第5話孤児院へ
迷宮で死にかけたことによって、オレは新たな力を手にした。
念願だったレベルアップが可能に、剣技と回避のスキルも手に入れた。
長い時間を不思議な空間から、元の迷宮都市の広場に戻って来た。
◇
☆《チュートリアル終了。次は初心者育成モードに移行します》
また天の声が聞こえきた。
今度は街や迷宮の中で、なにかトレーニングはあるのかな?
不安もあるけど、実はちょっとだけ嬉しかった。
また、この不思議なシステムと一緒に過ごせる。
愛着が湧いていたので、嬉しかったのだ。
ん?
というか、ちょっと待って!
この浮かぶ文字を、周りの人に見られた大変だ。
早く隠さないと。
あれ?
でも周りの人は、誰も気が付いてない。
もしかしたらオレにしか見えない文字なのかな?
ふう……焦った。
これならひと安心。
今後もいきなり出てきもて大丈夫だ。
でも、とりあえず、人が多い広場からは移動しよう。
ひと気の少ない、建物陰にきた。
ここなら誰かが来ても、すぐ分かる。
という訳で改めてよろしくお願いします。
天の声さん。
そう感慨にふけっていたら、また新しい文字が浮かんできたぞ。
☆《今後の行動方針を決めよう》
□最強の剣士を目指す
□Sランク冒険者を目指す
□大陸屈指の大金持ちを目指す
□名誉ある称号を目指す
□富と名声の両方を手に入れることを目指す
□その
あっ……これは。
片手剣の時と同じように、アンケート方式かな?
ということは、ちゃんと選んだ方がいいやつだ。
あっ、というか片手剣を、持ってきてしまった。
迷宮に返さなくてよかったのかな?
次にあの迷宮に入る機会があった、返しておこう。
それまで使わせてもらおう。
これも、ちょっと嬉しいかも。
あの苦難を一緒に乗り越えた相棒で、今は愛着すらある。
返すまで、よろしくな、片手剣よ。
さて、選択をしないとな。
それにしても、色んな行動方針があるな?
どれも魅力的で、普通の人なら夢見ることばかりだな。
でもオレに昔から、目標があった。
だから、もう決まったぞ!
「□その他……『オレは一人前の冒険者を目指す。色んな人を助けられるような冒険者に』」
よし、タッチながら音声入力してみたぞ。
本当にこれで大丈夫なのかな?
☆《今後の行動方針は『色んな人を助けられるような一人前の冒険者を目指す』に決定しました》
おお、良かった。
無事に入力できていたぞ。
☆《ピー、ガー、ピー。行動方針に合わせて、今度のチャレンジとクエストを選定中……ピコリン♪》
そして何か変な音が出ている。
大丈夫かな、壊れていなければいいけど。
☆《初心者育成チャレン:孤児院の司祭様に会いに行こう。チャレンジしてみますか?》
□YES
□NO
おっ、直った。
そして新しい指示が出てきたぞ。
ふむふむ、司祭様に会いに行けばいいのか?
随分と簡単な内容だな?
あと今回は選択式か。
でも迷うことはない。
どうせ一度、顔を出そうと思っていたところ。
簡単なチャレンだな。
□YES!
よし、いこう。
とりあえず指示に従って、孤児院に向かうことにした。
こからそれほど遠くはない。
通い慣れた裏道を通って、最短ルートを駆けていく。
「ん? おお、身体が軽いぞ! そうか、レベルアップした恩恵か!」
以前とは段違いのスピードで、裏路地を駆けることが出来る。
きっとメインレベルが1から4に一気に上昇した恩恵だろう。
足が羽のように軽い。
あと目の前に迫ってくる、裏路地の障害物。
それらも難なく回避して、どんどん走っていける。
こっちは多分、『回避(受け流し)レベル1』の恩恵だろう。
障害物を攻撃と認知して、スキルで回避していけるのだ。
「すごいな……オレ、本当にレベルアップしていたんだ……」
駆けながら改めて実感する。
自分が本当に強くなったことを。
あの空間の出来ごとやステータス画面が、本物だったことを。
改めて感謝する。
「お? もう見えてきたぞ、早い!」
目的の孤児院が見えてきた。
今の時間なら司祭様は、中の個室にいるはず。
よし、早く会いにいこう。
ん?
