理不尽な呪いでも決して諦めなかった冒険者、【反転】スキルポイントで最強へ駆け上がる

ハーーナ殿下

第1話不遇だった人生

 十六歳の冒険者のハリトは、不遇な人生を歩んできた。


 生まれてすぐ親に捨てられ、孤児院で育てられた。


 ――――この《迷宮都市ガルド》の孤児の運命は、ほぼ次のように決まっている。


 七歳を越えると、生きるために院を出て、冒険者見習いとなる。

 最初は他の冒険者の靴磨きや、身の回りの世話の仕事。

 まるで奴隷のような毎日だ。


 十歳を過ぎてからは、迷宮での荷物持ちや、魔物の解体の仕事。

 過酷な迷宮での仕事で、かなり貧しい毎日だ。


 十二歳まで生き残ると、ようやく希望が見えてくる。

 身体も大きくなり初級冒険者として、半前として迷宮に挑戦が可能に。

 分け前は半分しか貰えないが、生活は一気に改善される。


 成人の十四歳を過ぎると、身体も大人と同じくらいに成長してくる。

 才能ある者は、一人前の冒険者として頭角を現すこと可能。


 そして十六歳まで生き延びると、もはや誰も子供とは見てこない。

 一人前の冒険者として、迷宮に自らパーティーを組んで挑戦。

 運が良い者は、一攫千金を手にすることも。


 ――――だが十六歳のハリトは、それよりも不遇で過酷な人生を歩んできた。


 そして今は更に、彼は死の窮地に落ちっていた。


 ◇


「くっ……もはや、ここまでか……」


 今オレは自分の“死”を目前していた。


「まさか、こんな低層に、ランクDの大鬼オーガが、突発的に湧き出るなんて……」


 目の前に迫ってくるのは、鬼のような顔の巨人。

 手には丸太のような棍棒を持つ、危険な魔物の大鬼オーガだ。


「くっ、やっぱり、出口は無理か……」


 この部屋から逃げようにも、出口は塞がれている。

 大鬼オーガを倒さない限り、絶対に開かない。


 また反対側の出口の前には、大きな断崖。

 空を飛べない限り、向こう側の出口には到達は不可能。


 つまり……絶体絶命なのだ。


「くそっ……オレに、もう少し力があれば……」


 思わず毒を吐く。


 自分には生まれた時から“ある呪い”があった。

 孤児院の司祭様の話では【成長阻害の呪い】という名らしい。


 その悪影響ですでに十六歳になのに、オレはレベルが1のまま。

 身長も140センチしかない。


 これは明らかに異常。

 孤児院の同期の連中は、十六歳で全員がレベル5以上。

 中にはレベル10を超えている強者もいる。


 つまり未だにレベル1なオレは、一人だけ異常なのだ。


「くっ……まったく本当に、“この呪い”のせいで、報われない人生だったな……」


 オレの呪いの存在に気が付いたのは、物心ついた時。

 左手の甲に、黒い紋章が浮かんでいたのだ。


 すぐに孤児院の司祭様に鑑定してもらった。

 結果は【成長阻害の呪い】の呪印だという。


 だが当時のオレは不貞腐ふてくされなかった


 ――――『そっか、呪いがあるのか……でも、ボクは負けないぞ!』


 だから今まで必死に努力をしてきた。

 呪いを跳ね返すために。


 運命に腐らずにこの九年間、毎日の鍛錬を続けてきたのだ。


 ――――だが何歳になっても、努力は開花しなった。



 自慢できることではないが、この九年間、本気で努力してきた。

 一人前の冒険者になるために、必死で鍛錬を積んできた。


 他の誰よりも早起きして、体力作りに励んできた。

 訓練用の木剣の素振りと稽古は、他人の数倍の稽古量。

 一日たりとも欠かしたことはない。


 だが成人の十四歳を過ぎて、才能が開花することなかった。

 他の同期組に、続々とレベル2に成長している中。


 どんな努力をしても、オレだけがレベル1のままだった。

 そして何も変わらないまま、今の十六歳に至るのだ。


「いや……オレよ、自分に負けるな! 『努力は必ず実る!』 開花しないのは、オレの努力が足りないからだ! だから、この窮地も絶対に生き残るぞ! よし、いくぞ!」


 過去を思い返し、意を決した。

 目の前の大鬼オーガに向かって、突撃していく。


『ガォオオオオガ!』


 岩をも砕く大鬼オーガのこん棒が、オレの頭上に振りかざされる。

 威力は高いが、隙もあった。


「今だ!」


 そのタイミングを狙っていた。

 オレは唯一の武器である短剣で、大鬼オーガの脇腹を狙う。


「よし! いける! あっ……」


 だが棍棒はフェイントだった。

 大鬼オーガの蹴り足が、目の前に迫ってきたのだ。


「うっ⁉」


 咄嗟に短剣を捨て、両腕で防御。


 ボキリ!


