第4話更なるトレーニング

 迷宮で死にかけたことによって、オレは新たな力を手にした。

 念願だったレベルアップが可能に、剣技と回避のスキルも手に入れた。


 ◇


 休む間もなく(なぜか体力は全て回復しているけど)、次なるミッションが訪れる。


 ☆《トレーニング・ミッションその3:覚えた攻撃と回避を一緒に使ってみよう。自動人形レンド君の弓矢攻撃を100回、回避&攻撃してみよう》



 ボワン!


 ん?

 あれは……廊下の先に、何かが現れたぞ?


 四本腕の等身大の人形で、四つのクロスボウを装備している。

 足には蟹のような多脚がついている。


 ああ、そうか。

 あれ『自動人形レンド君』なんだろうな。


 さっきのパペット君はクールな雰囲気だった。


 でも今度の人形は、顔がちょっと怖そうだ。

 レンド君は何か怒っている感じがする。


 いや、人形だから無表情なんだけど。


 とにかく、このレンド君が、次の訓練パートナーだ。


「よろしくお願いします! レンド君!」


 頭を深くさげて挨拶する。


 ウィーン! ビュン!


 直後、レンドから鋭い矢が一本、発射された。


「うわっ⁉ ビックリした……なるほど、今のがレンド君の挨拶なんだね。よし、いくよ!」


 オレは一気に間合いを詰めて、レンドの君の懐に入り込む。


「いくぞ! 【斬撃スラッシュ】!」


 そして剣技レベル1で覚えた、斬撃を繰り出す。

 基本的な斬撃で、威力はそれほど高くはないが、発動は早い。


 ピコーン。


 おっ、攻撃が当たった時、レンド君の身体に《001》の表示が出てきた。


 なるほど、今回はあの数字を《100》まで上げればいいんだな。

 レンドの君の弓矢攻撃を回避して、ボディーに攻撃を当てればいいだろう。


 今の感じだとレンド君の身体は、特殊な材質。

 斬撃スラッシュでも傷一つ付いていない。

 これなら安心して攻撃できる。


 ガシャ、ガシャ、ガシャ。


 ん?

 レンド君が廊下の向こうに、離れていったぞ。


 ああ、そうか。

 弓矢攻撃だから毎回、ああして間合いを離して、仕切り直しするのか。


「よし、ルールは分かったから、ここからはドンドンいくぞ!」


 オレは回避&攻撃のトレーニングに挑んでいく。


 レンド君の攻撃は最初、単発の弓矢攻撃だった。


 だが先ほど同じように回数が増えていくたびに、攻撃は激しさも増していった。


「次は55回か……なんだ、この連射は⁉ クロスボウで、こんな連射が可能なの⁉」


 後半のレンド君の攻撃は半端なかっか。


 クロスボウは普通、あまり連射はできない。

 だがレンド君は、雨あられのように連射してきた。


 ああ、そうか。

 だから連弩れんどくんなのか。


「くっ! それに回避力も、なかなかだね、レンド君は⁉」


 だんだんオレの斬撃が、当たりにくくなってきた。

 これはマズイ。


 オレ自身の矢の回避は、何とかなりそう。

 でもレンドに攻撃を当てられないと、このトレーニングが永遠に終わらないのだ。


「ちょっと、たんまレンド君!」


 このままではらちが明かない。

 トレーニングを、いったん中断してもらう。


「よし。こうなったら、ステータスを上げよう!」


 紋章を起動して、ステータスを表示。


《剣技(片手剣)レベル1→2にしますか?(必要スキルポイント2)》

 □YES

 □NO


「□YES だ!」


《ピローン♪ 剣技(片手剣)レベル1→2になりました》


 途中で上昇させたのは剣技のスキル。

 笛のような音が流れ、次なる文字が出てきた。


 念のためステータスも確認しておく。



 ――――《ステータス》――――


 □名前:ハリト(♂16歳)

 □職業:剣士

 □メインレベル3

 ↓スキルポイント:2→0


 □スキル

 UP!剣技(片手剣)レベル1→2

 └斬撃

 □回避(受け流し)レベル1


 □固有

 ■■■■■■■■■■


 UP! 身長148センチ

 ――――◇――――


 おお、ちゃんと、剣技(片手剣)レベルが2に上がっているぞ。


 試しに素振りをしてみる。

 今まで以上に何倍も剣筋がいい。

 イメージに近い感じで、攻撃を繰り出せようだ。


 よし、レンド君、再開お願いします!