まずい⁉
オレは孤児院の入り口前で、急ブレーキ。
だが一足遅かった。
「おっ、誰かと思ったら『ガリチビ』じゃん!」
「いや、違うだろう。あいつは『無能者』だべ!」
「ギャハハ! 両方だろ、あのクズは!」
孤児院の前にいたのは、三人の冒険者。
オレと同じ孤児院卒の同期組。
幼い頃からオレのこと、を
出来れば顔を合わせたくない人たちだ。
「あのー、中に入りたいだけど。そこを通してくれないかな?」
三人は孤児院の入り口を、通せんぼうしていた。
オレが入ろうとしていのを見て、ワザと邪魔しているのだ。
「はぁ? 『ガリチビ』のクセにオレたちに命令してきたぜ?」
「ウケる。一万ルピー払ったら、通ってもいいぜ?」
「おい、この無能君に、そんな大金あるわけねーべ!」
「だな! あっはっは……」
三人は話を聞いてくれない。
こうなったら裏口から行くか。
☆《緊急チャレンジ:この三人から一撃も食らわないように、正面入り口から孤児院に入って、司祭の部屋到達してみよう。攻撃&回避の応用だよ》
えっ⁉
なんだ、これ……。
いきなり『緊急チャレンジ』っていうのは出てきたぞ⁉
しかも内容が……タイムリーすぎる。
もしかしてオレ、どこかから監視されているのかな?
上かな?
いや、誰もいない。
「ん? おい、見ろよ。あいつガリチビのくせに、剣なんて下げているぜ⁉」
「ああ、ほんとだ。もしかして盗んできたんじゃね?」
「おい、無能くん。その剣をオレたちに寄せよ。どうせ、宝の持ち腐れだろ!」
「だな。あの剣を見ていたら、無性に欲しくなってきたな!」
「たしかに!」
その時だった。
三人組がこっちに近づいてくる。
視線の先にあるのは、オレの片手剣。
不思議な空間で借りてきた剣。
いつものようにオレから物を、奪おうとしているのだ。
「これはやれない。ある人から……借りてきた大事ものなんだ!」
正直に話しても、この人たち信じてもらえないだろう。
だから断る。
「おい、反抗しやがったぜコイツ!」
「それなら力づくだな!」
「遊んでやろうぜ、昔みたいによ!」
「殺すんじゃねえぞ。腕の一本くらいしとけよ、みんな!」
三人は刃物を抜いてきた。
剣とナイフ。
オレを囲んで、不敵な笑みを浮かべている。
(くっ……さっきのチャレンジは、このことか……でも、この三人相手じゃ、どうにもできないよ)
たしか三人の今のレベル5を超え。
体格や腕の太さも、オレよりも大きい。
数でも個人能力でも、オレは圧倒的に不利なのだ。
「いくぜ!」
正面の一人が斬りかかってきた。
くっ……ヤバイ……あれ?
だが奇妙なことが起きた。
相手の攻撃が、それほど怖くないのだ。
これなら回避できるぞ。
「よっと!」
オレは難なく回避。
すごく簡単だった。
同時に理解する。
(そうか……これがスキルの差による恩恵か……)
今の一撃で分かった。
こいつは剣術レベル1しかない。
メインレベルが5でも、攻撃を当てる技術が低いのだ。
これなら一対一なら負ける気がしない。
「おい、こいつ小さいから、素早いぞ!」
「取り囲んで、後ろからいけ!」
あっ、ヤバイ。
包囲して死角から、攻撃してくるつもりだ。
(さすがに三対一で回避するのは厳しいな。どうしよう……あっ、そうか!)
アイデアが浮かんだ。
すぐさま左手の紋章を起動。
ステータス画面を開いて、あるスキルの部分をタッチ。
《回避(受け流し)レベル1→2にしますか?(必要スキルポイント2)》
□YES
□NO
即座に□YESを選択。
《ピローン♪ 回避(受け流し)レベル1→2になりました》
同時に流れるようにステータス画面を確認。
――――《ステータス》――――
□名前:ハリト(♂16歳)
□職業:剣士
□メインレベル4
↓スキルポイント:4→2
□スキル
・剣技(片手剣)レベル2
├
└
UP! 回避(受け流し)レベル1→2
└見切り
□固有
・《観察眼》
・■■■■■■■■■■
□身長152センチ
――――◇――――
よし、回避(受け流し)レベル2に上昇できたぞ。
これなら三対一でもいけるはずだ!
そしてオレの予想は的中する。
「死ねぇ!」
「どりゃあ!」
「クソチビがぁあ!」
三人からの包囲攻撃を、オレは剣も抜かず回避。
まるでダンスのように避けていく。
「よっと。あらっ。ひよっと!」
回避(受け流し)レベル2の恩恵は、凄まじかった。
相手の攻撃は、まるで子どもの遊びに感じた。
(ん? この同時攻撃は、危ない……【見切り】!)
