第2話レベルアップへの道
左甲の新しい紋章を触ったら、奇妙な文字が空中に浮かんできた。
☆《【成長阻害の呪印】反転完了》
文章を読み上げる中性的な声も、同時に聞こえてくる。
☆《これより【反転モード】のチュートリアルをスタートします》
え……反転モード? チュートリアル?
なんだ、これは?
もしかしたらオレは偶然、死から帰還。
変な白昼夢で見ているのだろうか?
いや……違う。
またホッペをつねったら、やっぱり痛い。
これは夢ではなく、現実だ。
この奇妙な部屋には出口はない。
他に選択肢はない、とりあえず案内に従って進めていこう。
☆《あなたは一人前の冒険者になりたいですか?》
□YES
□NO
ん、また、次の文字が出てきたぞ。
しかも選択方式で、選べと指示される。
分からない文字もあるけど、なんとなく分かる気がした。
きっと文字や文章が読めない人でも、頭の中で理解できるシステムなのであろう。
「さて、質問に答えるか。というか……『あなたは一人前の冒険者になりたいですか?』だって? そんなのはオレには愚問だよ!」
迷わず□YESをタッチして選択。
おっ、次の質問が出てきたぞ。
☆《その場合、過酷な運命があなたを待ちかまえています。本当に大丈夫ですか?》
□YES
□NO
「過酷な運命か……そんなの屁のカッパだ! YES!」
また迷わず□YESを選択。
さて、次はどんな質問がくるんだ?
どんどん、来いよ。
今のオレは絶望の死の淵から、帰還したばかり。
怖いモノなど何もない!
☆《トレーニング・モードを開始します》
ん?
質問はもう終わりかな?
☆《まずは自分のステータスを確認してみよう》
そんな文字と共に、何かの記号が浮かんでいる。
右手でタッチする。
――――《ステータス》――――
□名前:ハリト(♂16歳)
□職業:剣士
□メインレベル1
□スキルポイント:0
□スキル
無し
□固有
■■■■■■■■■■
――――◇――――
なんか新しい文字と数字が浮かんできた。
ん……これは何だろう。
でも、どこかで聞いたことがある、単語もあった。
「あっ、そうか。司祭様の使う『鑑定の石板』に、ちょっと似ているかな?」
冒険者の能力を数値化する『鑑定の石板』という魔道具がある。
触った者の『職業、メインレベル、スキル』の三つを、知ることが出来るのだ。
メインレベルは冒険者の強さの基準値。
最低の1から最大で99までと言われている。
スキルは剣術や隠密、魔法など色んな特技のこと。
こちらが最低の1から10までと言われている。
ちなみに最近使ったオレは【職業:剣士、レベル1、スキル:無し】という七歳の時から全く成長してない悲しい結果だった。
あっちに比べて違うのは、『名前、性別、年齢、スキルポイント、固有』が増えていることか?
ん?
この『スキルポイント、固有』って、なんだろう?
名前、性別、年齢は理解できる。
でも、この二つは初めて聞く。
とりあえず『固有』を触ってみる。
☆《【固有】:その人物が先天的に所有しているもの》
ん?
つまり普通の取得スキルとは違って、その人が生まれた時から、持っている何かかな?
オレのは……■■■■■■■■■■
何だ、これ?
とりあえず触ってみよう。
☆《ブー! 現在のレベルでは全解放されていません》
おっと、何やら不吉なラッパの音みたいのが鳴ったぞ。
ちょっと、怖い、文章も意味が分からない。
これは後回しにしておこう。
さて、次は『スキルポイント』に触ってみよう。
☆《スキルポイント:会得したスキルのレベルを、任意で上昇できるポイント。レベル上昇等によって習得可能》
なるほど、こっちは何となく分かりやすい。
つまりレベルを上げることが出来たら、自分の好きなスキルのレベル上げることが出来るのだ。
「ん? え? 『自分の好きなスキルのレベル上げることが出来る』……いや、そんなのは、あり得ないだろう!」
思わず叫んでしまう。
何故なら、オレの知っている冒険者のスキルシステムには、次の二つの法則ある。
【どんなスキルを習得できるのは運しだい。本人は選べない】
【どのスキルが上昇するかも運しだい。本人は選べない】
これはスキルシステムが発見されてから、数百年間も変わらない絶対法則。
どんな天才剣士や大賢者でも、
それが自分の意思で決められる、だって?
「い、いや……これが本当なら、このスキルポイント配分システムというのは……凄いぞ……」
今までのスキルレベル自動上昇システムだと、弊害が多い。
例えば剣士なのに、いらない魔法スキルが上昇してしまう、危険性もあった。
逆に魔法使いが、鍛冶スキルが上昇しちゃうとか。
だから冒険者にとってスキルのレベルのアップは、毎回神に祈る気持ち。
それがこの説明では、運要素がまったくのゼロ。
極端な話、レベルはそこそこでも、専門のスキルを特化していけば、すごい達人になれるのだ。
「い、いや……まて、オレは何を浮かれているんだ。そのためにはレベルを上げないといけないのにさ……」
肝心なことを忘れていた。
オレは生まれた時からの呪いで、レベルを一個も上げること出来ない。
今後もスキルは、会得は不可能。
つまりこのスキルポイントは『猫に小判』で『ハリトにスキルポイント配分システム』なのだ。
だが次に表示された文字に、オレは自分の目を疑う。
☆《ステータス画面を確認。次はトレーニング・ミッションでレベルを上げてみよう》
えっ……『レベルを上げてみよう』……?