 ウィーン! ビュン! ビュン!ビュン! ビュン!


 おっしゃ、いくぞ!


 どんどん回避して、レンド君に攻撃を当てていくぞ。


 その後もトレーニングは続いていく。


 90回代に突中した瞬間、レンド君の攻撃が更にヒートアップしていった。


 狭い通路での戦闘なので、剣のオレは圧倒的に不利。


「いくぞ、レンドくん!」


 でもオレは諦めに挑んでいく。

 レンド君の予備動作を観察して、発射してくる場所を予測。


 豪雨のような矢の攻撃を、ギリギリのところで回避。

 一気に間合いをつめて、レンド君に剣技(片手剣)レベル2の斬撃を当てていった。


「99回! よし、次でラスト。レンド君、最後よろしくお願いいたします!」


 いよいよ100回目。


 レンド君が不規則的な高速移動を開始。


 ウィーン! ビュン! ビュン!ビュン! ビュン! ビャル! ビャル! ビャルルルル!


 同時に四個のクロスボウで、豪雨のように矢を連射してくる。


「くっ! はっ! とう! せい!」


 だからオレは持てる全ての技術で、回避。

 剣でも矢を受け流しながら、レンド君に突撃していく。


「よし、間合いに入った!」


 ウィーン。


 だが、その直後、レンド君の胸がオープン。

 第五のクロスボウが出現した。


 くっ……これがレンド君、最後の切り札なのか!


「でも! 【斬撃スラッシュ】だぁああああ!」


 寸前で切り札を回避、オレは斬撃をぶち当てる。


 同時にレンド君の身体の表示が《100》なり、動きも止まる。


 ふう……今回もなんとか、やりきったぞ。


 思わずその場に、上向きに倒れ込む。

 今回は予想以上に、きつかった。


 もはや立つことも出来ない状態。

 本当にギリギリの状態でゴールしたのだ。


 でも何とも言えない充実感。

 やっぱり実戦的な鍛錬は、楽しいな。


 さて、天の声よ。

 オレはやりきったぞ。


 今回はどうなるんだ?


 ☆《回避&攻撃100回トレーニング・ミッションが完了しました》

 ☆《特別経験値が付与されました》

 ☆《ハリトのメインレベルが1上昇しました》

 ☆《スキルポイントを4ゲットしました》


 よし!

 今回もレベルが上がったぞ。


 密かに期待はしていたけど、本当にレベルが上昇すると、やっぱり嬉しいものだ。


 何しろ普通ならレベル3になるには、年単位でかかる者もいる。

 オレも死にかけたけど、こんな短時間の上昇は奇跡的なのだ。


 でも驚く前に、ちゃんとステータスを確認しておこう。

 ぬか喜びしないように、確認はクセにしないとな。


 よし、ステータスの記号をタッチだ。



 ――――《ステータス》――――


 □名前:ハリト(♂16歳)

 □職業:剣士

 UP!メインレベル3→4

 UP!スキルポイント:0→4


 □スキル

 ・剣技(片手剣)レベル2

 ├斬撃スラッシュ

 └New! 飛斬スラッシュ・カッター

 ・回避(受け流し)レベル1

 └New! 見切り


 □固有

 New!《観察眼》

 ・■■■■■■■■■■


 UP! 身長148→152センチ

 ――――◇――――


 おお!


 ちゃんとレベルが4になっている。

 やったぞ!


 ポイント大盤振る舞いで4も増えている。

 振り分けるスキルは、もう少し考えてからによう。


 ん?

 あと他にも細かいのが増えているぞ。


 剣技(片手剣)系の新しい技の『《飛斬スラッシュ・カッター』は、何だろう?


 また体力も回復していたから、試しに発動してみる。


 ビュン!


