのね。ちょっと頑固なおじいちゃんがいるけど、品ぞろいは良かったでしょ?」


「はい、とても親切にしてくれました」


「なるほど。それにその新しい服、デザインもなかなか素敵じゃない。ハリト君の雰囲気に似合っているわよ」


「あ、はい、ありがとうございます!」


 服や外見を褒められたのは、生まれて初めて。

 すごく嬉しい。

 受付のお姉さんが、女神様のように見えてきた。


 よし、気分が良くなったところで、依頼内容を確認しよう。


「えーと、この依頼を確認したいのですが? まだ空いていますか?」


「これは……まだ誰も申し込みしてないから、大丈夫よ」


「ああ、良かった。でも、オレはまだランクEのだけど、これは受けることは出来ますか?」


「うーん、正直なところ“前のハリト君”なら、受けられなかったわ」


「前の……ですか?」


「でも今のハリト君なら、許可してあげる。何しろ子鬼ゴブリンを282匹も狩ってこられたからね。パパからも言われていたし」


「あっ、はい、ありがとうございます!」


 よかった。

 依頼を受けることが出来る。

 お姉さんとギルドマスターに感謝だ。


「でも昨日も言ったけど、ハリト君は無理しちゃ駄目ですよ!」


「あっ、はい。約束します」


 受付のお姉さんは最近、やけに心配してくる。

 仕事というより、姉的な感じだ。


「よし、これで許可です。あっ、ちょうど依頼人が来たわよ。あの神官着の子が依頼人よ、その。あとは本人と話をしてみて、お互いの都合が合ったら、ここに来てちょうだい」


「あっ、はい。あの子ですね。分かりました。行ってきます!」


 ちょうど冒険者ギルド内に入ってきた子がいた。

 あの人が依頼人か。


 そのまま待機場所に向かっていった。

 フードを被っていて、後ろ姿で顔は見えなかったけど、けっこう若い子だ。


 よし、依頼書を持って、話をしにいこう。


「あの……すみません。依頼を見て、受付のお姉さんに紹介されて来たのですが」


「……はい、どうぞ。そこに座ってお話を?」


「失礼します……ん?」


 依頼人の正面に座って、思わず声を出しそうになる。

 何故なら神官着のフードの中、女の子の顔は包帯で覆われていたのだ。


 いや、顔だけじゃない。

 神官着から除く両手にも、包帯がグルグルに巻かれている。


「これ、気になりますか?」


「あっ、いえ……すみません、ジロジロ見ちゃって」


 オレは嘘がつけない顔らしい。

 だから正直に謝る。


「いえ、気になさずに。小さい時から、畏怖いふの視線には慣れていますので」


「えっ……小さい時から?」


「今回の依頼にも関係するのですが、私は生まれた時から“呪い”があって、全身の皮膚に醜くいあざがあるのです……」


「生まれた時から、呪いが……ですか」


「はい、司祭様の魔法でも、除去できない特殊なもの。だから今回の依頼の新しい迷宮……《呪いの迷宮》に行きたいのです。そこの最深部には、特殊な呪いに効く薬草があるという噂なので」


「なるほど……そういう、ことか。分かりました。もしも良かったら、お手伝いします!」


「えっ……いいですか? こんな安い依頼料金で、しかも危険度が高い迷宮ですが……」


「うん、大丈夫です。困っている人を助けることが、オレのもっとうだから。それにオレも生まれた時からの呪いで、ちょっと前まで困っていたからさ。レベルアップも出来ずに、成長も止まって」


「えっ……アナタも⁉ でも、今は、どう見ても……」


「そうだね。ちょっと前に、偶然が重ねって、呪いが消えた……反転したんだ」


「そうだったんですね。苦労してきたんですね、アナタも」


「そうかも。だから君を助けたいんだ! あっ、オレの名前はハリトって言います。一応は剣士です」


「ありがとうございます。私はマリア。神聖魔法が使えます。是非ともハリトさん、よろしくお願いします」


「うん、オレでよければ、ぜひ!」


 よかった。

 神官の少女……マリアさんとの依頼交渉が成立した。


 あとは受付のお姉さんに合意の連絡を、二人ですればいいだけだ。


 二人で席を立ち、受付に向かうことにした。


 ――――だが、その時だった。


 嫌な連中がギルドに入ってきた。


「おい、見ろよ! ガリチビがいるぞ!」


「ああ、そうだな! 一丁前に女づれだぞ!」


 いきなり汚い言葉を発してきたのは、孤児院の同期組の連中。

 いつもオレのことを蔑んでくる人たちだ。


「ん? おい、その女、あれだ。噂の“呪い神官”だぞ!」


「マジか⁉ あの伝染病の醜い女神官かよ⁉ こいつはウケる!」


「ガリチビと呪いの神官の組み合わせてかよ! はっはっは……!」


 彼らはオレたちの行く手を遮る。

 しかも一緒にいるマリアのことまで、蔑んできた。


「うっ…………」


 後ろにいたマリアが、悲しそうな声をだす。

 肩を小さく震えさせていた。


(コイツら……)


 ――――その時だった。


 オレの中に“不思議な感情”が湧き出てきた。


 今まで感じたことがない、負の感情……“怒り”だった。

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