 防御ごと両腕の骨が折れる。

 そのままオレはボール球のように、吹き飛ばされてしまう。


 落下地点は深い断崖の底。

 手足を伸ばしても、崖には届かない場所だ。


(あっ……)


 そのまま深い崖の下に落下。

 加速が増していく、オレはドンドン落ちていく。


(これは……オレは……死んだな……)


 深い崖を落ちていきながら、実感する。

 これが死だということに。


 かなりの深さなのであろう。

 走馬灯そうまとうのように、オレは周囲がゆっくりと感じられる


 だが身体を動かすことも出来ない。

 このまま地獄の底にでも叩きつけられて、オレは即死するのであろう。


(くそっ……この【成長阻害の呪い】のせいで……本当に不遇な人生だった……)


 この十六年間の記憶が、一気に脳裏をフラッシュバックしていく。


 本当に色んなことがあった人生だった。


(いや……違うな。この【成長阻害の呪印】のお蔭で、逆にオレは今まで生き延びてこられたのかもな……)


 同期組の中では十代前半で、命を落とす者も多い。

 冒険者とはそれほど過酷な職業。


 オレが十六歳まで生き延びられたのは、常に慎重に冒険をしてきたから。

 呪いでレベルアップ出来なかったから、人の何倍も慎重に生きてからだ。


(そう考えると最期くらい、“コイツ”に感謝しておかないとな……)


 左甲の漆黒の呪印に、視線を向ける。


 この特殊な呪印のお蔭で、オレは十六年も長生きできた。

 他の冒険者が経験できないような、色んな経験が出来たのだ。


 ――――だが、そんな自分の冒険者人生も今、幕を閉じようとしていた。


(次の人生では……願わくば『一人前の冒険者になりたい』な……さらば、我が相棒……呪印よ……)


 苦楽を共にしてきた人生の友、左甲の呪印に別れの挨拶を告げる。


 ――――そこで意識は途絶える。


“死”がやってきたのだ。


 ◇


 ◇


 ◇


「う……ここは……?」


 オレは目を覚ました。


 そして思った。


 ここは天国なのか?


 いや地獄かもしれないと。


 それにしても不思議だな?


 先ほどまで記憶が、今もはっきりしている。


 司祭様の話では、死後は前世の記憶が、全て消えるというけど。


 もしかしたら、もうすぐしたら記憶が全部消えてしまうのかな?


 本当に不思議だな。


「いや……ちょっと、待って? オレ、生きている……?」


 ようやく気が付く。

 ために自分のほおをつねってみる……すごく痛い。


 やっぱり生きているんだ、自分は。


「そして、ここはどこなんだ?」


 目を覚ましたのは、十メートル四方くらいの部屋。


 出口がどこにもなく、上を見ても天井が見えない。


 なんだ、ここは?


 オレは断崖に落ちたはず。


 もしかしたら隠し部屋にでも、たどり着いてしまったのだろうか?


 いや、それにしても、この部屋は不思議だ。


 床や壁が見たこともない素材。

 まったく継ぎ目がないのだ。


「ん……あれ? 呪印が……?」


 ふと、自分の左手の甲に、視線を向ける。


 そこにあったのは、今までとは違うもの。

 漆黒の呪印ではない。


 白銀に輝く、美しい幾何学的な紋章になっていたのだ。


「な、なんだ……これは?」


 思わず右手で触ってみる。


 直後、異変が起きる。


 ☆《【成長阻害の呪印】反転完了》


 えっ……変な文字が空中に浮かんできたぞ。


 あと中性的な声も聞こえてくる。

 この声はいったい誰だ?


 ☆《これより【反転モード】のチュートリアルをスタートします》


「えっ⁉ なに……これ⁉」


 こうしてオレは理不尽な呪いから解放されて、誰も知らない力の扉を開けたのであった。

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