 おお、剣から斬撃は発射されていったぞ。

 有効射程距離は中距離くらい。

 かなり便利な使い方が出来そうだ。


 あとは『見切り』は回避系だろうな。

 後で試しておこう。


 ん?

 固有の《観察眼》って何だろう?


 今までのスキルとは違う感じだな。


 とりあえずタッチして確認してみよう。


 ☆《【観察眼】:実はアナタは生まれ時から、優れた観察眼を持っていました。それが開眼。今後は対象の“色んなことを見る”ことが出来るよ。レベルが上がると“見える”内容が増えていくので、試していこう》


 ん?


 なんか、曖昧な表現だな?

“見る”って何だろう?


 それに、これは【固有】スキルだったのか?


 たしかにオレは幼い頃から、どんなことも観察してきた。


 何しろ呪いによって身体が小さく、力も弱かった。

 だから、とにかく相手や周囲を観察して生き延びてきた。


 きっと、そのお蔭で固有として開花したのかもしれない。


 この【観察眼】も今後で試していこう。


 ポワーン♪


 あっ、レンド君が、ゆっくりと床に消えていく。

 役割を終えたから、彼も帰ってしまうんだ。


 少し悲しいけど、今は笑顔で見送るべきだ。


「レンド君、本当にありがとうございました! きっとレンド君も、手加減していたんだよね? だからオレがもっと強くなったら、次は本気のレンド君とまたトレーニングしようね!」


 ウィーン


 あっ、レンド君が完全に消える直前。


 ちょっとだけ笑ったような気がする。

 怖い表情がないから、そんな訳はないかしれない。


 でも苦楽を共にしたオレには、たしかにそう見えていたのだ。


「ふう……さて、次は何のトレーニングだ、元気だから、どんとこい! また部屋の形が変わるのかな? それとも地面から、出てくるのかな?」


 だがオレの予想はまた大きさ外れる。


 シャン、シャン♪


 鈴のような音が鳴った瞬間。


「えっ……これは……」


 目の前に扉が出現していた。

 後ろを振り返ると壁しかなく、後戻りは不可能。


 つまり前にしか進めないのだ。


「よし、開けてみるか……」


 おそるおそる扉を開ける。


 直後、外から眩しい陽の光が、差し込んできた。


「えっ……ここは、もしかて?」


 足を踏み出した場所は、見覚えのある風景。


「ここは迷宮都市ガルドの広場か?」


 ここは自分の生まれ育った街。


 そうか……オレは、あの不思議な空間の部屋から、脱出できたのか。


 ピローン♪


 ☆《チュートリアル終了しました》


 声に反応して後ろを見る。


「あっ……扉が……」


 出てきた扉が、ゆっくりと消えていく。

 きっと役目が終わったので、消えてしまうのだろう。


「短い期間でしたが、ここまで本当にお世話になりました! キミたちの……あの部屋のトレーニングのお蔭で、オレは、ようやく冒険者のスタートラインに立てました!」


 頭を深く下げて、最後まで見送る。

 不思議だったけど、最高に充実した鍛錬の場の全ての存在に、感謝だ。


 シャン


 扉は完璧に消滅。

 これでもう戻ることは出来ない。


 きっと、あの不思議な天の声も、もう二度と聞くこともないだろう。

 信じられない速度でレベルアップも、もう二度と出来ない。


 ここからはオレはまた一人。

 迷宮都市で普通の見習い冒険者として、地道に仕事に精を出す必要があるのだ。


「よし。またコツコツと努力していくか……」


 不思議な力を失っても、今のオレには怖いものはない。

 何故なら普通の冒険者と同じように、今後のオレはレベルアップが出来るのだから。


 何年かけても、数十年かけても、一人前の冒険者になってやるんだ!


 ――――だがオレの予想は、また大きく外れる。


 ☆《チュートリアル終了。次は初心者育成モードに移行します》


 えーー⁉


 また天の声が聞こえてきたよ!


 今度は街や迷宮の中で、なにかトレーニング的なものが、あるのかな?


 なんか、嫌な予感しかしないんですけど……。

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