な、何だ、これは……。
もしかしてオレの心の声が聞こえていたのか?
というか『トレーニング・ミッション』って何だろう……?
とりあえず文字を触ってみる。
☆《トレーニング・ミッション、その1:攻撃を覚えるために、まずは素振りを1,000回やってみよう》
あっ、また出てきた。
ん、何だこれは?
随分と具体的なモノが出てきたぞ。
しかも攻撃を覚えるために『素振りを1,000回』って、随分と安易だな。
「あっはっは……狐に騙されたと思って、とりあえずやってみるか!」
オレは愛用の短剣を抜こうとする。
いや、短剣がない。
そうだ、さっきの
それなら、どうやって素振りをしよう?
☆《あなたの好きな武器を選んでください》
□短剣
□小剣
□片手剣
□両手剣
□槍
□斧
□ハンマー
□弓
>>次の武器へ
ん?
なんか、また文字が出てきたぞ。
好きな武器のアンケートかな?
「それなら……『片手剣』を一択だ!」
幼い時から、オレは剣士の片手剣に憧れていた。
だが今まで実戦では、短剣しか使っていない。
原因は呪いによって身体が小さく、大人の片手剣が持てないこと。
あと貧乏だから、高価な剣は買えなかったからだ。
でもアンケートなら、本当に好きな武器を選んでもいいだろう。
☆《スタンダード武器に『片手剣』が選択されました。それでは素振りを1,000回やってみよう》
ボワン!
えっ……なんだ、これ?
いきなり片手剣が地面に現れたぞ⁉
試しに持ってみるが、普通の片手剣だ。
武器屋で売っている、一般的な品質くらい。
つまり、これで素振りをしろ……ということか。
よく分からないど、剣があるのは嬉しい。
やってやろう!
「よし、いくぞ! 1、2、3……」
誰もいない密室で、オレは素振りを開始する。
けっこう大変だった。
なぜなら身体が貧弱なオレは、いつも軽い短剣を使っていた。
だから、この片手剣はかなり重い。
正直なところ、かなり辛い。
「200! 201! 202!……」
だがオレは必死で、重い剣を振るう。
何故なら今のオレには、微かな目標があるから。
――――もしかしたらレベルアップが出来るかもしれない。
その希望を胸に、突き進んでいたのだ。
「400! 401!……」
それに、こうしたコツコツとした鍛錬は大好き。
この九年間も、一日も欠かさずにやってきたこと。
毎日、数百、数千回と繰り返して鍛錬だ。
だから重い剣だとしても、今さら1,000回ぐらいには怯みはしない。
絶対にやりきってやる!
「998……999……1,000!」
ふう……なんとか、やりきったぞ。
うっ……予想以上に、きつかった。
もはや右腕は上がらない。
でも何とも言えない充実感。
やっぱりコツコツした鍛錬は、楽しいな。
心が無になり、永遠とやっていけそうだ。
さて、天の声よ。
オレはやりきったぞ。
この先はどうなるんだ?
ちょっと休憩したら、オレはまだやれるぞ。
☆《素振り1,000回のトレーニング・ミッションが完了しました》
☆《初回特別経験値が付与されました》
☆《ハリトのレベルが1上昇しました》
☆《スキルポイントを1ゲットしました》
えっ……?
な、なんだ、これは……?
今まで一番、今までの人生の中で驚いた。
(レ、『レベルが1上昇』……しました……?)
信じられない。
おそるおそる自分のステータスの文字に、右手を伸ばす。
今のお告げが本当なら、もしかしたら、オレは……
――――《ステータス》――――
□名前:ハリト(♂16歳)
□職業:剣士
UP! メインレベル1→2
UP! スキルポイント:1
□スキル
NEW剣技(片手剣)レベル0
□固有
■■■■■■■■■■
UP! 身長140→144センチ
――――◇――――
ああ…………これは、間違いない。
本当だった。
――――【UP! レベル1→2】
その文字を見て、オレはその場に膝をつく
あまりにも衝撃的な……あまりにも夢のような出来ごとに、全身の力が抜けてしまった。
ステータス画面には、他にも変更箇所があった。
だがオレにとっては、何よりも【UP! レベル1→2】が衝撃的すぎたのだ。
「そ、そうか……オレはついに……レベルを上げることが、人と同じように成長できるようになったのか!」
この九年間の血のにじむような、毎日の鍛錬。
頭の中をフラッシュバックしていく。
自然と目から涙が……歓喜の涙がこぼれおちてくる。
うっうっ……今まで諦めずに、頑張ってきて、本当によかった……
☆《トレーニング・ミッション:習得したスキルポイントを、好きなスキルに配分してみよう》
えっ……?
だが歓喜の涙を、流している場合ではなかった。
次なる衝撃的なミッションが、オレを待ちかまえていたのだ。
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