そして回避(受け流し)の技の一つ、【見切り】も効果も凄かった。
発動一回につき、一回だけ見切り回避すること可能なのだ。
この組み合わせで、三人の連続攻撃をダンスのように躱していく。
あのパペット君と鍛錬しているような楽しさがあった。
というかパペット君の連続攻撃に比べたら、こいつの攻撃は雑すぎる。
ん……あれ?
気が付くと、三人の攻撃が止んでいた。
いったい、どうしたんだろう?
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ぜぃ……ぜぃ……ぜぃ……」
「ぜぃ……はぁ……」
三人ともダウンしていた。
そうか空振りを連発しすぎて、体力が尽きたのか。
「よし、今のうちに……」
コッソリ正面入り口に入っていく。
よし、何とかバレずに侵入できたぞ。
ふう……よかった。
(それにして、スキルの恩恵は凄いな……レベル差と人数差が、ひっくり返したぞ……)
先ほどの戦いで、一つ分かったことがある。
あの三人はオレより上位の、レベル5~6の者たち。
だが剣術スキルレベルは、間違いなく1しか無かった。
たしか三人とも【格闘スキル】や【交渉スキル】など、色んなスキルをゲットしたと自慢していた。
だから1個あたりのスキルレベルが、軒並み低いのだ
(それに比べてオレは剣術スキルと回避スキルに、適切に降り分けていた。だから、あそのまで圧倒できたのか……)
改めて【スキルポイント配分システム】の凄さを実感した。
今後はスキルポイント振り分ける時は、慎重に。
かつ大胆に上げていこう。
「よし、方針も決まったから、あとは司祭様の部屋にいこう。ん?」
あぶない。
孤児院の中には、他の同期組もいた。
彼らも幼い頃から、オレを蔑んできた連中。
中で顔を合わせて、気分が良い相手ではない。
「よし、見つからないように、司祭様の部屋にいくか……」
コッソリ、かつ目立たないように通路を進んでいく。
こう時は身体が小さいのは便利。
昔から隠れん坊も得意なので、誰にも見つからなかった。
「よし、何とか司祭様の部屋の前に到着したぞ」
あとは扉を開けるだけ。
ん?
その時だった。
ピロ~ン♪
☆《『緊急チャレンジ:三人から一撃も食らわないように、正面入り口から孤児院に入って、司祭の部屋到達してみよう』を完了しました》
☆《特別経験値が付与されました》
☆《ハリトのメインレベルが1上昇しました》
☆《スキルポイントを6ゲットしました》
おお、レベルが上がった。
さっきの、チャレンジの結果か、これ。
でも、こんなことだけで、レベルが上がるの⁉
嬉しいけど、申し訳というか、不思議な感じがする。
でも、やっぱり嬉しい。
今までの九年間の地道な鍛錬が、花が咲いたと感謝するしかない。
とにかくステータスをタッチして確認だ。
――――《ステータス》――――
□名前:ハリト(♂16歳)
□職業:剣士
UP! メインレベル4→5
UP! スキルポイント:2→8
□スキル
・剣技(片手剣)レベル2
├
└
・回避(受け流し)レベル2
├見切り
New! 受け崩し
New! 隠密レベル0
□固有
・《観察眼》
・■■■■■■■■■■
UP! 身長152→156センチ
――――◇――――
おお、今回もちゃんとレベルアップしていた。
しかも微妙に増えているのがあるぞ。
たしか【受け崩し】は受け流し系の技だ。
上手く発動できたら、受け流した時に、相手のバランスを崩せる便利な技だ。
今度、試してみよう。
あと【隠密レベル0】は新しいスキルだ。
その名の通り、隠密行動が出来る系統だ。
ん?
でも、何でこれが急に出てきたのかな?
あっ、そうか。
孤児院の中で、コッソリ進んできたからかな?
とりあえず【隠密レベル0】のスキル上げは、保留にしておこう。
計画的に割り振って、いかないとね。
ピロ~ン♪
あっ、新しいチャレンジが来たぞ。
何だろう?
☆《チャレンジ:孤児院の司祭様に左甲の刻印を見てもらおう。見せますか?》
□YES
□NO
え……。
これを見せないと駄目なのか。
司祭様は悪い人ではないし、幼い時からお世話になった恩人。
でも凄く厳格で、怒ると怖い。
これを見せても大丈夫かな……。
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