第27話 黒衣の花嫁②

 廃墟と化した“月雲つくもの民の眠れる地”。

“月雲の都”……。そこで私は2つの“出逢い”を果たす。1つはとても嬉しいが、その反面“後悔が多くなる出逢い”。

 そう、魂は“冥門ダークプリズン”に囚われている“リデア”。彼女の今の姿は“実体”の無い幻影みたいなものだ。

 本来の彼女では無い。何故そんな事が可能なのかは今の私には解らない、只“呼応”して彼女はココに居る。

 そして……もう1つの出逢いは、私を“監視”する存在との出遭いだった。

 彼女は“黒衣の花嫁”と言う存在の様だ。見た目はほぼ、“女神”に近い。だが、“漆黒の女神”だ。

 姿カタチ、キトンまでも漆黒。只、不思議なのは顔、手、足など素肌と呼ばれる箇所は白い。

 雪花石膏せっかせっこうの様に。けれども、瞳、そしてその眼は黒く発光している。体長は4メートルを超す大物だ。

 これが“魔物”ならルシエルが喜ぶ。何故なら当分“肉”に困らない食事が出来るからだ。

 けれど、今の彼は“生命の女神ルカーナ”の傍で何やら気難しい顔をしていて、私とは目を合わせようともしない。項垂れてる訳ではなく、私を見ようともしていない。まるで、傍観者の様に。

 そして……ブロンド髪をした愁弥しゅうや

 (ん?)

 さっきまで女神レイネリス……蒼く光る女神の発光体の傍に居た筈なのに、その姿は無かった。

 「え!? 愁弥!?」

私がそう言うと隣で私と同じ様に浮いてる黒いリデアが言った。

 「どうしたの? 瑠火るか?」

 リデアは正面を見据えている、無表情、真っ黒な姿で。その声も無感情に聴こえる。

 「や? 愁弥が居ないんだ! さっきまでレイネリスと居たのに!」

 私はリデアを見てそう言うと彼女は、 ふふっ。と、笑ってないのに口元から笑みの声だけ零した。無感情、無表情の人形みたいな彼女に私は聞く。

 「え? 何?」

すると、リデアは真っ黒な瞳を下げた。私の足元に、視線を落としたんだ。

 「良く見てみなさい、瑠火。」

 その声に私は自身の足元を見た。私とリデアは4メートル超す黒衣の花嫁と同視線に居る。浮いてるのだ全身が。私の足元に彼は居た。蒼く煌めく神剣を握りそこに居たのだ。それも、私とリデアより少し前に立って。

 「愁弥っ!?」

 私が叫ぶと愁弥は振り返らないけど言ったんだ。

 「瑠火、俺にとって“1番護りてーのは瑠火”なんだ、それは嘘じゃねー、大事なモンは色々あるがそれは生きてきた“証”でもある。けど、今は瑠火なんだ。それは解ってくんね? いい加減。」

 私は……それを聞いて何だかとても……胸が熱くなった。良くは解らない、けれど“同じ”だったから。私が思う事と愁弥が思ってる事が“同じ”だった。だから……熱くなったんだ。

 “愛されてるのよ”

 さっきリデアが言った言葉が頭を巡った。

 (……ならば……私もきっと………同じ。“愛”は良く解らないけど……、たぶん……同じなんだと思う。私が愁弥を思う気持ちと。)

 愁弥には応えられなかったけど、ぎゅっ。と、私は虹色に光る双剣を握り締めた。そして、目の前に居る“黒衣の花嫁”を見据えた。彼女の右手は黒い光を溜めていた。波動が来る。と、私は身構える。双剣を向ける、黒衣の花嫁に。

 『瑠火! 護りたい者は守る! “先手必勝”よ!』

さっきリデアに言われた言葉が頭を巡った。

 (ココは“月雲の民の眠る地”、謂わば私のフィールド。ならば使える筈だ。“月雲の秘術”が。)

 魔法や魔術にもある“禁呪”。それに似たモノは月雲の民にもある。けれど、あの“樹氷の島”では使えなかった。何度が試したが発動しなかったのだ。腐る程、時間はあったから私は白雲しらく村長の家に入り浸り、毎日の様に“文献”、“古代月雲の術”なんかを読み漁った。ほぼ独学でそれらを習得しようとしてた。けれど、この黒衣の花嫁が言う様に………、 

『お前達“月雲の民”は、創造神を……いや、この世界を創った神によりこの世界の“自然”を守護する為に産み落とされた存在。つまり……神が創造した世界を護る存在。自然……謂わば、アルティミシアそのもの。』

 そう、私達の“術”は自然に特化したものが多くて、樹氷の島では殆ど使えなかったのだ。だから、白雲村長に伝授された“聖霊力チャクラ”で、月雲の基礎術しか使えなかった。

 (ココは私達の地。つまり……“無敵状態”、それならば使える筈だ。眠れる民の魂たちが力を貸してくれる筈!!)

 私は双剣を振り降ろした。

黒い光を右手に溜めて放とうとしてる黒衣の花嫁目掛けて。

 「“天地呀犀てんちがっさい”!!」

 振り降ろした双剣から放たれるのは虹色の光の竜巻。けれども、彼女の黒き姿はその中で回転する。

 「は??」

 黒衣の花嫁は波動を撃つのを忘却する程に、全身竜巻の渦の中で、猛回転。ぐるんぐるん。と、頭、足と天地がひっくり返る様に宙で、でんぐり返しするのだ。縦にでんぐり返しするその身体は、竜巻の中で切り裂かれる。飛び散る黒衣の花嫁から真っ黒な血飛沫が。それは竜巻の外にまで飛散する。

 「黒い血!? 瑠火! アイツは何なんだ!?」

 愁弥の声だった。すると、隣に居るリデアが言う、淡々と。

 「魂を売った者の血は“漆黒”なのよ。アレは女神でも何でも無い。“黒い闇”に魂を売った。だから“黒衣の花嫁”。」

 リデアは言うと双剣を握っていた。そして、私を見た。

 「瑠火、見て。」

 無表情のリデアの淡々とした声に私は、竜巻の中ででんぐり返ししながら、風圧と風刃で全身を切り裂かれてる黒衣の花嫁を見た。けれども、その竜巻の周りに“黒い火の玉”が浮かんでいるのを知った。それは幾つもであり、傷つけられる彼女の周りを囲う様に集まり出したのだ。

 「あれは何? リデア。」

私が聞くとリデアは応えた。

 「“闇の精霊”。黒衣の花嫁に従ってるのね。」

 「は? 精霊ってちょい待て、そんなダークな連中だったっけ!?」

 そう言ったのは愁弥だった。けれど、リデアは言う。

 「“光”と“闇”の精霊は特異なの。他の精霊とは少し違う。“力”に惹きつけられる存在なのよ。だから、あの闇の精霊達は彼女に惹きつけられてる、そして……“従ってる”。」

 淡々と言うリデアと私の足元で愁弥が言う。

 「従ってるって……つか、瑠火、俺らが会った樹氷の精霊は、なんか自由だったよな?」

 「だから言ったでしょ? 他の精霊と違うんだって。もぅ。愁弥ってほんっと、人のハナシ聞いてないよね?」

 愁弥の言葉にまるで叱咤する様な言葉を発したリデアに、私は少し笑ってしまった。彼女は無表情で口調も語り部みたいで、感情なんて一切汲み取れないのに、何だか一緒に旅してた時の口調が思い浮かんで、私は笑ってしまったんだ。

 それは愁弥も同じだったのか

 「あ〜……悪い。」

 と、ちょっと申し訳無さそうに言ったんだ。それもまた私にはとても懐かしくて……哀しいけど、笑ってしまった。

 「別にいいけど。」 

 彼女のその言葉も何だか……切なく感じてしまった。

  

 

 

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